閑話 そのころ国立魔導士団では③

「ジンが復帰を断っただとぉ!?」

「はい。レオナルドが聞いたところによると、中級魔法の魔導書を手に入れるめどが立ったから中級魔法が手に入れば正式に復帰したいといってきたそうです」


 支部長は副支部長の報告を聞いて激高した。


 せっかく情けをかけてやろうと思って手を差し伸べてやったのに、ジンがその手を振り払った。

 本当は団が回らなくなってジンに帰ってきてもらおうとしていたのだが、支部長の中では建前の優しい支部長がジンを許してやるというシナリオが事実と思い込んでいる。


(せっかく情けをかけてやろうとしたのに断るだと? 孤児のくせに生意気な。それに、中級魔法を覚えられそうだというのか。それではあいつをクビにできないじゃないか!)


 中級魔法を覚えれば退職を取り消す。

 支部長はそういう契約をジンと結んでいる。

 魔法を使った契約なので、支部長でもそれを翻すことはできない。


 これでは支部長がジンに敗北したみたいだ。

 実際、負けるも何も、支部長がわがままを言って団を無茶苦茶にしただけなのだが。


(いや、待てよ。まだ間に合うんじゃないか)


 支部長は顔を上げる。

 一つのアイデアが思いつく。


「奴はまだ中級魔法の魔導書を手に入れていないんだな?」

「は? おそらくそうではないかと。中級魔法を覚えればすぐに団を訪ねてくると思うので」

「そうか。私は用事を思い出したので、少し出てくる」

「はぁ」


 支部長はそう言い残して足早に支部長室から出て行く。

 支部長室には副支部長が一人残される。


(あの支部長はいったい何を考えているのやら)


 あまりいい予感はしない。

 だが、あの支部長には大したことはできないだろう。

 実家からも厄介者扱いされているようだし。


(とりあえず、レオナルドに連絡だけ入れておくか)


 副支部長は支部長が出て行った扉を見つめながらこれからのことを考えた。


 レオナルドは帰ってきた後、ジンが魔導書を手に入れるめどをつけたことを私に告げた後、少しの間の休暇申請をして去っていった。

 なんでも、今の支部長を変えてもらえないか実家の方にお願いに行くそうだ。


 副支部長は当然のように許可を出した。

 団員の休暇許可程度であれば支部長に知られないように出すのは簡単だ。

 支部長の腰巾着は異動の辞令が出ているはずだからそちらから情報が支部長に入る恐れもない。


 異動で辺境に飛ばされると聞いて、腰巾着どもは支部長に泣きついたようだが、支部長は対応しなかったようだ。

 支部長ならそうするだろうと思っていた。


 しっかりと本部を通しての辞令なので、支部長がどう動いても撤回はできなかっただろうけど。


 レオナルドの実家であれば、あの厄介者の支部長を異動させることができるだろう。

 できればもっと早く動いて欲しかったところだが、レオナルドも色々と事情があるようだから、わがままは言いにくいのだろう。

 逆にいうと、レオナルドにとっては、ジンはあまり使いたくない手札を切ってまでそばにおきたい相手だということだ。


 副支部長もジンの扱いには気をつけようと心に決める。


 異動先の支部は少し苦労するかもしれないが、流石にクビにはできない。

 上級魔法を使えるものはそれだけ貴重なのだ。

 魔導師団も深層に行って魔導書を探そうとはしている。


 だが、深層は上級魔法を使える魔導師でやっと探索できるレベルなのだ。

 そのレベルにあるのは支部長だけ。

 やろうと思えばただでさえ少ない支部長を探索のために引き抜くことになるのだ。


 現場の支部長を増やすために現場の支部長を減らすわけにはいかない。

 それでは本末転倒だ。


 あのクソ支部長できればクビにして欲しいんだけどな。

 今回は異動で我慢しよう。


 支部長が変われば、新支部長に旧支部長の横暴などを理由にかつて使っていた業者に復帰してもらうように頼めばいい。

 藪を突いて蛇を出すのも嫌だし、巻き添えを食らうのもごめんだ。


 つまり、今副支部長がするべきことは事態を静観することだということだ。


(あまり大変なことにならないといいですね)


 副支部長はレオナルドに連絡を取るために魔導師団の建物を後にした。

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