最強魔法使い、ウッドドラゴンと戦う⑥

「ZYAAAAAAAAAA!」


 ウッドドラゴンは大層お怒りらしく、暴れまわる。

 今まで以上になりふり構わない感じだ。


 ニコルもよけるのがやっとみたいだ。


「うわ」

「大丈夫かニコル?」

「大丈夫。でも、今のは危なかった」


 ウッドドラゴンのしっぽがすぐ横をかすめていく。

 どうやら、俺たちが近づこうとしていることに気づいたらしく、近づけまいと暴れまわっているようだ。

 それだけさっきのは効いたのだろう。


「無理ならここからでも大丈夫だぞ?」


 近づけないなら、ここから魔法を撃てばいい。

 全部はあてられないかもしれないが、さっきと同じくらいの精度でなら魔法を放てる。

 さっきので傷が開いたんだから、同じ百発を三回に分ければ一回目で無理でも三回くらいはチャレンジできる。


「たとえ無理でもやってみせるよ。それくらいできないと。私はジンの相棒なんだから」

「……」


 ニコルはウッドドラゴンをにらみつけながらそういう。

 その声からは強い覚悟が感じ取れた。


 俺は大した存在ではない。

 ただ少しだけ魔法が得意なだけの魔導士だ。


 だけど、ニコルは俺を本当にすごいやつだと期待してくれている。


(この期待には応えないとな)


 精度が出ないとか知るか。

 三百発全部当ててやる。

 ここでやらなきゃいつやるんだ。


 俺もウッドドラゴンをにらみつけタイミングを計る。


「「「「「『ファイヤ』」」」」」

「ZYAA!」


 その時、ウッドドラゴンの向こう側で魔法が発動する。

 そのいくつかが傷をかすめたらしく、ウッドドラゴンが不快そうな顔をする。


 レオナルドたちが傷口を狙って攻撃してくれたらしい。

 ダメージはそこまで大きくなさそうだ。


 だが、一瞬ではあるがウッドドラゴンの注意が俺たちからそれた。


「行けそうか?」

「大丈夫。そっちは」

「いつでも打てる」

「じゃあ、五秒後ね」


 ニコルはウッドドラゴンに向かって駆けだす。

 ウッドドラゴンは俺たちが動いたことに気づく。


「五」


 ウッドドラゴンはしっぽをふるってくる。


「四」


 ニコルは空中て体をひねり、ウッドドラゴンのしっぽは俺たちのすぐ後ろをかすめる。


「三」


 そして、ニコルはしっぽを足場にして古傷に向かって全力で飛ぶ。


「二『ファイヤ』!」


 俺の周りには三百の火の玉が待っている。


「「一」」


 俺たちの目の前にはウッドドラゴンの翼があった場所にできた大きな傷口がある。


「「ゼローーーー!」」


 発射された魔法は同時にウッドドラゴンの傷口に命中する。


――――――――――ドーーーーーン!


 ダンジョンが崩れそうなほどの爆音を上げて魔法は爆発する。

 俺はとっさにニコルを抱きかかえて爆発からニコルを守る。


「うわ!」

「きゃ!」


 俺たちは魔法の爆風で吹き飛ばされた。

 キャサリンセレクトの防具のおかげでそこまで痛くはなかったが衝撃までは殺せない。


「あ、着地どうしよ」

「えぇ!!」


 俺が全魔力を使ったせいでニコルの身体強化も切れていた。

 俺たちはゆっくりと墜落を始めるが、ニコルも脱力状態だし、俺だって受け身の取り方とか知らない。


(死ぬことはないか)


 俺はギュっとニコルを抱きしめて衝撃に備える。


「おかえりなさい。おふたりさん」


 俺が落ちたのはキャサリンの腕の中だった。

 どうやら、キャサリンが俺たち二人を受け止めてくれたらしい。


「ありがとう。キャサリン」

「助かりました。キャサリンさん」

「それはこっちのセリフよ」


 キャサリンはそういってウッドドラゴンの方を見る。

 俺たちもキャサリンの視線を追ってウッドドラゴンの方を見た。


「ZYAAAAAAAAAA!ZYAAAAAAAAA!ZYAAAAAAAAA!」


 ウッドドラゴンの古傷から炎があふれている。

 その炎は体中に広がっていた。

 どうやら、目的通り古傷は広げられたらしい。


「予定通りになってよかった」

「いや、予定以上だよ」


 レオナルドが俺たちのすぐ隣に立つ。

 俺が首をかしげると、ぺりぺりと音を立ててウッドドラゴンの古傷で囲まれた広い範囲の外装がはがれていく。

 まるで皮をはがすように。


 その下からは薄茶色の皮膚が現れる。

 あれならばダメージは通りそうだ。


「いまだ! 全員総攻撃!!!」

「「「「『ファイヤ』!」」」」」


 野太い声が響いた後、火の玉がウッドドラゴンに殺到する。


「ZYAAAAAAAAAA!」


 断末魔の声が聞こえる。

 しばらくして、ウッドドラゴンは完全に沈黙した。


「やった」「よかった」

「ちょ、二人とも!」


 沈黙したウッドドラゴンを見ながら俺たちは意識を失った。

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