最強魔法使い、スタンピードと戦う②

「スタンピードだってよ」

「こうしちゃいられねぇ。早く準備しないと」


 スタンピードの発生と聞いて近くにいた探索者はそれぞれ動き出す。

 スタンピードの防衛準備を始めたのだろう。


 探索者にはスタンピード発生時、探索者ギルドでの防衛戦に参加する義務がある。

 これを破れば最悪、探索者資格が停止される。

 だから、破るものはまずいない。


 それに、スタンピードも探索者にとっては悪いことばかりではない。

 スタンピード防衛は参加するだけでお金が支払われる。

 中層を探索している俺たちのような探索者には大した額じゃないが、浅層を探索する探索者からしたら一ヶ月分の稼ぎくらいはあるらしい。

 一体倒すごとに幾らみたいな報酬もあるらしく、それも合わせれば当分遊んで暮らせるくらいの儲けが出るんだとか。


 それに、実は危険性もそれほど高くない。

 スタンピード防衛に失敗でもしない限りほとんど死者は出ない。

 近くに別の探索者がたくさんいる上、危険な災害なので、自己判断で撤退することも許可されているからだ。


 流石に防衛が始まった直後に逃げたりすると罰則があるが、一定程度戦えば大丈夫だ。

 一パーティ一体のモンスターを倒せば最低限のノルマを達成したことになるらしい。

 倒せなかったとしても、無理なら無理でそこまで問題にはならない。

 スタンピードは多くのモンスターが一斉に襲ってくるので怖くて動けなくなる探索者は一定数いるらしい。

 そういう探索者は報酬はもらえないし、スタンピードが終わったあと笑い物にされる。

 だから、みんな無理してでも一匹は倒すそうだ。


 スタンピードは大量のモンスターが攻めてくるので、探索者ギルド側もより多くの探索者に参加して欲しくてそうしているのだろう。


 中層より深くを探索している探索者にも恩恵はある。

 名誉が手に入るのだ。


 スタンピードは最も身近で最も恐ろしい災害だ。

 その脅威は街の人はよくわかっている。

 毎年防衛に失敗して潰れる街もいくつかあるくらいだ。

 いまも村の人たちは一斉に避難をしているだろう。


 そのスタンピードで活躍したとしれば英雄になることができる。

 刹那的な生き方をしている探索者にとって、チヤホヤされることはかなりの魅力があるらしい。

 前回のスタンピードで活躍してチヤホヤされている先輩を羨ましそうに見ている実力のある新人はたまに見る。


 それに、本当に大活躍をすれば上位のパーティから誘われることもあるらしい。

 そりゃ本気になるわな。


「俺も防衛線に参加したほうがいいってことですか?」

「はい。探索者資格を停止中に心苦しいのですがお願いできないでしょうか?」


 俺は支部長の策謀で今冒険者資格が停止されている。


 今の俺は探索者ではない。

 俺に防衛に参加する義務はないのだ。


 だから、カレンさんは俺に参加の意思を確認しにきたのだろう。

 俺も曲がりなりにも中層を探索する探索者だ。


 スタンピードでは大体中層と浅層のモンスターがダンジョンから溢れてくる。

 中層のモンスターを倒せる俺は参加した方がいいだろう。


「当然参加しますよ。ニコルとパーティで参加していいですか?」

「! はい。それでお願いします!」


 カレンさんは慌てて部屋から出ていく。

 おそらく俺を防衛戦に参加させる手続きをしにいったのだろう。


 ニコルとパーティ扱いなら処理も簡単にできるだろうし、問題ないだろう。

 今の俺の状況はかなり特殊なので、単独での参加となると色々手続きが大変なはずだ。


 探索者ギルドにとってそうした方がいいならそれでいいだろう。

 『酔い狼』の件では色々とお世話になったんだし。


 個人で参加したとしても報酬の合計が増えるわけでもないしな。


「いいの? 私と一緒で。報酬は多分パーティ均等割だよ?」

「別に金には困ってないし」

「え? でも、ジンのお金もパーティの共有資産も昨日のクエスト発注で使っちゃったよ?」

「あ」


 昨日、『酔い狼』を倒すために探索者ギルドにクエストを発注した。

 半分やらせのようなクエストではあったが、ギルドを通しての依頼だったので、依頼料も発生した。

 記録に残る以上格安にはできなかったらしい。

 カレンさんに謝られてしまった。


 謝るようなことじゃないのに。


 それに、少しでも多くの探索者に参加して欲しかったので、限界ギリギリまで依頼料を引き上げた。

 そのせいで俺は今スカンピンだ。


 ちなみにその報酬の半分以上は昨日から今朝にかけての宴会で消費されたらしい。


「じゃあ、今回のスタンピードは稼ぎ時だな」

「……そうだね」


 ニコルは言わなかったが、多分ニコルの資金も全部使ったのだろう。

 なら、尚更頑張って稼がないとな。


 うまくいけばクエストで消費した資産を全部取り戻せるかもしれない。

 全力で頑張る必要があるようだ。


「スタンピードに参加する方はこちらで登録をしてください。事後処理にご協力ください」

「受付も始まったようだし、行くか」

「そうだね」


 ギルド職員がスタンピードの受付を始めている。

 ここで登録しておかないと参加者に支払われるお金が支払われなかったりするそうだ。


 完全装備の探索者がきちんと列を作っている様子は少しシュールだ。

 俺たちも完全装備でその列に加わるんだけどさ。


 俺とニコルは受付に向かった。

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