最強魔法使い、探索者生活を楽しむ④

「お前、これ、どうやって」

「手に入れたんだよ。今日。ダンジョンでな」


 俺は火の中級魔法をすでに使うことができる。

 つまり、いつでも支部長に契約を履行させることができるのだ。


 わざわざ支部長に頭を下げて戻る必要はない。


 契約は魔法を使って結んだものだから、どんなに頑張ったって支部長では破棄することはできない。

 あのくそ支部長め。条件を付けたのが運の尽きだったな。


「それに、せっかく団員が俺のありがたみをわかってくれてるっていうのに、もうちょっと引っ張ったほうがお得じゃないか?」

「お前なぁ……」


 レオナルドはあきれたように俺を見る。

 俺が無茶をしようとするとレオナルドはいつもこんな顔をする。

 初級魔法で中級魔法の威力を出そうと実験していた時もよくこんな顔をされたっけ。


(探索者を続けたい理由は支部長への嫌がらせだけじゃないけどな)


 探索者の生活は思ったより面白かった。

 何より、自由だ。


 出世する夢はあきらめられないから、団には戻るつもりだが、ギリギリまで今の状況を楽しみたい。


(俺一人だとこんなふうには思えなかっただろうけどな)


 これだけ楽しめたのはニコルがいたからだ。

 ほかの探索者と仲良くなったきっかけもニコルだ。

 なにより、ニコルがどんどん宝箱を見つけてくれたおかげで魔導書を見つける希望をもって探索できた。


 俺は何気なくニコルのほうを見ると、ニコルと目が合う。

 ニコルは少し恥ずかしそうに俺の方を見ている。

 そんなニコルを見て、俺まで恥ずかしくなってしまう。


 ぎゅんと音がしそうなくらいの勢いで顔をそらす。


 目をそらした先にはレオナルドのあっけにとられたような顔があった。


「なるほど。そういうことか(ジンが探索者を続けるにしても、団に戻るにしても支部長は邪魔だな)」


 なにやらぶつぶつとつぶやいている。

 半分くらい聞こえないが、こういう時のレオナルドは大体くだらないことを考えているからほっておくのが吉だ。


 少しして、レオナルドは俺の方を向く。

 その顔にはにやにや笑いが張り付いている。


「……わかったよ。団の方は俺が何とかしておく。これから先も何とかなるように取り計らっておくよ」

「? あぁ。頼む」


 レオナルドはニヤニヤした顔のまま立ち上がり、ポンと俺の肩を優しくたたく。


「お幸せに」

「な、ちが……」


 こいつ、俺とニコルが付き合ってると勘違いしてるのか?

 そんなんじゃないっていうのに!


「照れるな照れるな。はるだな~」

「おい、待て!」


 レオナルドはにやにやした顔を張り付けたまま酒場を出て行った。


 俺はレオナルドを追いかける。

 酒場の入り口から外を見ると、そこには人っ子一人いなかった。


 相変わらず逃げ足がめちゃくちゃ早い。

 あいつが逃げるときはいつもそうだ。

 視界から消えると一瞬でいなくなる。


 あいつの身体能力はいったいどうなってるんだ?


「くそ。逃げられた」


 俺は食堂の自分がさっき座っていた席に戻って、テーブルの上にあった飲み物を一気飲みした。

 そして、顔を上げると、さっきからずっと笑顔のニコルと目が合う。


「……ジン」

「あー。まあ、そういうことだ。これからもよろしく頼む」

「うん!」


 ニコルは満面の笑みで微笑む。

 まあ、この顔が見られただけで、レオナルドから辱めを受けたかいがあったというものか。


「……そういえば、ニコルは借金を返し終わったら一度孤児院に帰るつもりって言ってなかったっけ?」

「あー」


 恥ずかしさを振り切るように今後の話をニコルに振る。

 すると、ニコルは困ったような顔をする。


「ジンとパーティを解散した後にするよ。ジンを残していくのも……」

「……」


 俺はここ最近にこるとずっと一緒に行動している。

 街中でも迷ったりしてるからだ。


 ニコルは俺を一人にするのは心配なんだろう。


「なんなら俺も一緒に行こうか?」

「え? いいの?」

「別にいいだろう。歩いて半日くらいだし」


 ニコルの出身の孤児院はこの街から歩いて半日くらいのところの村にあるらしい。

 ニコルの出生のことも気になるし、ついていくのはやぶさかではない。


「‥‥じゃあ、顔だけ見せに行こうかな。日帰りでなんとかなると思うし」

「金に困ってるわけじゃないし、一泊くらいしてきたらいいだろ。小さな村でも宿くらいはあるだろうから、俺はそこに泊まるぞ?」

「泊まるなら孤児院に泊まってよ! 旅人とかもたまに泊めてるから大丈夫だと思うし」

「……院長先生がいいって言ったらな」


 俺も孤児院出身だから外の人を泊めるのが意外と大変なのは知っている。

 小さい子とかがいたずらをしないように見張ってたり、やることは結構あるのだ。


 俺も孤児院出身だから、そこまで気を使ってもらう必要はないけど。


「絶対に大丈夫だよ!」

「……期待しておくよ。じゃあ、明日いっちゃうか」

「そうだね!」


 俺たちは明日孤児院に向かうことに決めた。

 かなり急なことだけど、探索者なんてこんなもんだろ。

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