第9話 隊のミーティング。

 隊の部屋にて。五人で一つの机を囲む。


「では、始めさせていただきます。フェンリル遊撃隊、初めてのミーティングです」

「議題は?」

「とりあえず自己紹介ですね……先輩には先程、何をするか話したはずですが」

「……そうだったな。じゃあ僕から。四季遥だ」


 自己紹介を終えて座る。ん?


「あの、それだけですか?」


 美鈴がおずおずとした様子でそんなことを言うが。


「? 質問があるなら、良いぞ」

「じゃああたしから。タイチョー、あれどうやってるんだ? あの、ズバズバってやつ」

「美沙都が言っているのは、先輩が先日、眷属の群れに対して行っていた攻撃のことですね」

「飛ぶ斬撃のことか?」

「……ダサくないですか、それ」

「まともに戦闘で運用しているの、先輩くらいなので、名前とかあまり」

「美沙都は運用しているだろ」

「あれ、私が考案したのですが。美鈴ちゃんが隙を作ることで、ようやくようやくですよ」


 あぁ。結構良い連携だと思っていたのだが、更級が考えたのか。


「……エモーショナル・スラッシュ」


 美鈴がボソッと言った言葉……飛ぶ斬撃に名前を付けてくれるのか。だが。


「長い」

「エモスラ」


 更級がさらっと略して見せるが。


「ダサい……いや、名前は良いのだが」

「採用?」


 きょとんとした顔で何を聞いてくるんだ。美鈴。


「採用で良い。エモスラなエモスラ」

「エモーショナル・スラッシュ」

「おーけーおーけー」


 拘るな、こいつ。


「んなことより。やり方だ、やり方」


 そうだ。そっちが本題だ。だが。


「身体で覚えろ。出力を大きく連続で放つ感覚を掴むんだ」

「お、おう。わかった」

「高出力を放つことは慣れている筈だ。それを少し絞って、断続的に放つことから始めろ」

「エモーショナル・インパクト・ラッシュ?」

「エモイン?」

「略称がダサいの、何とかならねぇのか? ラッシュはどこに行った」


 それはともかくとりあえず。


「自己紹介を続けてくれ」

「はい。更級彩芽です。とは言っても皆様とはそれぞれ関りはある筈なので、私自身の紹介はそこまでいらないと思いますので、次、どうぞ」

「あっ。待て。更級彩芽少尉。貴官にはこの場で、フェンリル遊撃隊、戦術担当官に任命する」

「わ、私ですか?」

「あぁ。頼んだ。よし、次だ」


 しかし更級は手をぶんぶん振って何やら口をパクパクさせている。


「ちょちょちょ、先輩。そんな軽い口調で私にそんな」

「不思議なことを言う。貴官ならできると僕は判断したから任命するのだよ。美鈴、美沙都。異議はあるか?」

「妥当だと思います」

「武器振り回すしか能がないあたしらに、できることでも無いしな」


 二人もそれぞれ賛成。大きく頷いた。


「賛成三。決定だな」

「あ、あの」

「さっさと完成させろ。連携案」

「りょ、了解であります」

 表情引き締め敬礼の体勢。

「よしよし。次」

「唐木美沙都。一応、あたしの方が姉だ」

「それは知らなかった」

「双子だから、いちいち言わない。唐木美鈴。四季隊長。彩芽先輩。どうぞよろしく」


 二人はそう言って、ビシッと敬礼した。意外に様になっている。


「……一気に紹介終わったな」

「では、次の議題。先輩、恐らく、私達の訓練のこと、考えていませんか?」

「うん。よくわかったな」

「あと三日程度で、私達は少しでも強くならなければならないのは、確かなので」

「大したことはできないけどな。怪我しないように、そんでもって本番を落ち着いて迎えられるようにメンタルを整えて、備えてもらうくらいだな。」

「心を整える。ということですか?」

「そうだ。心成兵器使いにとっては重要なことだろ」

「それは……そう、ですね」


 なんだろう。ガッカリさせただろうか。でもな。


「不安なことがあったら声をかけてくれ。なるべく取り除く。甘い空想も、希望的観測もしないけどな」


 そう、それだけは譲れない。僕の、隊長としての矜持であり、責任。


「良いか、付け焼刃の、慌てて身に着けた技術なんて、本番で発揮できる方が珍しいからな。時間が無いなら、今自分の手にあるものを信じて、万全にその全てを発揮できるように努めた方が良い。よって、特別な厳しい訓練を禁ずる。普段通りに努めよ。以上」


 特殊な状況下で普段通りなんて、無茶なことを言っているかもしれない。それでも。


「僕はそれが、君たちが生き残るための、最善だと思っている。僕は、君達を生きて帰らせる義務がある」


 僕が一度果たせなかったこと。

 でも、今度こそ。今度は。


「僕は、二度と同じ失敗をしない。連れて行くと決めた以上、僕は何としても、君たちを生きて帰らせる」


 先輩は、それだけ言って、座り直し、私に目線を送る。進めろということだろう。

 でも先輩。私、欲しい言葉、もらってませんよ。


「……本日の議題は、以上になります。お疲れ様でした。解散です」


 『君達』じゃなくて、『全員』でって言って欲しかったです。




 動かず、目を閉じ、ただ呼吸を意識する。周囲の音が遠くなってきたら、自分の中の感情を見つめる。

 燃えている。

 炎が、見える。

 揺らめくなんて、生易しいものじゃない。業火だ。切れ目なんて見えない。どこまでも、燃えている。

 これが僕のうちにある。ずっと中から焼いてくる。焦がしてくる。


「……美鈴か?」

「……よくわかりましたね」


 訓練場の基礎演習室。そこには座禅用の部屋がある。訓練生には一番不評な訓練だが、僕は一番必要な訓練だと思っている。


「なんかあったのか?」

「美鈴は、この訓練自体、自分が最も取り組まなければいけない。そう思っているので」


 美鈴は表情を変えずに、そう言った。


「美鈴の心成兵器は、弱いので。美鈴が作り出せる感情のエネルギーは、心成兵器作るの、結構ギリギリらしいので。要するに、火力不足です」

「君たちは、巡礼者時代から心成兵器の作り方を自分たちで身に着けて、使っていると聞いたが」

「祖父が、元々、心成兵器使いだったので。防衛軍を退役した後に、巡礼者になりました。父のミスで眷属の群れと遭遇して、逃げる美鈴たちの殿になって、亡くなりましたけど。その人から、やり方だけ教わりました」


 美鈴はそう言って、意識を集中する。手の中に、赤く大きな刀身、片刃の両手剣が作り上げられる。


「美鈴は、感情が薄いらしいので。だからカウンター主体でしか戦えないのです、誰かが弱らせてくれないと、一人では、眷属一体殺すのに、時間がかかり過ぎるのです」

 全身の力だけでなく、相手の攻撃の勢いを利用して斬る。ギリギリの戦いを強いられる。けれど。

「良いんじゃないか」

「え?」

「課題の解決を目指すのは続けるとして、それまでの仮の戦い方をちゃんと見つけているだけ、マシだろ」


 できないって諦めるじゃなくて、どうにかする代用の方法を見つけている。誰でもできることじゃない。


「……美鈴も座禅する」

「あぁ。やってけ」

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