第23話 打ち明け

「えっと……俺の部屋にあるものって限られるけど、ゲームでもする? 基本的にどんな種類でもあるよ。茨園さん、ゲームに興味ある?」


 リムはバイトのない日はほぼ毎日、双山さんもリムが来る日にあわせて俺の家に来ているのだが、二人ともテレビゲームがお気に入りだ。家ではゲームをする習慣がないそうだが、やってみたら意外と楽しかったらしい。

 ちなみに、リムには弟がいて、双山さんには姉がいる。リムには弟がいるからゲームくらいしているのかと思っていたけれど、弟君はRPGゲームが好きで、それはリムの好みではないとか。いちいちレベル上げとか必要なゲームはやってられない、とのこと。

 俺はRPG系もアクションゲーム系もなんでもやるタイプで、リムは主にアクションゲームがお気に入り。双山さんはレースゲームが好きで、RPGもアクションも苦手なようだ。

 三人のときには双山さんに合わせてレースゲームをすることが多いのだけれど……茨園さんはどうだろうか。


「わたしは……ゲームは、苦手、かな……」

「あ、そうなんだ。うーん、なら……」


 アナログにトランプでもするかな、と考えていたら、リムが指摘。


「変に誤魔化さないでいいよ。茨園さんはもう、人間のレベルに合わせて作られたゲームができないんだよ」

「え? どういうこと?」

「茨園さんの反応速度とか動体視力は、人間を圧倒的に凌駕するものになってる。高レベル冒険者の副作用ってやつ。あたしたちの感覚で言うと、周りのものがスローモーションで見えてる感じかな」

「ああ、それ、噂では聞いたことあるな……。でも、それって噂程度の話じゃなかったんだ?」

「単なる噂じゃないよ。本当の話。茨園さんはその域に達してるから、アクションゲームとかやっても、あたしたち一般人には勝ち目がない」

「そうだったのか……」


 俺からすると、いまいち想像できない世界の話。けど、リムが言うのだから本当だ。


「あ、いや、でも、わたしは、そんなにゲームが得意ってわけでも、ないし……」


 妙に慌てる茨園さん。そして、その様子を見て、リムが珍しく眉間にしわを寄せる。ずいっと茨園さんの前に身を乗り出し、さらに、デコピンを一発。あ、いい音したな。じゃなくて、痛そう……ん? でもないのか? 茨園さん、驚いてはいるが、痛そうではない。むしろ、リムの方が痛そうだ。


「かったいなぁ……。岩にでもぶつかったみたい」

「ああ、ご、ごめん……避ければよかった、よね……」

「……それはそれで嫌だけど。っていうか、防御力が高いと、本当に攻撃って全然効かないんだね」

「ああ……うん。正直、今のわたしは……く、車に轢かれても……逆に、車の……方が、壊れる、くらい……」

「なるほどね。ま、それはどうでもいいんだけど。あのさ、美美華」

「え? あ、うん?」

「あたしの前で、嘘、つかなくていいから」

「え……? う、嘘って……」

「ゲームができなくなる前は、お兄ちゃんたちとよくゲームしてたんでしょ? それで、その二人にも負けないくらい、強かったんでしょ? あたし、そういうの全部わかるから」

「え? 全部って……」

「全部は、全部。あー、もういいや。隠しておこうと思ったけど、美美華の態度見てたらなんかムカつくから、教える。あたし、『鑑定士』なの。だから、美美華のプロフィールも過去も今どんなことを考えてるかも、全部わかる」

「か、『鑑定士』……!?」

「嘘、リム、そうだったの!?」


 リムの打ち明けに、茨園さんも双山さんも、驚きに目を見張る。


「そう。ま、『鑑定士』が全員、人のプロフィールやら過去やらを見られるわけじゃないみたいだけどさ。あたし、そういうのもわかるの。だから、あたしの前では嘘ついても無駄。ある意味わかりやすいでしょ? ごちゃごちゃ考えないで、思ってること素直に言えばいいの。

 美美華、アクションとかレースはもうできないけど、動体視力も反射神経も関係ない、双六系のゲームならできるんでしょ? それやろうよ」

「あ、う、うん……。双六系は、できる……。皆でやるの、楽しい……」

「じゃ、そういうことで。武、準備宜しく!」

「お、おう」


 リムに仕切られ、俺はゲームの準備を始める。


「リム、良かったのか? 前は『鑑定士』のこと隠しておきたいみたいだったのに、結構あっさり打ち明けちゃって」

「もしかしたら、あんま良くないかもね」

「……もう少し様子を見てからの方が良かったんじゃないか?」

「かもね。でも、まどかと美美華がどういう反応したって、武はあたしの味方でしょ?」

「それはもちろん」


 即答すると、リムはくすぐったそうに笑う。


「武がいれば、あたしは何も怖くないよ」

「……そっか」


 照れ臭くて頭を掻く。こんな俺たちを見て、美美華がぼやく。


「……この二人……いつも、こんな感じ……?」

「まぁ、だいたいそうだね。本当に仲良しなんだから。でも……まだまだこれから……」


 双山さんの呟きに、リムがどこか挑発的な笑みを返す。どういうやり取りなのかは、心を読めない俺にはわからない。

 さておき。

 準備ができたところで、いつもの通り、俺はベッドに深く腰掛け、リムは俺を背もたれにして座る。双山さんは俺の右隣だ。


「美美華も座りなよ」


 声をかけるリムを見て、茨園さんがやや戸惑う。


「ああ……うん。宮本君たち、本当に遠慮ないね……」

「うん……。まぁ、遠慮もためらいもないのはリムの方だけどな。俺はこれでも結構恥ずかしい」

「んん? なんか文句あるって?」

「そういうわけじゃないさ。積極的に来てもらえて、むしろありがたいよ」

「ふふん。武のアプローチ待ってたら、いつまで経っても進展しないのは目に見えてるからね」


 リムが後頭部を俺の首辺りにグリグリと押しつけてくる。はっきり言おう、この甘えっぷりがたまらん。

 少しして、気を取り直したリムが二人に問う。


「ちなみにさー、武は元からあたしのスキル知ってたけど、まどかと美美華は、あたしのこと、怖くない? なんでもわかっちゃうんだよ?」


 先に答えたのは双山さん。


「私は……リムなら別にいいかな。何を知っても悪用はしないと思うし……そもそも、自分の力を一番恐れてるのはリムだとも思う。放っておけない……って気もしてるんだ。それに、直感が、リムなら大丈夫って言ってる」

「わたしも……平良さんなら……いい、かも。初めて……わたしを、見つけて、もらえた、みたいな……そんな、気分……」

「ほほー。二人とも、あたしの人徳に負けちゃったってことね。ふふん。流石あたし!」

「お? リム、今、照れ隠ししたろ」

「こら! 余計なことに気づくな、ばか!」

「はっは。リムの全部を見られるやつはここにはいないけど、その分、俺がリムを理解してやりたいからな」

「……ふん。男にはわからんこともたくさんあるのよ」

「かもな。でも、理解する努力は、やめたくないな」

「ほほー。やってみなさい。あたしが武を理解するくらい、武もあたしを理解するようにね」

「そりゃ流石に無理だろ」

「やる前から諦めないでよねー」


 ゆるゆると会話をしていくなか、ゲームが始まる。

 双山さんも茨園さんも温かくこちらを見守ってくれていて……いや、双山さんの笑みはどこか迫力があるのだが、良い人たちだなと感心するばかり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る