最強魔法使い、狙われる②
「誰だ? お前ら」
「こいつがジンだ! やれ!」
「問答無用かよ!?」
聞き覚えのある声が聞こえると黒いフードをかぶった男たちは襲い掛かってくる。
統率が取れているわけではないようで、襲い掛かってきたのは黒フードのうちの三人だ。
せっかく住人で囲んでいるんだから一斉に攻撃したほうがいいだろうに。
「『プチファイヤ』!」
俺は『プチファイヤ』の魔法を使って襲い掛かってくる黒フードを迎撃していく。
あ、昨日せっかく『ファイヤ』を覚えたのだから、そっちで攻撃すればよかったか?
「ぐえ」
「ぎゃ」
「ご」
三人の黒フードは『プチファイヤ』一発で吹き飛ぶ。
どうやら大して強くないらしい。
これならこの人数でもなんとかなるかもしれないな。
「こんなに強いなんて聞いてないぞ!」
簡単に倒された仲間を見て、残りの黒フードは後ずさる。
それに、俺のことも知らないらしい。
中層を探索している探索者ならこれくらいできて当たり前だろうに。
もしかして、その辺のチンピラか何かか?
「く、増援が来るまで足どめだけでも……」
(増援が来るのか……)
黒フードたちは距離を取りながらこっちの出方をうかがっている。
増援が来るなんて重要な情報をあっさり漏らしやがった。
やっぱりチンピラか何かだな。
バカみたいだし、目の前のやつを対処するのは大して問題じゃない。
問題なのは増援が来るということだ。
数が増えると問題だというのもあるが、増援が来るということは、組織的に動いているということだ。
(……町の外に出られなかったのもこいつらのせいか?)
もしかしたら、門番に止められたのもこいつらのせいかもしれない。
もし、そうなら最悪だ。
こいつらのバックにそれだけの権力を持った奴がいるということなのだから。
十中八九、支部長だろうが。
あのくそ支部長ならそれくらいの無茶苦茶はやらかしかねない。
(ここは逃げるか?)
さっきの感じだと、俺の顔を知ってるのは一部だけみたいだ。
じゃあ、増援が来る前に逃げたほうがいいかもしれない。
(情報が足りない。キャサリンの武器店に行くか)
キャサリンはこの街で結構な事情通だ。
何か知っているかもしれない。
「そうと決まれば。『プチファイヤ』!」
「ひ!」
俺は『プチファイヤ』三十発ほど出して、残りの黒フードに向かって放つ。
一人か二人はよけたようだが、それくらいは仕方ない。
もともと、包囲網に穴をあけることが目的なのだから。
俺の狙い通り、包囲は完全にとけている。
「逃げるぞ! 追え!」
俺が包囲を抜けて駆け出すと、後ろから声が聞こえてくる。
俺は気にせずキャサリンの武器屋へ向けて走った。
***
ーーコンコン
俺はキャサリンの武器店の裏口で扉をノックした。
「だれ?」
「俺だ」
「ジン!?」
俺が声を返すと、裏口の扉が開き、巨漢のキャサリンが現れた。
キャサリンは俺の顔を見ると、安心したような顔をする。
「無事だったのね。すぐ来ると思ったのに遅いから心配したわよ」
どうやら心配させてしまったようだ。
まあ、仕方ないか。
俺が黒ローブと表通りでひと悶着あったのは朝早くだったが、もう日が傾き始めていた。
「……ずっと追いかけられてたの? まいた?」
「……あぁ」
言えない。
表通りだとまずいかと思って裏通りを通っていたら道に迷ったなんて、キャサリンには言えない。
朝から黒ローブの仲間には一度もあっていない。
ここにたどり着けたのも奇跡に近い。
「状況はどの程度知ってるの?」
「何も知らないといってもいいくらいかな。状況から言って、支部長が何かしてきたんだろうなとは思ってる」
探索者ギルドに言うことを聞かせられるのなんてこの街では支部長くらいだ。
俺の発言を聞いて、キャサリンはうなづく。
「とりあえず、中に入って」
「お邪魔する」
俺は裏口からキャサリンの武器店に入った。
キャサリンは誰にも見られていないことを確認してから裏口を絞めた。
***
「どうやら、支部長さんは闇ギルド『酔い狼』に依頼を出したみたいね」
「『酔い狼』か。厄介だな」
魔導士団にいた時に何度かそれ関係の方報告書類を作らされたから少しだけ知っている。
めんどくさい報告書類とかは全部やらされてたからな。
『酔い狼』は今年になって急に拡大した組織だ。
規模はこの街のスラムで三番目にまでなっている。
盗みや誘拐、暗殺など、どんな犯罪行為でもやる闇ギルドの一つとして知られている。
やり方もひどく、周りの被害とかを考えずに動いているという噂だ。
そのくせ、治安組織とかが動くと、こちらの動きを知っているかのように雲隠れして、尻尾もつかませない。
権力者とつながっているという噂を耳にしていたのだが、どうやら支部長とつながっていたらしい。
支部長であれば治安組織の動きを知るくらい簡単だろうから、つじつまも合う。
「昨日復帰を断ったから動いたのか。でも、朝まで何もなかったのはなんでだ?」
「知らないわ。どうせ寝てたとかでしょ」
あり得そうだ。
あの支部長であれば「俺が号令を出すまでは動くな」とか言いそうだし。
「相手がバカで助かるけど、街の外に出られないとなると、どうすればいいのやら」
「もうすぐ支部長の権力はなくなるはずよ?」
俺はキャサリンの方を見る。
キャサリンが何を言ったのか一瞬わからなかった。
支部長が変わるなんて話は聞いたことがない。
今回のことが明るみに出たとしてもクビになるなんてこともないだろう。
支部長はあれでも上級魔法を使うことができる。
貴重な上級魔法の使い手を上が手放すはずがない。
「どういうことだ?」
「ホントはジンには言うなって言われてたんだけど、こういう状況だから伝えておくわ。昨日、レオナルドさんが来て、いろいろ教えてくれたの。なんでも、支部長が邪魔だから、ツテを頼って支部長を追い出すつもりらしいわ。それで昨日のうちに王都に向かったそうだから、今日か明日にはある程度何とかなるはずよ」
「なるほどな」
おそらく、レオナルドは俺のために動いてくれたのだろう。
今回なんとか魔導士団に残れたとしても、あの支部長がいる以上、俺の状況は良くならないだろう。
このまま探索者を続けていくとしても、魔導士団の支部長であれば今回のように探索者ギルドに圧力をかけることができる。
(俺はいい友達を持ったな)
俺は今はここにいない友人に心から感謝した。
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