最強魔法使い、狙われる①

「じゃあ、村についたら合流しよう。迎えに来るから、馬車から降りても歩き回ったりしちゃだめだよ?」

「あぁ。わかってるよ」


 翌朝、俺たちは商業ギルドの前に来ていた。

 ここから朝の門が開くと同時に出発する商隊と一緒にニコルの孤児院のある村まで行くことになったのだ。


 俺たちの町はかなり大きい街なので、いろいろな町へと商隊が出ている。

 ニコルの孤児院のある村はこの街と王都の中間にあるらしく、毎日のように商隊が通るらしい。

 ニコルが街に来た時も商隊と一緒に移動してきたそうだ。


 町の外に出る場合は、商隊などについて移動するのが安全なのだ。

 もし魔物に襲われても、商隊が護衛の探索者も雇っている。

 一緒に移動する探索者である俺たちも戦闘は手伝わされるが、二人で移動するよりは負担は減る。


 それに、この商隊は馬車十台からなる商隊なので、魔物に襲われることもないだろう。


 魔物もバカではないので、相手が多いと襲ってこないのだ。


 さらに運のいいことに、商隊には荷台に余裕があった。

 さすがに俺とニコルは別々の馬車にはなるが、歩かなくてもいいのは楽でいい。

 少しだけお金を取られたが、中層を探索している俺たちにとっては微々たる額だったので、乗せてもらうことにしたのだ。


「じゃあ、出発するぞ」

「あ、お願いします」


 ニコルが去ってしばらくすると、開門の時間になったらしく、商隊は移動を始めた。


***


「ん? ジン、だったか? 探索者登録が確認できないぞ?」

「え?」


 門のところで、俺は足止めを食らってしまった。


 俺は身分証として探索者章を提示した。

 どうやら、探索者章には専用の魔法がかかっているらしく、それを門番が何かの機器にかざすと、その探索者章の持ち主の情報が確認できるらしい。

 木製だから偽装も簡単だろうと思っていたが、目に見えないところにいろいろな仕組みがあったようだ。


 今は探索者章の話はどうでもいい。

 俺の探索者章を門番さんが危機にかざすと、出てくるべき情報が出てこなかったらしい。


「おかしいな。機器はちゃんと反応するから、本物の探索者章ではあるようだが……。こんなことは初めてだ」


 門番さんは機器に何度か探索者章をかざすが、中からは目的のデータが出てこないようだ。

 こんなことはあまりないらしく、門番さんも首をかしげている。


「悪いんだが、探索者ギルドに一度言って確認してきてもらえないか?」

「わかりました」


 門番さんは申し訳なさそうに言う。

 門番さんではどうしようもないだろう。

 スラムには指名手配されている盗賊なんかも隠れ住んでいるそうだから、身元のはっきりしない相手を勝手に外に出すわけにはいかないだろうしな。


 この探索者章を作ったのは一週間前で、あの時はゴタゴタがあったから、もしかしたら登録をしそこねてしまったのかもしれない。


 俺は馬車から降りて、馬車の御者をしている商人さんの方に向かう。


「すみません。ちょっと手違いがあったようで、街の外に出られません。ニコルにはあとから追いかけると伝えてもらってもいいですか? 乗車料金はそのまま受け取ってもらって構いません」

「あぁ。わかった。悪いな。俺としては待ってやりたいんだが」

「商人さんは悪くないですよ。急いでいると知っていてこの商隊と一緒に移動すると決めたのは俺たちですから」


 残念なことにニコルの乗っている馬車はすでに街の外に出ていた。

 この商隊は今日中に王都まで行くらしく、スケジュールがシビアでニコルたちの馬車はすでに移動を始めている。


 なんでも、商隊長が王都に急ぎの荷物を運んでいるらしい。

 少し待てば、別の商隊があったのだが、こんなことになると思わなかったので、この商隊と一緒に行くことにしたのだ。


 休憩はニコルの孤児院のある村で一度とるだけらしいので、ニコルに伝言が伝わるのはその時になるだろう。


 俺は一度探索者ギルドによって、その後後発の商隊と一緒に移動することになるか。


 幸い、ここはこの街で一番大きい通りのはしだ。

 探索者ギルドも商業ギルドもこの通り沿いにあるから、迷うことはまずない。


 俺は門から出て行く商隊を見送った後、探索者ギルドへと向かった。


(でも、おかしいな。カレンさんはこういうミスをしなさそうなのに)


 俺は探索者ギルドへ向かって歩きながら今の状況について考えていた。

 この状況はどう考えてもおかしい。


 あの時俺の対応をしてくれたのはカレンさんだった。

 俺の勝手な印象だが、カレンさんは登録忘れみたいなミスをしそうにはない。


 それに、俺は何度もダンジョンに潜っている。

 ここ二三日はニコルに任せているが、それまでは何度もカレンさんのところで魔石や素材を買い取ってもらっている。

 その時に、探索者章もちゃんと出していたが、何も言われなかった。


 よくよく思い出してみると、カレンさんは今日、門番さんがかざしたのと同じような機器に俺の探索者章をかざしていたような気がする。

 もし登録忘れであればその時に気づくはずだ。


 俺が考え事をしながら探索者ギルドの前まで来ると、ローブを深くかぶった男たちが俺を取り囲むように立ちはだかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る