第46話 戦力の集結。
「……来たな」
遠くに見える船影。どうやら、無事にたどり着いたらしい。
戦闘の痕も見える。危なげなく超えて来たみたいだが。神魚がどこかに潜んでいるかもしれない、そんな海を勇敢に超えてここまで来た。
湾内の警護、掃討に当たったのは僕たちだ。軍艦にぶつからないように避ける。
「先輩」
避けた先で、彩芽が子どもを躾けるかのような声を出した。
「ん?」
「先輩は礼装じゃないのですから、せめて敬礼くらいしてください」
そう言いながらきっちりと礼装を身に纏った彩芽は、空母に向かって挙手の敬礼をしていた。
「むしろ、警護、場合によっては掃討の任務を礼服でやれという方が無茶苦茶だろ、あんな動きにくい服」
「もう、御門少佐ですら、今日は礼装しているというのに」
『あはは』
無線越しに、有希の困ったような笑い声が聞こえた。
僕と彩芽、有希と美鈴と美沙都という班分けで現在、任務に当たっている。
ちなみに向こうは有希以外、戦闘用の制服だ。
「うちの隊だけですよ、礼装していない隊員がいるの……せめて上層部には、覚えが良くあって欲しいのに」
「なんだよ。急に」
「先輩、功績は良いからと、ある程度尊重してもらえる時代は、もうすぐ終わるんです」
「……そうかよ」
茶化す気になれなかった。憎まれ口で返す気になれなかった。
それらの言葉を飲み込ませる迫力が、そこにはあった。
「あとで、着替えてくるよ」
「そうしてください」
港にたどり着き、降りてくるのは各国の精鋭。誰もが様々な感情を、名誉と誇りで押し殺している顔をしていた。
それはそうだろう。神たる脅威、神龍と神獣と実際に交戦したのは僕たちだ。実感として無いのだ、眷属に親玉がいると確かな情報があっても。
すっかり相手するのに慣れた、しかしながら、厄介なのは間違いない相手であるところの眷属よりも圧倒的に強い存在がいるなんて。
本部の発表や招集に対して懐疑的な奴もいるかもしれない。しかしながら、人類の命運を決める戦いに選ばれたことは違いない。そのことに対して、複雑ながらも、名誉であると感じている人もいるのだろう。
そして最後、欧州本部の軍艦。降りてくる先頭に立ったのは。
「シャルル、元帥……」
そしてその横に、ルイ大将が立つ。
HDFは上から下まで、この神魚との戦いが決戦だと定めているということだろう。
確実に、何人が犠牲になろうとこの戦いに勝つ。だからどの国も戦力を温存なんてしない。腕の立つ者を右から左、上から下まで投入できるだけ投入する構えだ。
そして、元帥自身が出てくることで、この戦いが重要であることに対する信憑性を将兵たちに示す。それは、大きな士気向上になる。
「すごいですね」
「……いつまで敬礼しているんだ。戻るぞ。帰還命令だ」
「そ、そうですね。すいません」
何を迷っているのか知らないが、迷いながら進む覚悟を決めたか。
なら、僕からは何も言うことは無い。前に進む。そう決めた奴に必要なのは、背中を押して支えることだけだ。
「作戦司令本部室に行くぞ。そこで、今回の作戦の発表がある。有希達は待機。良いな」
『うん。大丈夫』
「作戦はいたって単純です」
作戦司令本部室。上層部及び、各部隊の隊長、副隊長が集まっている。スクリーンの前に立って話し始めたのは観月だ。
「実際に幾度か交戦したフェンリル遊撃隊からの報告により、神魚は分身を出し、その分身は、海中に漂っている神魚の血が必要であることは確実と言えます。現状の課題は、その分身、及び、神魚を逃がさないことにあります」
画面が切り替わる。そこに映っているのは、浄化網だ。
「神魚は分身を相当数倒した場合、本体が来る習性があると見られています。よって、我々はまず水棲型眷属、及び、神魚の分身との戦い。これを第一フェイズ。第二フェイズとして、神魚の本体の接近後、至急、浄化網の設置を急ぎます。これは、神魚が増援として自身の分身を作りだすことを防ぐためです」
続いて画面に映し出されたのは対潜ミサイルだ。
「メインの火力として、駆逐艦、巡洋艦より、対潜ミサイルを発射、逃走を防ぐ手段、設置した浄化網を守る手段として、御門日本支部防衛大隊大隊長、更科フェンリル遊撃隊副隊長のエレメント解放に頼ることになります。お二人はよろしいですか?」
「任せてもらおう」
「大丈夫です」
重い頷きだ。そうだ。この戦いは逃げられたらまた一から始めなければならない。
それは、あまりにも重すぎるやり直しだ。
「そして、最終段階、深海から引きずり出したら、各々、最高の攻撃手段をもって神魚を倒します。以上、この三つのフェイズ。作戦名・エヌマエリシュ。人類が髪たる脅威から海を取り返します」
観月は一礼して話を締めくくった。
後はそれぞれの部隊でこの作戦について検討するところだ。決行は神魚の動き次第。今日から神魚の動きを掴むべく、アメリカ支部に辛うじて残っていた艦載機が哨戒任務当たると聞いている。
「私たちも戻りましょう」
「あぁ。彩芽、大丈夫だ。僕がちゃんとサポートする。信じろ」
「勿論。先輩のことはとっても信じています。命を預けても何も怖くありません」
「あぁ。良いぜ。預けとけ」
僕は隊長だ。
不測の事態に対応できなくて、何が隊長だ。
トンと胸を叩いた。
僕は、強い。勝つんだ。今日も。
それから一週間後、神魚が一日の終わりに戻ってくるという地点があることが発覚。作戦の決行が決定された。
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