第15話 いちゃいちゃ

「……随分楽しそうだったわね。ふん」


 リムが不機嫌そうに言う。


「え? いや、別にそういうわけじゃ……」

「大きなおっぱいを揉めて嬉しかったくせに。隠したって無駄なんだからっ」


 リムが立ち上がり、ぐったりした双山さんの様子を伺う。


「うわ……武には見せられない顔……」

「え? え? だ、大丈夫?」

「……たぶん大丈夫でしょ。痛そうとかじゃないし。うーん……、とりあえず、目を閉じて、口も閉じて、涎拭いて……ん? あ、もしかして……」


 リムがなにやらごそごそとやっている。状況を確認しようとしたら、こっち見るな、と顔をおかしな方向に向けられた。危うく首が折れるかと思った。


「……なんだろ。あたし、ここまではならなかったけどな……。小さくするときは勝手が違うのかな……。えっと……どうしよ。パンツ脱がした方がいいかな……。あ、スカートも……ってか、ベッドもか。着替えさせれば良かったなぁ……」


 リムがどんなことをしているのかは、俺は見ないことにした。ただ、ごそごそと何かをしている音が余計に何かを刺激してきたのは確かだ。

 しばし待つと、リムが大きな溜め息を一つ。


「もーいいよ。気絶してるから、しばらくはベッドに寝かしといて。あと、タオル敷いてるところは触っちゃダメ。詮索も禁止」

「お、おう……」


 指示に従い、双山さんをベッドに寝かせる。そして余計な詮索はせず、何も見るまい。


「全く。派手にやってくれたものね」

「……すみません」

「そういうスキルなんでしょ。武のせいじゃない。でも、相手によってはこういう形を望まないかもしれないから、もっと無機質にできる方法も身につけた方がいいのかも。スキルレベルが上がったら、そういうの収得できないかな」

「……どうだろ。っていうか、俺のスキルってレベル上がるのかな? モンスターと戦ってないけど」

「知らないの? 戦闘用のスキルはモンスターとの戦闘でレベルが上がるけど、そうじゃないやつは普通に使ってればレベルは上がるの。ジョブレベルも同じ。ただ、根本的な肉体のレベルは上がらない。あたしもずっとレベル一のままだし、武もそうなる」

