第21話 約束

「私のジョブは、『風の予言者』で、スキルは『耳を澄ませば』っていうの」


 双山さんが概要を説明する。


「ジョブの効果としては『普通よりも直感が鋭くなる』という感じで、スキルは、『こんな風にすると良いことがありそうというのがわかる』っていうあやふやなもの。

 このジョブとスキルにどれだけ価値があるのかはまだわからなくて……。日常生活ではそれなりに便利だけど、ダンジョン探索に向いてるかはまだまだ未知数かな……」


 双山さは自信なさそうにしているけれど、茨園さんは、その情報を聞いてとても感心している。


「すごいジョブとスキル……。戦闘向きのステータスではないからダンジョンにはつれていけないけど、一緒にいてくれたらものすごく助かる……」

「へぇ、そうなの? 直感とかってそんなに大事?」


 双山さんに問われて、茨園は若干狼狽える。そして、あえて俺の方を向いて答える。


「……ものすごく大事。だって、直感的にダンジョンのトラップが発見できたり、敵の弱点がわかったりするなら助かる。

 それに、ダンジョンに潜っていれば、危険を冒す場面はたくさんある。先に進むべきか、退くべきかの判断にも神経を使う。そこで、なんとなくでもこうした方がいいというのがわかれば、より安全にダンジョンの攻略ができる。

 冒険者は、ほんの一瞬の判断ミスで命を落としかねない危険な仕事。ぎりぎりの戦いをしている人ほど、双山さんを切実に求めると思う」


 茨園さんが熱心に俺を見つめてくるので、返事は俺の方から。


「そっか……そんなに価値のあるものだったんだな。あ、でも、ダンジョン内に連れていけなければ、あんまり意味ないんじゃ……」

「問題ない。宮本君だって、ダンジョン探索の生配信を見たことがあるはず。特定のアイテムを使えば、ダンジョン内からダンジョンの外に連絡を取ることはできる。もしくは、『伝達』スキルを持つ者を間に挟んでもいい。双山さんを危険に晒さず、スキルを有効活用する手段はたくさんある」

「そうか……。双山さん、どうする?」

「私は、どうすればいいんだろう……。ちょっと待って。『風よ、私に便りを贈りたまえ』」


 また、室内なのに緩やかな風が吹いた。双山さんは目を閉じ、その風の音に耳を澄ませる。


「……そっか。わかった。茨園さんに協力する。それが私にとっていい選択みたい。それと……一回、四人で遊びにいこう」

「俺たち四人で? どういう流れ?」

「うーん、それはわからないんだよね。理由とか根拠とかわからないけど、こうしたらいいっていうのがぼんやりわかるのが私のスキルだから」

「そっか……。俺はいいけど……」


 俺と双山さんの視線がリムに集まる。反対するとすればリムかなー、と思ったが。


「何よ。あたしが武を独り占めしたいから反対すると思った? 茨園さんが武を奪いに来るなら全力で叩きのめすけど、皆で遊ぶくらいはいいよ」

「なら、あとは茨園さんだが……どう? 俺たちと遊んでみる?」

「えっと……いいの? わたし、家族以外と遊ぶことって全然なくて、空気読めないことして、めちゃくちゃにしちゃうかも……」

「今見てる感じ、全然そんな風になるとは思えないけどな。じゃあ、いつにする? 明日と明後日は予定があるけど……」


 俺とリムの予定は、正直ずらしたくない。俺にとっても初デートというやつで、少なからず期待している部分がある。

 どうやらそれはリムも同じようで。


「日曜日の予定変更は無理。妨害されたら、あたし、茨園さんをあたしの持てる全ての力を駆使して攻撃しちゃうかも」


 具体的にどういうことをするかは不明だが、『鑑定』でその人の情報のほとんどを知ることができるなら、とんでもないことができるだろう。当たり前のように一緒にいるが、実はとんでもないスキルを持ってるんだよな。


「わたしは、えっと……二人の、じゃ、邪魔は、したくないくて……だから、皆の、都合に、全然、合わせるし……うん、気にしないで……」

「でも、あんまり後にするのもね。放課後に皆で遊ぼっか?」


 リムの提案に反対する者はいない。

 ということで、急遽、放課後に皆で遊ぶことになった。

 少し話し合い、俺の部屋に集まってゲームなどをするということに。いくつか他の案も出たのだが、茨園さんがどこか暗い顔をしていたので、そこに落ち着いたのだ。

 顔合わせと話し合いが終わり、いったん解散。教室に戻るとき、茨園さんはただ歩いているだけで学校中の注目を集めていた。周りの反応などお構いなしの、凛とした歩き姿だと思っていたが……よく見ると、緊張して強ばっているだけではないかと思った。


「それ、正解」


 リムが即座に俺の予想を肯定し、そういうことなのだと理解した。

 不可侵の美を誇る完璧な少女。俺のイメージは崩壊し、放っておけない危うい女の子という認識になった。

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