第37話 仲間探し
ダンジョンは、堅牢な壁に囲まれている。規模としては小さな野球場くらいと言えば伝わるだろうか。
その壁は人類が建設したもので、ダンジョンからモンスターが溢れたとき、外部にモンスターを出さないためのもの。でも、ドラゴンやら巨人やらが出てきたら簡単に壁を壊されてしまうと言うし、空を飛ぶモンスターの対処には不十分。一応、ダンジョンを囲う壁の上には飛行系のモンスターを捕らえる網が張られているのだが、強力なモンスターはそれを突破するらしい。
つまるところ、人類はまだまだモンスターを完璧に管理する方法を見いだせていない。スタンピードを防ぐには、冒険者がダンジョンに入り地道にモンスターを退治するしかない。
とはいえ、そもそもスタンピードがどうして起こるのかもよくわかっていない。ダンジョンをしばらく放置し、ダンジョン内のモンスターが一定数を超えると外に溢れだしてくるという定説はあるが、必ずしも正しいとは限らない。
「……改めて見ても、でかい壁だなぁ。前に来たのは三年くらい前だっけ」
ダンジョン周辺では何が起こるかわからない。だから、俺の両親は当然、俺がダンジョン周辺に行くことを好まない。近づいてはいけないと言われたが、中一の頃、一度見てみたくなってここまでやってきたのだ。いつか、俺も冒険者になってダンジョン探索をするのだ、と思いながら。
「あたしは結構ここに来てるけどね。バイト先近いから」
「あ、そっか。リムのバイトって、そういうやつか」
「そうそう。ダンジョン周辺で、素材とかアイテムとか装備品を扱ってるお店」
「そっかぁ。それで、どうしてわざわざ四人でここに?」
「武ってさ、本当は冒険者になってダンジョン探索とかしたがってたじゃん?」
「うん。まぁ、そういう話をしたことはないけれど、そうだな」
「あたしも武もまどかも、ダンジョンに入れるほどの力量はない。けど、美美華のサポートはできるんだよね」
「ああ、そうだな。ただ、俺はサポートとして役に立つか……。リムと双山さんは役に立つだろうけど……」
「武のスキルも使えると思うんだよね。でも、それはあとかな。あたし、まずは美美華に仲間を見つけてやりたいんだ」
「仲間を?」
リムから視線を外し、美美華を見る。やや困り顔だが、既に話は通しているのがわかった。
「リムは、わたしがいつもソロでダンジョン探索しているのを心配している。双山さんのスキルでこれから多少はやりやすくなるかもしれないけど、仲間がいる方が安全なのは確か。
仲間を見つけてくれるのは、正直ありがたくて……でも、わたしと相性が良くて、パーティーを組める人がいるかは疑問だ」
「男は下心ありで近づいて来るし、女性とはまだ上手くコミュニケーションが取れない……という感じか」
「うん……」
「女性については訓練次第だと思うぞ?」
「かなぁ……」
美美華は自信なさげ。一度トラウマになってしまうと、それを取り去るのは容易ではないか。
だが、リムは自信たっぷりに言う。
「あたしが人を見て相性を判断して、最終的にはまどかのスキルで本当にいい相手かどうかを判断する。そんな風にしたら、早く見つかると思うんだよね」
「なるほど。試してみる価値はあるな」
「うん。じゃ、早速やってみよう!」
リムがまた俺の手を引いて歩き出す。双山さんと美美華も続いた。
ダンジョン周辺にはたくさんの冒険者がいる。夕方で、一仕事終えて帰って行くという者も多いからか、一層数が増えている。
それにしても、やはり美美華は目立つし、冒険者としても名が通っているから、ただ歩いているだけでも注目の的。周りにいる俺たちは奇異の目で見られている。居心地は悪いな……。
だが、リムはそんな視線にも全く動じない。冒険者なんてもう見慣れた、という感じ。
