最強魔法使い、狙われる④

「さて、ここはどこだ?」


 俺はキャサリンの武器店を出た後、闇雲に走っていた。

 今は見覚えのない洞窟?にきている。

 『ライト』の魔法であたりを照らしてみるが、どこかわかるような特徴はない。

 強いて言うなら、光が全く入らない洞窟だと言うのが特徴か。


 日が落ちて『ライト』の魔法を使ったあたりまでは覚えているが、どうやってここにきたか全然覚えていない。


 なんか一人になるたびに迷子になってる気がする。

 むしろ、普通の人はどうやって迷子にならないように行動してるんだろうか?


「壁や天井に人の手が入った痕跡があるから、地下道か下水道とかだとは思うけど。この街にそんなものがあるなんて聞いたことがないんだよな。ダンジョンではないだろうし」


 ダンジョンは探索者ギルドにある入り口からしか入れないので、ダンジョンではないはずだ。

 もともと、探索者ギルドがダンジョンから出てくるモンスターを抑える蓋のような役割をするために作られた物なので、探索者ギルドを通らずにダンジョンに入る方法はほとんどない。

 もし、入り口を見つければすぐに探索者ギルドに報告が行って、その場所に探索者ギルドの支部が作られるらしい。

 隠しておけば極刑になるらしいので、隠すものはいない。


 なんでも、ダンジョンの入り口を探す方法があるらしく、隠していてもすぐにバレるらしいし。


 それはともかく、ここは一体どこだ?


 いや、前に一度きたことがあるような気もする。

 うーん。分からん。


「とりあえず、前に進むしかないか」


 不幸中の幸いと言うべきか、さっきから全然人に合わない。

 逃げているところだから助かる。


 助かるんだが……。


「……腹減ったな。それに喉も渇いた」


 朝が早かったので、昨日の夜から何も食べていない。

 ずっと逃げ回っていたから食事どころか水すら飲めていない。

 その上で走り回っていたので喉がカラカラだ。


 キャサリンのところで水くらいは出して貰えばよかった。


「とりあえず、出口を探そう。あ。そうだ」


 ニコルに迷ったときの対処法を聞いておいたんだった。

 最初にダンジョンで迷っていたときに右手を壁についておけば外に出られると言う話を聞いたことがあると話したら、ダンジョンではそれはダメだと言われたのだ。

 右手法は入り口からずっとしていないと入り口には戻れないらしい。

 場合によっては同じところをぐるぐるすることにもなるんだとか。


 それで、かわりに教えられたのが目印をつけると言う方法だった。

 好きな印と数字とかを壁に彫っておけば、そこを通ったかどうかわかる。

 最低でも同じところをぐるぐるしているかどうかは分かると言われた。

 確かにその通りだ。


「これでよし」


 俺は好きなマークと1という数字、それから向かう方向に矢印を打つ。


***


「くっそ。腹減ったな」


 俺はその場に腰を下ろす。

 歩き疲れて足は棒のようだ。


 今一番の問題は脱水症状だ。

 のどはカラカラだし、頭痛もする。


 人間は二日間何も飲まなければ失神するほどの水分を消費するらしい。


 時間の感覚もあいまいで、どれだけ経ったかもわからない。

 だが、この場所に迷い込む前に日が落ちたから、多分一日以上は立っている。


 それに加えて、最初は逃げるのに走り回ったから汗もかいた。


「街中だから食料や水はいらないと思ったけど、こんなことになるとは」


 最大の敵は自分とはよく言ったものだ。

 自分で迷って死の淵に瀕している。


 迷子になって都心で餓死とか、末代までの笑いものだな。

 いや、俺には今子供がいないからこのまま死ねば俺が末代か。


「とりあえず、出口を探さないと」


 目印は定期的につけてきている、

 自分の付けた目印を見ていないということはちゃんと前には進んでいるのだろう。

 もう100近い目印を付けたんだが、一体この洞窟はどれだけ広いんだ?


 俺は立ち上がって再び歩き出す。

 いつも探索しているダンジョンとこの地下水道で風景は似ている。

 だが、いつもは一緒にいるニコルが一緒にいない。

 その一点のせいで俺は死の淵に瀕している。

 いつもニコルが俺の道案内をしてくれていたからな。


 もし、朝ニコルと同じ馬車に乗っていれば状況は全然違っただろう。


「こうやって俺を追い詰めるつもりだったのか。クソ。『酔い狼』を侮っていた。あ……」


 くだらないことを言っていると足がもつれて転んでしまう。


 なんとか立ち上がろうとしても力が入らない。

 腕も振るえているし、頭痛もひどい。


 どうやら、これまでのようだ。


「のど。乾いたな」


 俺は仰向けに寝転がる。

 『ライト』の魔法に照らされた天井は無機質で、割れ目の一つも見当たらない。


 おそらく地下だろうから、湧き水か何かあればよかったんだが、これまでそんなものはなかった。


「これまで、か」


 集中力が切れたせいで『ライト』の魔法が切れて辺りが真っ暗になる。

 もう何も見えない。

 目を開けているのか閉じているのかさえ定かではない。


(? 光?)


 真っ暗な世界に光が差したような気がする。

 首から上だけを何とか動かして光の方を見ると、遠くから火の玉が近づいてくる。


(お迎えかな?)


 火の玉は次第に近づいてくる。


 近づいてくると、それは火の玉ではなく、たいまつを持った人間だとわかる。

 どうやら、火の玉ではなかったらしい。


(助け? いや、それはないか)


 こんなところに人が来るはずない。

 実際、迷っている間誰にも会わなかった。


 幻覚かな?


(ニコル? はは。ついに幻覚まで見えてきた)


 さらに近づいてきた幻覚はニコルにそっくりだった。


 幻のニコルは焦ったように俺の方に近づいてくる。

 あんな焦った顔のニコルを見るのは初めてだ。


「ジン!」


 幻聴まで聞こえだした。

 これは本格的にダメかもしれない。


 幻のニコルは俺のすぐ近くまでやってくる。


「ジン! 探したんだよ!」

「ニコ……ル?」


 ニコルが俺を抱きしめる。

 暖かくて柔らかい。


 どうやら、幻覚ではなく、本物のニコルらしい。


「心配したんだよ。ほら水」


 ニコルはそういって俺に水筒の水を飲ませてくれた。


 どうやら俺は助かったらしい。

 俺は重たい体を必死に動かしてニコルの差し出す水を一心不乱に飲んだ。

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