第28話 見せて

 処置が終わったら、荒い呼吸を繰り返す美美華は急に泣き始めてしまった。


「あ、ご、ごめんっ。スキルとはいえ、触られるなんて嫌だったよな……?」

「ちが……違う、そうじゃ、なくて……」

「そうじゃない……?」


 俺に胸をいじられたのが嫌だったのでなければ、どうしてこんなに泣いているのだろうか。


「なんでだろう……急に……心が軽くなった気がして……。涙が……」

「そうか……?」


 どういう心境なのだろうか? 何かを浄化するような技ではあったようだけれど、それで何かが解放されたのだろうか?

 少なくとも、女子と一緒に過ごすことは美美華にとってストレスではあったはず。本人もそれは認めていた。そういうストレスから解放されたのだろうか……?

 困惑する俺と美美華。そこで、リムが言う。


「美美華は、ずっと気を張ってたんだよね。学校には友達もいないし、どこにいても冒険者茨園美美華として振る舞わないといけないし、昔の色んな辛い記憶が心を苛むし……。

 一つ一つは、もう美美華を深く傷つけるものではなかったかもしれない。でも、色んなものが棘みたいに少しずつ傷つけて、美美華は心を痛めていた……。

 それが、武のスキルで、一時的に女子として不要なものと一緒に取り去られて、安らぎ過ぎたって感じかな。

 まぁ、今の段階としては、スキルの副作用ですっきりした気持ちになっているだけかもしれない。でもね、美美華はもう大丈夫。色んな棘は完全に消えることはないかもしれないけど、あたしたち、美美華の側にいるからさ。まぁ、あたしやまどかがいるのはまだダメかもだけど、武だっているから」


 リムは、本人さえよくわかっていない心の動きさえも見通せる。

 その言葉に美美華は思い当たることがあるようで、余計に涙を流してしまった。


「うん……そうかもしれない……。わたし、ずっと……どこか休まらない感じがあって……。一人でいるときだけが、安心で……。家族も……わたしが学校に馴染めないこととか……お母さんを亡くしたことを今でも悲しんでることとか……そういうことで気を遣ってくるから……それが、苦しいこともあって……。そういうの、今は忘れられた……。武がわたしの中に入ってきて、優しく温めてくれた……。最初はちょっと痛かったけど、だんだん痛みはなくなって……満たされた気分になれて……」


 俺はただスキルを使っただけなのだが、それで美美華が救われたのであれば嬉しい。

 こんなスキル、なかなか使う機会なんてないと思っていたけれど、存外そうでもないのだろうか? これで救われる人は少なくない……?


「武、ありがとう。ほんのひとときであっても、すごく、心地良かったよ……」


 美美華が軽く後ろを振り返ってはにかむ。涙に濡れた笑顔はそれはまた美しくて、思わず見とれてしまった。リムが少しばかり不機嫌オーラを出していたのは、この際見なかったことにしよう。


「俺にできることはささやかだけど、俺、美美華が安心して側にいられる人間にはなってみせる。一回スキルを使った程度じゃ、なんとなくすっきりした気分になっているだけかもしれない。それを、スキルなんて関係なしで、ずっと心地良く感じてもらえるようにしたい。

 俺は、美美華の辛い気持ちを深いところまではわかってあげられない。俺には、美美華と同じ経験なんてないから。

 だけど、俺は美美華が一人きりで色んなものに耐えなくてもいいように、側にいるし、話も聞くし、支える。俺じゃ頼りなくて、根本的に救ってあげられるわけではないのかもしれないけど、少なくとも、美美華のためにならどんなことだってしてやろうって気概はある。そういうのがいるってことだけでも覚えていてくれれば、少しは気が楽になるんじゃないかな?

 まぁ、あんまり気合いたっぷりに美美華のために頑張る風だと、逆に一緒にいて疲れちゃうだろうから、俺は力を抜いて美美華の側にいる。美美華も、力を抜いて、俺たちと一緒にいてくれればいい。すぐには無理でも、これから少しずつ、そういう関係を作っていこう」

「……うん。ありがとう」


 美美華が涙を拭う。その一つ一つの動作が絵になっていて……リムの目つきが怖い。べ、別に綺麗なものを綺麗だと感じているだけで、ここには特別な感情はないんだよ? ね? リムならわかるよね?