「……うーん、数が多すぎていちいち見てられないな。逆に、まどかに先に見てもらった方がいいのかな? まどか、直感的に良さそうな人って見つけられない?」
「ん……探してみる」
双山さんも俺と同じく居心地が悪そうなのだが、すっと目を細めて、周辺を見回しながら歩く。今度は、双山さんに俺たちがついて行く形。
ダンジョンを囲む外壁周りをぐるりと回っていく。外壁には東西南北四つの出入り口があり、それぞれから様々な冒険者が出入りしていた。
一周回って、しかし、双山さんは溜め息を一つ。
「うーん……めぼしい人は見つからないね……。単純に美美華さんと仲良く慣れそうな冒険者はいるけど、実力が合わない気がする……」
「そっかぁ。あたしが見ても、情報過多でよくわからなかったんだよなぁ。この人はどうか? って検討がついてれば、善し悪しの判断もできるんだけど……」
「……ご、ごめん。わたし……こんな、だから……」
美美華が申し訳なさそうに俯く。
「あたしが勝手にやろうって言い出したことなんだから、美美華が落ち込まないでよ。別に今日中に見つけなきゃいけないわけでもないし、地道に行こう」
「うん……」
「今日は遅くなってきたし、また今度かなー」
リムが諦めムードを出し始めた、そのとき。
「てめぇとはもう金輪際組まねぇ!」
「俺たちまで一緒に焼くつもりだったのかよ! 同士討ちで死ぬなんざごめんだ!」
「いくらソロでは優秀でも、連携できないんじゃ話にならないわよ! マジで使えないクズ!」
男性二人と女性一人の冒険者が、もう一人の女性の冒険者を罵る。
罵られている方は、シュンとうなだれていた。
「……今日は本当に悪かった。私はこのパーティーを抜ける」
「当然だ! もう顔も見たくねぇ!」
「今回のお前の取り分は当然なしだからな!」
「永久にさようなら!」
三人が立ち去り、魔法使いらしき女性がその場に立ち尽くす。……泣いてはいないようだ。でも、今にも泣き出しそうな顔をしている。
遠目だが、繊細そうな顔立ちには似合わない、真っ赤な長髪が特徴的だ。年齢は二十歳にはならないくらいだろうか。スタイルは良いし、胸部には他人に誇るに十分なモノも備えている。……ん? でも、あの胸……?
「あ、あの人だ」
双山さんが、何かの直感を得た顔で呟く。
「それ、美美華が仲間にするといい相手ってことか?」
「うん。そう。……根拠は上手く言えないけど」
「双山さんがそう言うなら、本当なんだろうな……」
しかし、さっきの仲間にはこっぴどい振られ方をしていたぞ? 同士討ち未遂してしまうような人で本当に大丈夫だろうか?
不安だが、リムはすぐに双山さんの直感を信じた。
「じゃ、あの人に声かけ行くよ」
リムが走り出して、俺たちもついて行く。
「ねぇ、そこの魔法使いさん! うちの美美華とパーティー組んでくれない?」
「……え?」
魔法使いの女性が顔を上げ、赤い瞳でこちらを見つめてくる。そして、美美華を見て目を丸くする。
「……美美華って、茨園美美華さん?」
「うん。そう。Aランク冒険者の美美華。実力は保証するよ?」
「ええ? 保証するって……そんなの、むしろ私の方が釣り合わない……。私、ギリギリBランクの、たいした実力もない魔法使い……」
「……あんた、よく見ると
「な、なんで私の名前を……。それに、私の経歴まで……」
「あたし、ちょっと特殊な仕事してるからさ。ね、一緒に来てよ。お話ししましょ?」
「……うん」
戸惑いながらも、崩玉さんが頷く。どういう人物なのかはわからない。でも、リムが誘うってことは、その実力は折り紙付きだ。
それはそうとして……何故だろう? 彼女の胸部が妙に気になってしまう。いや、若さ故の暴走ではなく、何かが気になる。なんだろう……?
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