第10話 悩み
リムに先導され、俺たちは人気のない図書室前にやってくる。
「さ、ここならいいでしょ。あたしたちにどんな用事?」
「あの……実のところ、私も、どういうお願いの仕方をしたらいいのか、迷うのだけど……」
「まぁ、とにかく言ってみなさいな」
「うん……。その、もしかしてだけど、武君、女性の胸の大きさを、変えるスキルがあるのかな……?」
「……え? な、なんでそれを……?」
「あんた、それ以前に、あたしの武を武って呼ばないでくれる? 宮本君ね」
「あ、ごめんなさい。二人がお互いを呼び合ってるのを聞いただけだから、フルネームは知らなくて……。宮本君……と?」
「あたしは
「そう……。なら、私のことも、まどかでいいよ」
「ん。で、まどか、なんで武のスキルがわかったの? まどか、そういうスキル持ってる?」
リムはすでに全てを知っているのだろうが、知らないフリをして話を進めるようだ。
「ううん。人のスキルを見抜くとかのスキルじゃない。……誰にも言わないでほしいんだけど、私のジョブは『風の預言者』で、スキルは『耳を澄ませば』というものなの」
「ふぅん……変わったジョブとスキルね。映画みたい。どういうやつなの?」
「『風の預言者』は、かなり控えめな予知能力者。あ、予知能力なんだけど、預言者の預は、預かるの預で、風の知らせを受け取る、っていうくらいの意味合い。それで、『耳を澄ませば』っていうスキルを使うと、こういう行動をしたらいい、っていうのを朧気に教えてくれるの」
「へぇ、何となくでも、選択の指針を与えてくれるスキルなら有用ね。占い師……は無理でも、冒険者のパーティメンバーとして求められそう」
「うん……。でも、私は冒険とかできるタイプじゃないから、誰にも言わないでほしい」
「オッケー。まどかがそういうなら、秘密にしとく。で、そのスキルを使ったら、武に話しかけるのがいいって?」
「うん……。でも、このスキルを使おうとしたきっかけは、今朝、駅のホームでリムが少し妙なことを言ってるのを聞いたから……。一週間で、胸のサイズがどうのって……」
それを聞き、俺はリムをジト目で見る。誰も聞いてない、とか言ってたのに、ばっちり聞かれてるじゃないか。
リムは素知らぬ顔で俺の視線を受け流し、双山さんに言う。
「……あれを聞かれていたとはね。あたし、確かに武のスキルでおっぱいを大きくしてもらってる途中なの。A未満だったのが、一週間でBまで上がったわ」
「すごい……。胸の大きさなんて、どんなことしてもそんな急に変化しないのに……」
「ふふん? 武のスキル、すごいんだから。でも……まどか、もう十分立派なものを持ってると思うけど、まだ大きくしたいわけ?」
「や、ち、違くて! その、むしろ逆で……」
「逆ってことは……小さくしたいの?」
「……うん。そうなの」
双山さんは、両手で胸を押さえながら、恥ずかしげに頷く。
「私……中学のときから、胸ばっかり大きくて……それが、ずっと嫌だった。男子からはいやらしい目で見られるし、何かとからかわれるし、牛だとか変なあだ名付けられるし……。女子からも、嫉妬なのか、好奇心なのか、変な目で見られて……。それに、胸が大きいっていうだけで嫌な目立ち方して、道を歩くだけで注目される……。
私は、できれば目立たずひっそりと生活していたい。変な注目も浴びたくない。だから……この大きな胸が、もっと小さくなればいいってずっと思ってた……」
リムは複雑そうな顔をして聞いている。ずっと胸の小ささに悩んできたから、その逆で大きいことに悩んでいることには思うこともあるのだろう。ある意味贅沢な悩みかもしれないけれど、本人からすると切実で辛い悩みだから、リムも反応に迷っている……。
「二人の会話をチラッと聞いて、胸を大きくできるなら、小さくすることもできるんじゃないか、って直感が働いたの。それで、『耳を澄ませば』のスキルを使ってみたら……宮本君に接触するのがいいって、直感的にわかった。だから、昼休みに話しかけたの。……どう、かな? 宮本君のスキルは、胸を大きくするだけ?」
「いや、違うよ。俺のスキルを使えば、大きくすることもできるし、小さくすることもできる。もっと言えば、形を整えるとか、張りを出すとかもできる……」
うん。自分で説明してて恥ずかしいぞ。リムはあけっぴろげな性格だからある程度慣れたが、見るからに内気な女子にこんな話をするのは気が引ける。
だが、俺の言葉を聞き、双山さんの表情がぱっと華やぐ。
「本当? あの……もし、良かったら、そのスキルで、私の胸を小さくしてくれないかな? もっと平均的で、Cくらいのサイズにしてほしいの。お願い!」
双山さんがグッとこちらに身を乗り出してくる。顔も可愛いから、近づかれるとそれだけドギマギしてしまうな。あ、痛っ。リムに足を踏まれた。
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