最強魔法使い、狙われる③

「とりあえず……」


――ドーン!!


「な、なんだ?」


 俺がキャサリンと話をしていると、キャサリンの武具店の店舗側から爆音が聞こえてくる。

 店舗の方を見ると、黒い煙が部屋に入ってくる。

 どうやら何かあったらしい。


「やっぱりここに居やがったか! ジン!」


 店の店舗側からガラの悪そうな男が三人、入ってくる。

 どうやら、こいつらが店舗側の入り口をぶち破って入ってきたらしい。


「悪く思うなよ! 支部長様の命令なんでな」


 男たちは肩や二の腕、顔などにタトゥーをしている。

 そのタトゥーは酒瓶と狼をあしらった『酔い狼』の紋章だ。

 以前報告書で見たことがあるからおそらく間違いないだろう。


 こいつらは『酔い狼』の連中だ。

 まあ、予想通りではあるが。


「観念して……な、なんだ?」


 俺と男たちの間にキャサリンが無言で立ちふさがる。

 男たちは見るからに強そうなキャサリンに一歩後ずさる。


「痛い目にあいたくなかったらそこを――」

「何してくれてんじゃ! ワレ!!」


 いつものキャサリンからは想像できないようなどすの効いた声で言う。

 これは相当切れてるな。


 この武器店はキャサリンが親父さんから引き継いだ店だ。


 俺と違ってキャサリンは社交性が高かったからいろいろな場所からお誘いが来ていた。

 中には王都の花形の魔法研究所なんかもあった。

 それらを全部けってこの武器店を継いだのだ。


 相当この場所を大切にしていたのだろう。

 そんな場所を無茶苦茶にしてタダで住むはずがない。


「お、お前は引っ込んで……あびゅ」

「べは!」


 セリフの途中で男は殴り飛ばされる。

 男は後ろにいた男を巻き込んで店の外に吹き飛んでいく。


 キャサリンはうっすらとオーラのようなものをまとっていた。

 あれはキャサリンが全力で身体強化魔法をかけた時に出る。


 本気だな。


「どう落とし前付ける気じゃワレら! 生きて帰れると思うなよ!」

「ひっ!」

「待てゴラ!」


 最後に残った男は必至で逃げだす。

 キャサリンは男を追って店の外に出て行く。


 仕方ないか。

 ああなったキャサリンはマジで怖い。


 見かけ倒しというわけでもない。

 キャサリンは身体強化魔法と並外れた膂力で学園時代から負けなしだった。

 俺も近距離での戦闘でキャサリンに勝ったことはない。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「待てや! 逃げんな!!!」


 店の外からは断続的に悲鳴が聞こえてくる。

 どうやら、外にはあの三人のほかにも人がいたらしい。


「あの程度のやつ相手ならキャサリン一人で大丈夫か」


 誰もいなくなった店内に俺一人が取り残されてしまった。

 店の中には武器や防具が転がっている。


 中には壊れているものもあった。


「……どうしよ。これ」


 俺はとりあえず、散らばった武器を片付ける。


「いくつか壊れているのもあるな」


 さっきの戦闘で壊れてしまったのだろう。

 壊れた武器はパパッと直していく。


 修復魔法は俺の十八番だ。

 魔導士団で鍛えられた特技だからあまり誇れるものでもないが。


「ついでに入り口も直しておくか」


 俺は男たちによってぶち破られた扉も直した。

 普通こんな破損は直せない。

 だけど、俺はゴリ押しの魔力で一気に直してしまう。


 これができるのは俺のひそかな自慢だ。

 ずっと魔力を鍛えてきたからな。


「しかし、キャサリンにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないな」


 俺がここにいたことでキャサリンの武器屋が被害を受けてしまった。

 これ以上ここにいればさらに被害を与えてしまうかもしれない。


「三日間逃げ切ればいいんだ。その辺逃げ回るか」


 俺はキャサリンの武器屋を後にする。


「あ!」

「あ?」


 そして、裏口から出た直後にガラの悪い男と目が合う。

 その男の腕には狼と酒瓶の紋章の刺青が彫られていた。


「居たぞーー! ジ――「おら!」べぎょ」

「は。やっぱりチンピラだな。弱すぎる」


 ガラの悪そうな男は何者かによって吹き飛ばされる。

 ガラの悪そうな男を吹き飛ばしたのは、これまたガラの悪そうな男だった。


 これ、状況変わってないんじゃね?


「ジン先生。ご無事ですか?」

「あれ? たしか、探索者ギルドで……」

「えぇ。先生に武器を直してもらったことがあります」


 どうやら、あとから出てきたガラの悪い男は探索者だったらしい。

 俺に声をかけてきた探索者以外にも何人か探索者風の男が出てくる。

 みんな見覚えがあるから、全員探索者なんだろう。


「ありがとう。助かるよ」

「魔導士団の支部長が動いているので、表立っては動けませんが、『酔い狼』のチンピラどもを倒す程度なら――」

「いたぞ! こっちだ」


 会話をしていると、またガラの悪い男が裏路地に入ってくる。

 今度のガラの悪い連中は見覚えがない。


「ちっ。まだ来るのか。ここは俺たちが何とかするので、先生は逃げてください」

「これくらいしかできませんが、俺たちは先生の味方です」

「助かる」


 俺はその場を探索者たちに任せて走り去った。

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