最強魔法使い、探索者生活を楽しむ③
「カンパーイ」
「カンパイ」
俺たちはダンジョンを出て、宿の食堂でご馳走を食べていた。
さっきまでいた探索者は俺が装備の修復を終えると、装備を試すためにダンジョンに潜りに行ってしまった。
まだ早い時間だし、結果的に酒場にはあまり人がいない状態になってしまっている。
やっぱり、ニコル目当ての探索者はもういないみたいだな。
「……よかったね。魔導書見つかって」
「そうだな。こんなに早く見つかると思ってなかったよ」
「……」
「……」
さっきから話がぎこちない。
もしかしたら、探索者の人たちも俺とニコルの微妙な感じを感じ取って逃げていったのかもしれない。
さっきから俺が今後の話をしようとすると話を遮られるのだ。
たぶん、お別れを言われるのが嫌なんだと思うが、そのせいで、俺がまだ探索者を続けるつもりなのも言い出せていない。
無理やり話すほどのことでもないしと思っていたらなかなか伝えづらいのだ。
うーん。
ニコルも辛そうだし、そろそろ無理やりにでも伝えるべきか?
「あ! いた! ジン!」
「レオナルド?」
俺たちが何とも言えない空気を作っていると、魔導士団で同じ部屋だったレオナルドが食堂に入ってくる。
相変わらずのイケメンではあるが、いつも落ち着いた様子のレオナルドには珍しく、慌てた様子だ。
焦ってるというより、浮き足立ってるって感じだけど。
「ジン! やったぞ! げほ。げほ」
「お、おちつけ。ほら水。あと、ここ空いてるから座れ」
「ありがとう」
レオナルドがむせていたので、俺は近くにあった水の入ったコップをレオナルドに渡す。
レオナルドはその水を一気に飲み干し、席に座る。
それで少し落ち着いたのか、俺の隣に座って呼吸を整え始める。
「ジン? この方は?」
「あぁ。こいつはレオナルド。宮廷魔導士時代に同室だった奴だよ」
「あぁ。この人が」
俺とニコルは一週間も一緒にいたからいろいろと話もした。
ほとんどがニコルの話を聞いている状態だったが、たまに自分の話をする機会があった。
その時にレオナルドの話をしたのだ。
まあ、俺の話の半分にレオナルドが出てくるから、自分の話をすると大体こいつの話をすることになる。
ちなみに、もう半分にはキャサリンが出てくる。
「はー。落ち着いた。ジン! 朗報だ。ジンの復帰が決まったぞ!」
「は?」
言っている意味が分からない。
魔導書を見つけたのは今日だ。
そのことを支部長が知っているはずはない。
「お前がいなくなって、雑用が回らなくなったんだ。それで、急遽お前を呼び戻すことになったんだよ。だから、魔導書を見つけなくても帰れるんだよ!」
「なるほど」
俺は団の雑用ほぼ全部を一人でやっていた。
魔法を使えばそこまで大変なことじゃなかったし、苦にはしていなかったが、他の団員にやらせようとすると大変かもしれないな。
俺ほどの生活魔法の腕と魔力量がある団員はほかにいなかったからな。
最下級魔法である生活魔法を使える団員も少ないんじゃないかと思う。
生活魔法の魔導書なんてすぐに手に入るから使えるようになるのは一瞬だと思うが。
「だから帰ろう! この機会を逃したら帰れないかもしれないぞ? 魔導書は手に入るかわからないからな!」
「……」
団に帰れる。
それはとても魅力的なことのはずだ。
だけど、そこまで心をひかれなかった。
ニコルのほうを見ると、ニコルと目が合う。
そして、慌てたように視線をそらされた。
「俺はまだ帰らないよ。期限は一か月だからな。ギリギリまで粘るつもりだ」
「はぁ!? ジン、お前何言ってんだよ! 手に入るかもわからないのに!」
「まあ、これを見ろ」
俺は荷物袋を広げる。
そこには使用済みの中級魔術の魔導書が入っている。
魔導書は使うと読むこともできない本だけが残る。
未使用なら、魔導書は読むことができて、それを読むと魔法が覚えられるので本当に不思議なものだ。
「な? おまえ。これ」
「(ニヤリ)」
それを見て、レオナルドの目は大きく見開かれる。
俺はそんな驚くレオナルドにいたずらっぽく笑みを返した。
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