「そっか。じゃあ、俺はとにかくスキルを使えばいいんだな」

「おっぱい揉んでるだけでレベルが上がるんだから楽なもんだわ」

「……確かに」

「あたしはアイテム見てるだけで上がるから、こっちも楽と言えば楽かもね。スキル行使は結構疲れるけど」

「それも、確かに」


 スキルを使って、俺もかなり疲れを感じている。おっぱい揉んでるだけなのだが、三十分走り続けたくらいの消耗がある。


「あたしもいるし、まどかもいる。これからまた武のスキルを求める人は現れると思う。これからどんどんスキルレベルは上がるはずよ」

「かな」

「……だからって、あたし以外のおっぱいを無闇に触るのは禁止だから」

「……それって、リムのは無闇に触ってもいいってこと?」

「ち、違うけど! あたしのだって、そんな気安く触れるとは思わないで!」

「わ、わかってるって! そんなことしないよ!」

「……ふん。それで、時間が経ってもまだまだ元気いっぱいのそれ、どうするつもり?」


 リムが俺の下半身を指さす。


「……お願いします」

「はぁ。これだから男って奴は……。手伝ってほしかったら土下座して?」

「了解」

「って、素直に従うな! プライドを持ちなさいよ!」

「プライドなんかよりも大事なものが、この世界にはあるんだ」

「そりゃそうでしょうけど! 性欲の奴隷みたいになるのはやめてよね!」

「……俺くらいの年齢だと、それは仕方ないことかと……。通過儀礼というか……」

「もう。どれだけバカなんだか……。じゃあ、ちょっとベッドに座って。今日はあたしが後ろ」

「了解」


 ベッドに腰掛けると、後ろにリムがやってくる。密着状態……というか、リムが俺を後ろから抱きしめている。いつもはもう少し機械的な感じなのだが……。


「……えっと、どうか、した?」

「んーん。なんでもない」

「なんでもないってことは……」

「なんでもないの! 余計な詮索禁止!」

「おう……」


 リムが服越しに手を添える。このままではちょっと……と思うが、動き出す気配はない。


「これは、あたしのだから」

「……そうか」

「誰にも触らせちゃダメだから」

「リム以外に触ろうとする人もいないよ」

「……どうかな。まどかも、起きたら欲しがるかも」

「だとしても、触れさせるのはリムだけ」

「約束?」

「うん」

「嘘ついたら切り落とすけど、いい?」

「……うん」

「あ、ためらった。んん? 『まさか本気で言ってるわけじゃないと思うけど、リムならやりかねないと不安になってる』だって?」

「それ、『鑑定』でわかるの?」

「そうよ。わかるの。言ったでしょ? 今現在のプロフィールって奴が見えて、健康状態とか、気分とか、興奮度とか、今何を考えているかとか、全部わかるの」

「すげーな。チートだわ」

「……こんなこと話しても、武は引かないんだね」

「え? 引くところあった?」

「だって……あたしの前では、どんな隠し事もできないし、嘘つけないし、考えてることダダ漏れだし……。プライベートもプライバシーもないってことよ。普通の人間は、そんなの嫌なの。自分だけの秘密にしておきたいこととか、たくさん持ってるものなの」

「そっかぁ。確かに、俺の超プライベート情報を悪用する人がいたら嫌だ。けど、リムはそんなことしないだろ?」

「しない」

「なら、いいよ。それにさ、隠し事ができないって、ある意味気が楽じゃないか? あれを言っちゃいけない、これは誤魔化そう……そんな風に色々考えちゃうのが人間だろうけど、そんなことをしないでただバカ正直に生きればいい。気が楽だよ」

「……そんなこと思えるの、武だけだから」

「あとは、そうだ、俺の全部を知った上で、それでも一緒にいてくれる人って、もう大事にするしかないだろ? 俺だって、他人には言えない暗い部分とかもある。だけど、それをひっくるめてまるっと受け入れてくれるなら、最高のパートナーだ。……リムは、そういう存在になってくれるんじゃないかな」

「……当然よ。あたしは、武の婚約者だもん」

「だったら、俺のことはもう全部覗いてくれてていいぞ。常に全裸で過ごすのも、気分は悪くない」

「……あたしが、いつも裸ではいられなくても?」

「いいさ。いつも裸でいるより、服を着ている方が魅力的なときもある」

「……ばーか」


 ……な、なんて甘い罵倒だろう。

 今の一言で、俺は今まで起きたあらゆる不幸も不運も許せてしまえる。


「あのさ……」

「それは、まだダメ」

「……まだ何も言ってない」

「何を言おうとしてたかくらい、わかる」

「もう言ったも同然じゃん」

「違うわ。まだ言葉にされてないから、言ってないことになるのよ」

「……なんの違いだ」

「これがあたしルール」

「そうか……」

「あ、呆れたわね。武のくせに! ちょっと甘えて見せたら調子乗るんだから!」

「イテテ! 大事なものを掴むな!」

「ふん。調子に乗った罰よ」

「悪かったよ」

「あんたはあたしの武なの。武はあたしの上に立とうとしちゃダメ」

「……上になんて行かないさ。並びたいだけ」

「生意気!」

「だ、だから、痛いって!」

「もう一つ、約束してよ」

「うん? 何を?」

「……ちゃんとあたしと結婚してね」

「それ、もう俺の中では決定事項」

「ふん。ばーか」


 そして、リムが俺の下半身を露出させる。

 なぜだかわからないが、今日のリムは随分と甘えん坊だ。

 出会って一週間の距離感ではないのだけれど、リムからすると、やはりこの一週間はただの一週間ではないんだろう。

 リムは、俺以上に俺のことを把握しているに違いない。

 好きだ、って言いたかったのに、それを拒んできたことだけは不満だ。

 でも、それ以外は、何にも不満はない。

 そんな人に出会えたのなら、俺は誰よりも幸せ者だろう。


「……ばか」


 そんな囁きも、本当に心地よい。

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