第8話 いらん子隊

 隊の部屋にて。僕は改めて、遠征調査任務について説明。それと同時に、神域の奥地の恐ろしさを、実体験を交えて語る。


「その上で聞く。神域の奥地への調査任務。参加するのか? 特に美鈴、美沙都」

「命令とあらば地獄でも地の果てでも、天の上でも行く。軍人とはそういうものだと、綾乃先輩から習いました」

「……お前は」

「先輩がそう私に教えたんですよ」

「……あー」


 そうだったな。そんなこと言っている時期もあった。


「だが、今回は危険度が違う。何が出るかわからない。過去にも調査任務は行われているが、それでも暗黒大陸。未開の地なのが神域の奥地だ」

「それでも、誰かが行かなきゃならないんだろ。なら、あたしらで行こうぜ。あたしと美鈴が、どこまでやれるか。あたしは知りたい」


 美鈴を見ると、頷きが返って来た。なら。


「わかった。早速だが、参謀本部に行くぞ」

 



 参謀本部の中心に並んだ僕たち四人に、参謀本部の九人と支部長の視線が注がれる。


「ふむ……問題児隊……いらん子隊……」

「そこら辺が妥当ですな、支部長殿。ここまでこういうのが集まるのも珍しいものですな。似た者同士惹かれあうのでしょう」

「なんて評価だ」

「ふむ。いい機会だ。四季大佐殿、戦中の命令違反と独断専行をここで審議しても構わないぞ」

「小官は、良識を持った軍人であります」


 うわ、参謀本部中から鼻で笑われた。


「結果として任務の成功に繋がっていること、戦果との相殺で減給に留めていること、留意したまえ」

「了解」

「……さて。四季大佐は私が提示した条件をクリアしたわけだが。約束は約束だ。他の者も良いな」

「異議なし」


 支部長に他の面々も続く。


「では、賛成十。四季大佐。此度の遠征調査任務。貴官が率いるフェンリル遊撃隊に調査員の護衛を任せる。出発は四日後。日の出と共に出る。詳細は追って通達。以上」

「了解」


 四人で参謀本部を出た。ところで目の前に人がいることに気づいて、慌てて扉を開く手を止める。

 扉の向こう、こちらをちらりと見た男は、嫌悪を隠そうとせず、とても嫌そうな視線を向けてくる。


「てめぇ、四季だな」

「そうだ。久しぶりだな。御門少佐。スルト防衛大隊、大隊長、御門光星少佐だ。東京地区の最後の防衛ラインを担当する精鋭部隊の隊長。最近だと新規開拓エリアの建築の防衛をする任務にも就いている」


 戦中は討伐しきれず東京地区に接近してくる眷属を狩る。現在は浄化された地帯に新たに生産区を設けるための建築部隊を守っている。防衛のプロ集団だ。


「……けっ。新しい隊を結成したらしいな」

「耳が早い。元フェンリル大隊のみんなは元気してるか?」

「あぁ。無茶苦茶優秀だよ。グググッ、勝負だ!」

「暇じゃないからパス。行くぞ。色々準備がいる。調査隊の人とも顔を合わせたい」

「待てやーっ!」

 



 「えーっとまとめると、四季先輩と観月管制官と御門少佐は同期で、三人でよく軍学校時代は成績を競っていたと」

「あぁ。観月は管制官になることを選んだから、座学限定だけどな、現場に出てからも、俺は討伐数で四季に挑んでた」

「結果は?」

「全部負けだ。そんでもって、ドデカい戦果を立てられ、あいつは英雄になっちまった」


 四季先輩が調査員の人に顔合わせと打ち合わせに行った。一旦一人で話して、後で呼ぶとのことで、私達三人は御門少佐の話を聞くことにした。だって四季先輩の軍学校時代とか、気になる。


「更級少尉。君があいつの副官か。君が防衛隊にいた頃が懐かしいよ……望未がいなくなってからのあいつは、大丈夫か?」

「一応、今のところは。でも、あのマフラー」

「あぁ。そうか……君たちは初めましてか、どうかあいつを、頼む」


 そう言って、御門少佐は美鈴ちゃんと美沙都ちゃんに頭を下げた。


「正直、俺は今のあいつを、見てられねぇよ」

「どういうこと、ですか?」

「何回か、最近のあいつの戦闘は見ている。……あいつは、ずっと怒っているんだよ」

「何に、ですか?」

「自分に……火力任せな馬鹿な突っ込み方しやがって。死ぬぞ、あんな戦い方」

「いつも、そんな感じだった気が」

「あぁ。常に望未がフォローできる場所にいたからな。望未があいつの背中を預かっていた」

「有希先輩が……」


 先輩、どんだけ有希先輩のこと、信頼していたんですか……。それだけの人を、失ってしまって、それでも、戦い続けられるのですか。


「さてと、そろそろ行くわ。じゃあな。あの馬鹿を頼むよ」 


 御門少佐はそう言って立ち上がる。


「あ、あの」

「なんだ?」

「もし、うちの隊に」

「断る。俺は防衛隊の隊長だ。俺はここの最終防衛ラインだ」 


 その声に私だけではなく、美鈴も美沙都もたじろいだ。確かな気迫、誇りを感じた。


「……すいません」

「いや、すまない。こちらも少し感情的になった」

「強い、人ですね」


 初めてこの場で、美鈴が言葉を発した。


「あなたは間違いなく、私よりも強い。美沙都よりも。私達が束になってかかっても、あなたには勝てない。四季先輩も……どうして」

「強くなりたいのか?」


 御門少佐の言葉に二人は頷いた。


「背負っている人間は、強いぞ」


 それだけ言って、今度こそ御門少佐は支部の出口の方に向かった。防衛隊の前線宿舎に向か ったのだろう。


「すまない。待たせた。調査隊と顔合わせだ」


 入れ替わりで四季先輩が来た。

 今更、副官という肩書が、立場が、重く感じた。




 会議室。そこには調査を担当する五名が並んで座っている。


「フェンリル遊撃隊。隊長以下五名。護衛任務に着任します」

「遠距離調査隊隊長。伊吹だ。よろしく頼む。今回は恐らく最も難しい仕事になるだろう。こちら、右から、亀井、鶴野、潤井、浜井だ。追々覚えてくれ。さて、仕事の話だ」


 美鈴の顔が引き締まる。……美沙都、寝てるな、お前。


「四日後の日の出と共に、車両にて出発。地図上にマークした地点の破損が確認されたレーダーの修理作業及び、地図の更新を行う。これを計五か所だ。その後、神域の最奥にて、侵攻作戦のための仕込みを行う。まぁそこら辺の詳しい部分は我々の仕事だ。君たちには腕っぷしの方を期待しているよ」


 それから細かな打ち合わせとすり合わせ。


「では、当日。よろしく頼む」

「こちらこそ」


 伊吹は一人一人としっかりと握手をした。

 ……今日を除いてあと三日か。それまでにある程度は。任務を全うできるように。

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