第33話 報告

「それじゃぁ、宮本君、座って楽にしてください。状況報告といっても、軽い面談程度の話なので、気楽に構えてくださいね」

「あ、はい」


 殺風景な部屋で、シンプルなパイプ椅子に腰掛ける。テーブルを挟んで、大輪さんも椅子に腰掛けた。


「『開眼』してからだいたい一ヶ月ですが、生活はどうですか? 自分の中で目立った変化は起きてる気がします?」

「目立った変化は、特にはありませんね。冒険者にはなっていませんし、今まで通り普通に高校行ってます。将来も、ジョブとかスキルが関係ない仕事をしようかなって思ってて」

「なるほど。じゃあ、真面目に学校に通って、勉強も疎かにしていないということですね?」

「はい。そうですね」

「それなら安心ですね。『開眼』して、生活が一変してしまう人も少なくないんですよ。先ほども、『開眼』前と後でだいぶ雰囲気の変わってしまった二人が状況報告に来ていました。『開眼』前は、大人しい印象の二人だったんですよ。普通に他人と話すのにもガチガチに緊張してしまうような……」


 その二人というのは、先ほど俺たちに絡んできた連中だろうな。


「……そんな二人が、冒険者としては『当たり』の部類のジョブを得て、がらっと性格が変わってしまいました。粗暴で、どこか他人を見下していて、気が大きくなり過ぎていて……勉強も疎かにしてしまっているのだとか。せっかく入学した高校にも不定期でしか通わず、登校しても眠りこけていることも多い……。

 たとえ冒険者として成長が見込めるとしても、そんな風に生活を一変させてしまうのは良くありません。冒険者なんていつまで続けられるかわからない危うい仕事ですし、冒険者として優れているからといって、人間として偉くなれるわけでもありません。

 ……若さ故に様々な思い違いをしてしまうこともあるのかもしれませんが、将来が不安です」

「そうですか……。心苦しいですね」

「はい……。あ、また他人の個人情報話してしまいましたけど、これも他の人には言わないでくださいね! その、宮本君のことが心配だったから、あえて実例を口にしただけで、本当は言ってはいけないんです!」

「わかってます。大丈夫ですよ」

「……本当に、お願いしますね。えっと、話を戻して、宮本君のことです。ずばり訊いてしまいますが、スキル、実際に使ってみました?」

「あ……はい。使ってます」

「そうですか。特殊なスキルなので使いどころが難しいですが、お相手が見つかって良かったです。ちょっとプライベート過ぎるかもしれませんが……スキルを使ったの、さっきの子ですよね?」

「えっと……まぁ、そうです」


 実は既に三人の女の子に使いまして……と打ち明けたらどう反応するだろう? 使う相手を一人見つけるだけでも難しいのに、どういう状況かを詳しく訊かれそうだな……。


「そうですかー。その……大きかったですもんね。望みの大きさにしてあげた感じです?」


 大輪さんの口振りからして、小さいのを大きくした、というイメージで話していそうだ。しかし。


「俺のスキル、望みの大きさにするには一ヶ月くらいかかるんで、まだ途中なんですが……それはさておき、双山さんの場合、逆です。大きすぎるのが悩みで、小さくしてほしい、って言われてるんです」

「な、なんと……。そういう方もいらっしゃるんですね。大きすぎると色々困るとは聞きますから、あり得なくはないですが……」

「まぁ、双山さんも色々悩みがあるみたいで。って、俺もあんまりこういうプライベートについては話すべきではないですよね。双山さんには、ここでの話は内密にお願いします」

「承知しました。お互い様ですね」


 大輪さんがはにかむ。大人の女性のはにかみって、同年代とはまた違った魅力があるよなぁ……。

 その後も、俺の現状がどうなっているか、ほぼ雑談のような形で報告が続いた。

 十五分ほどで、大輪さんが終わりの雰囲気を出す。


「お話をしてみて、宮本君なら今後も問題ないだろうと思いました。特殊なジョブとスキルを手にしたからといって、それに振り回されず、自分の人生を生きてくださいね」

「はい。わかりました」

「……職員としての仕事は以上なんですが……宮本君に、個人的にちょっと相談したいおとが……」

「はい? 個人的に?」


 職員が個人的に相談しても良いのだろうか? きっと良くはないのだろう。大輪さんが声を潜める。


「……宮本君のスキル、私に使うことって、できますか?」

「へ? 大輪さんに? ど、どういうことですか?」

「えっと……男の子にお話しするのは恥ずかしいのですが……私も、胸のことで少々悩みがありまして……。宮本君なら、それも解決できるんじゃないかなーと……」

「できるかもしれませんが、俺のスキルがどういうものか、お話ししましたよね?」


 俺はスキルを使うとき、相手のおっぱいを直に揉まなければならない。そんな破廉恥スキル、自分の体に使ってほしいと思う女性なんてなかなかいないと思うのだが……。


「も、もちろんわかっていますよ。私にも抵抗はあります。でも……私の悩みを解決してくださるなら、医者に触診してもらうくらいの気持ちでいこうかと……。男の子に触れられてしまうのも、性的にちょっと高ぶってしまうというのも、目を瞑ります」

「……大輪さんがそれでいいなら、俺は構いませんけど……。あ、でも、先に許可を取らないといけない相手がいます」

「ああ、双山さんですか? それはそうですよね。宮本君が他の女性の胸を触るのは、いい気分ではないですよね……」

「あー、その、実は、双山さんではないです」

「……ん? 双山さんではない? ど、どういうことですか?」


 大輪さんが戸惑う。プライベート過ぎる話だし、話さなくてもいいかと思っていたが、結局、リムのことも馴れ初めから話すことになった。リムのスキルをぼかしたので少々不自然になったかもしれないが、話せないこともあるといことで、理解を得た。


「ほ、ほう……。そんな相手が……。一ヶ月で婚約まで……」

「リムに話を通したら、大輪さんにスキルを使うことも可能です」

「わかりました。それなら、平良さんにお話ししてみていただければ」

「はい。そうします」

「これ、私の個人的な連絡先です。……このことも、秘密にしてくださいね? 職員の職権乱用で、見つかったらクビになっちゃいます」


 大輪さんから電話番号を書かれた紙片を受け取る。


「……無関係の人には言いませんけど、大輪さん、そういうの多いですね」

「……これでも、宮本君以外には秘密厳守でやってるんですよ? 宮本君は……人として信頼できるように思うので、少し口を滑らせてしまっていますが」

「そうですか……」


 高校生男子なんてそんなに信頼するべきではないと思うが……信頼してもらえるのは、嬉しいな。


「じゃあ、リムと話し合って、改めて連絡します」

「はい。お願いします。許可が取れましたら、具体的にどうしてほしいかもお伝えしますね」

「了解です」


 こうして、俺の一ヶ月目の報告は終了。

 妙なことになっているが、悪い展開ではないはず。しかし……大輪さんの依頼はどいうものだろうか? 比較的慎ましいものをお持ちだが、リムと同じなのかな……?

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