第38話 パーティー

 俺たちは、近くにあった焼き肉屋で一緒に夕食を摂ることになった。ちなみに、食べ放題のお店ではない。俺と双山さんはやや戦々恐々としてしまうが、俺たちの分はリムと美美華で払ってくれるのだとか。おっぱい矯正や仲間探しサポートのお礼だと言うので、今回はおとなしく奢られることにした。

 六人掛けのソファ席の片側に、美美華、俺、リムが座り、正面に崩玉さんと双山さんが座る。個室席になっていて、プライベートな空間になっているのがありがたいところかな。


「肉肉肉肉肉肉肉肉! やっぱりお肉っていいよねぇ。夢が広がるよねぇ」


 一番はしゃいでいるのはリム。リムって焼き肉好きだったんだな。個室席があるからここを選んだんじゃなくて、単純に肉を食いたかっただけ?

 リムが喜んでるなら俺はいいのだが、他の女性陣はどうなのだろう? 必ずしも肉が好きというわけでもないと思うのだが……。


「えっと、皆、焼き肉で良かった?」


 尋ねてみると、美美華はすぐに頷く。


「わたしは、男家庭で育ったし、冒険者としても動き回るタチだから、肉は好きだ」


 ただ、双山さんと崩玉さんはやや迷いがち。


「私も焼き肉は好きだよ。まぁ、食べ過ぎないように気をつけなきゃとか思うし、肉より野菜を食べちゃうんだけどね」

「……私も似たようなものかな」

「あー、二人とも、ごめんね? あたしの好みで連れて来ちゃって。まぁ、ここは肉も鶏も野菜も魚も何でもあるから、好きに選んでよ。食べ放題じゃないけど、比較的安いお店だしさ。あ、崩玉さんの分はあたしが奢るから、遠慮なくどうぞー」

「……そう言われると逆に恐縮して食べにくくなっちゃうよ。自分の分は自分で払う。私だってBランク。まだ学生だから控えめだけど、一ヶ月の稼ぎは五十万くらいはある。大丈夫」

「そっかそっか。今、大学何年生? あ、ってか、今更だけどこのままタメ口でもいい?」

「今年から大学生の一年生。この近くの黒丘大学に進学して、一人暮らしを始めたところなんだ。それと、私には敬語とか使わなくていいよ。堅苦しいの、苦手だから」

「りょうかーい。いい人で良かったね。皆、気安く話そうぜ」


 リム、コミュ力高いよなぁ。相手の懐にすっと入っていく……。見たところ崩玉さんもリムの距離の詰め方を嫌がっていないし、これでいいのだろう。

 ひとまず肉と野菜を注文し、各自ドリンクバーで飲み物を確保したところで、改めて話し合う。


「とりあえず、こっちの紹介ね。あたしは平良璃夢。それで、こっちがあたしの婚約者の宮本武。そっちは双山まどかで、こっちが茨園美美華ね。

 同じ高校に通ってて、今のところは友達グループってところかな。それでね、美美華のことは知ってるだろうけど、美美華っていつもソロで活動してるの。

 でも、そろそろそれに限界を感じてるから、仲間を探してるのね? そしたら崩玉さんを見つけて、二人ならいい具合にパーティー組めるんじゃないかって思ったの。どう? パーティー組んでくれない?」

「ええと……茨園さんと組めるなら、それはありがたいことだけど……私、きっと足を引っ張っちゃう……。さっきだって、誤射で周りの皆を消し炭にしちゃいそうだったし……」

「それ、崩玉さんが連携に慣れてないだけじゃない? あたし、崩玉さんのことはデータでしか知らないんだけど、活動始めてから四年間、ソロで活動してたでしょ? それで、いきなりパーティ組んだら連携なんてできないのも当然でしょ。美美華もずっとソロで、連携は初心者。二人で少しずつ連携の練習をしていったら、いいパーティーを築けると思うよ?」

「そう、なのかな……」

「そもそも、崩玉さんの実力に、あの冒険者三人はついていけなかったんじゃない? でも、美美華なら大丈夫。保証するよ」

「……ううん、保証されても、やっぱりまだ疑っちゃうな。パーティを一度組んでみるっていうのは、ありがたい話だから了承する。でも、それが恒久的なものになるかはわからない」

「ん。まずはそれでいいよ。あー、でも良かった。いいパーティーが見つかって」


 リムはもう完璧に決まった心づもりでいる様子。きっと、『鑑定』で他の人にはわからない何かを見ているんだろう。


「ちなみにさ、まどかから見てどう? 二人の相性はさ。ちょっと、スキルで調べてみてよ」

「あ、うん。わかった」

「双山さんのスキルって?」

「私……その、他言はしないでほしいんだけど、『風の預言者』っていうの。スキルを使うと、何となくいいことがありそうとか、そういうちょっとした未来予測ができる」

「へぇ、それ、いいね。私の冒険のサポートしてほしい」

「茨園さんと組むなら、そうなるよ。えっと……『風よ、我らを導きたまえ』」


 緩やかな風が起こる。そして、双山さんが力強く頷いた。


「二人の相性は、本当にいいみたい。パーティーを組むことで、さらなる高みに至るイメージが見えたよ」

「へぇ……」


 崩玉さんは、双山さんの言葉を聞いてもまだ半信半疑な様子。無理もない。双山さんのスキルでは明確な根拠を示せないのだから、すぐに信じろという方が難しい。


「ごめんなさい。私のスキル、本当にすごくあやふやで……」

「うーん、でも、スキルの力だっていうなら、信じてもいいんだろうね。ジョブが『占い師』の人の占いはエグいくらい当たるって言うし」

「そこまでの信用をされると困っちゃうかもだけど……」


 双山さんが困り顔。崩玉は、安心させるように言う。


「心配しないで。私も現時点でそこまで双山さんを信用しているわけじゃない。予想が外れても文句なんて言わないよ」

「うん。話半分に聞いておいてくれればありがたいかな」


 微笑み合う二人。そこで、リムが口を開く。


「そいじゃ、とにかくパーティーは組めたと。あとさ、もう一つ話があるんだけど……」


 リムが俺の方を見る。


「え? 俺?」

「武、崩玉さんを見て、何か気づいたでしょ?」

「え? 気づいたって……何を?」

「ずっとおっぱい見てたじゃん」

「うぉい! 誤解を招くようなことを言うな! 俺は別に、若さ故の暴走をしているわけじゃないぞ! ただ、その……なんか、気になって……。何かが欠けてるような……妙な感じがして……。でも、その理由がわからないんだ……」


 俺の言葉で、崩玉さんが驚く。


「欠けてるって……わかるの?」

「え? いや、感覚的なもので、自分でもよくわからなくて……」


 崩玉さんが、次の言葉をためらう。だが、リムを見た後、何かを決心して、告げた。


「私……実は、左胸がないんだよね。昔、戦闘で一部消し炭になっちゃって。再生魔法で傷は戻せたんだけど、完全に元には戻らなかったんだ」

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