 ふん、と鼻を鳴らすリム。一方、美美華が俺に背中を預けてくる。


「武……少しだけ、このままでいさせて」

「ああ……うん」


 リムはムムムと密かに唸っていたが、結局美美華を引きはがそうとはしなかった。



 そうして、十分くらい経っただろうか。


「……ごめん。もう、大丈夫だから」


 美美華が泣き止み、綺麗な笑顔を見せる。


「うん……。大丈夫なら、良かった。っていうか、あんなスキルでごめん……。恥ずかしい思いもさせてしまって……」

「あ、あんまり思い出させないでくれる? わ、わたしだって……一応女で、あんなところ見られたら、恥ずかしいんだから……」

「ああ……すまん」

「……お詫びするくらいなら、武の恥ずかしいところも見せてよ」

「……んん? そ、それはどういう意味だ?」

「さっき、わたしの胸触って、相当興奮してたよね? まだ、気分的にはムラムラしてるんじゃないの?」

「そ、それは、だな……」


 美美華の泣き顔を見ていたら、そんな気持ちは吹き飛んでいた。

 しかし……あの感触、そして美美華の興奮を思い出すと、忘れていたはずの高ぶりがふつふつと蘇ってしまう。


「……武と平良さんって、もう結構進んでるんでしょ? なら、武と平良さんがやらしいことしてるとこ、見てみたいな」

「お、おい。いきなり何言ってるんだよ? それは……その……」

「いいじゃない。武はわたしの恥ずかしいところを見た。わたしも武の恥ずかしいところを見る。それでおあいこでしょ? 友達として、そういうところを晒し合うのもいいんじゃないかな?

 ……ちなみに、ごく自然に平良さんと双山さんがずっとこっちを見てた気がする。三人って、もう全部晒しちゃう関係なんじゃないの?」

「ええと……それは、まぁ……」


 俺は、スキルを使った後には興奮状態にある。リムと二人きりでスキルを使ったとには、ごく自然な流れで俺の性欲解消に付き合ってもらっている。そして、双山さんにスキルを使った後には、リムが俺の性欲解消を手伝うのを、双山さんが隣で眺めているという構図になる。

 別に双山さんに見せつけたいわけでもないし、双山さんのいないところでしてもいいのだが、何故か双山さんが見たがるので、それを許しているのだ。


「武たち三人って不思議な関係だよね。でも、その繋がり、今ならちょっとわかるかも。……全部見せ合っちゃってるからこその信頼感とか、あるよね。わたしも、輪の中に入りたい。……だから、見せてよ。ね?」

「ううん……」


 リムを見る。リムはニヤリと笑って、俺の正面に座す。


「まぁ、いいんじゃないの? あたしは手で武を擦るだけだから恥ずかしくもないし。武がいいっていうなら、あたしはいい。……武、そろそろ見られながらする喜びに目覚めてるんじゃない?」

「そ、そんなことは……」

「ふん。あるみたいね。見られながらってのに興奮して、臨戦態勢になってるじゃない」

「こ、これは……その……」


 男のはどうしてこうも隠すことができない形になってしまうのだろう。理不尽ではなかろうか。


「じゃ、ほら、ズボン脱いで。それとも、一人でしてるのを見てもらいたい?」

「それは、ない」


 俺はいそいそとズボンと下着を脱ぎ捨て、下半身を露わにする。リムと双山さんからするとお馴染みの光景になりつつあるのだろうが、美美華は真っ赤な顔で息を飲む。


「うわ……想像してたより大きい……」

「べ、別に大きくは、ないんだけど……」

「そうなの……? これを、女性のあそこに……。そっか、これが普通で、その普通サイズのが、当たり前に入るようになってるのか……。人体って不思議……」


 美美華が興味津々に見てくるので、俺はいつもより余計に血の巡りが良くなっているように思う。


「……あたし一人のときより興奮してない? やっぱり、武はもう見られながらじゃないと感じない体になっちゃったんだね……」

「ま、待って、リム。それは誤解だ。俺はリムと二人きりのときにもすごく興奮してる」

「ふーん。どうだか。こんなはちきれそうな感じじゃない気がするんだけどなぁ」

「き、気のせいだ。俺は二人きりの落ち着いた環境の方が、集中して興奮できる」

「ぷふ。集中して興奮って……。変なの。ま、変な性癖に目覚めちゃったとしても、あたしが責任取ってあげるから安心して。今日だって……ね?」


 リムの繊手が俺の分身に添えられる。それだけで、もう……たまらない気分になる。


「ふふん? ま、あたしで興奮しないってわけでもないのね。それなら、いっか。ただ……あたし、他の女に武のこういうところ見られるの平気だけど、触られるのは嫌だから。絶対、他の女に触らせちゃダメだよ?」

「わかってるって。毎回言われなくても大丈夫」

「だといいけど、毎日言っておかないとふとした瞬間に気が緩みそうだもん。……武、実は浮気しやすさが十段階でレベル三だもん。自分から進んで浮気はしないけど、女の方から積極的に誘われるとどうなるかわからない感じ。油断はできないよねぇ」

「そ、そう……なのか……?」


 そんなものまでわかるのか……。浮気性度鑑定でも一儲けできそうだな……。

 なんて考えていると、リムの手が動き出す。


「さ、今日はどれくらい我慢できるかな? あんまりすぐに終わっちゃダメだよ?」


 リムがニタリと笑う。実に意地悪そうで、でも……とても愛おしい笑顔だ。

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