最強魔法使い、探索者生活を楽しむ②

「おぉ! ジン先生! おかえりなさい!」

「今日の探索は終わりですか? 先生!」


 俺はダンジョンから出ると先に探索を終えていた探索者たちに囲まれる。

 修復魔法を求める探索者たちだ。

 最初はニコルと一緒におごられるかわりに始めたものだったけど、もうニコル目当ての探索者はいないかもな。

 別にいいんだけど。


 三日くらい前からこんな感じになっている。

 どうやら、俺の修復魔法は結構精度が高いらしい。


 団員から文句が出ないようにきれいに直せるよう苦心していたのだが、その成果がこんなところで活躍するとは思ってもいなかった。


 今日も俺の修復魔法を求めて行列ができている。


「はーい。一人千Gですよー。後、ジン先生の魔力が無くなっても終わりでーす」


 列が長くなってくると、ギルドに併設されている酒場のウェイトレスが素早くしきりに入ってくれる。

 一昨日あまりに酒場を荒らしてしまったので昨日から調整に入ってくれているのだ。


 千Gというのも、酒場側が決めた値段だ。

 どうやら、装備店などとも相談してちょうどいい値段を決めてくれたらしい。

 俺が修復をすると装備店の儲けが減ってしまうからな。

 それくらいが妥当なようだ。

 その辺は全然気にしてなかった。


 結果的に、探索者に溶け込むきっかけにもなったしちょうどよかった。

 最初は国立魔導師団員ということで避けていた探索者も今では俺を先生と呼んで修復魔法を求めてきている。


 自分に利益があるとコロッと態度を変えるんだな。

 本当、現金な奴らだ。


 とはいえ、少し高いので、今は一回目の探索者が押し寄せているが、数日もすれば希望者はいなくなるだろうとウェイトレスさんがいっていた。


 ちなみに、集めたお金で夕食を食べて、残った分は返してくれている。

 手数料としていくらかは抜いているらしいが、何人対応したかも大して覚えていないので、そこまで気にならない。

 探索の利益から見れば微々たるものだし。


「じゃあ、ジン。私はカレンさんのところに行ってくるから」

「悪い。よろしく頼む」


 魔法を使うのにニコルはやることがないのでこの間にいつも精算してもらっている。


 俺は流れ作業で武器の修復を始めた。


○○○


「ジンさん。大人気ですね」

「カレンさん。よろしくお願いします」


 ニコルがカウンターに行くと、カレンが苦笑いで迎えてくれる。

 さっきまでカウンターに並んでいた探索者はジンに装備の修復をしてもらいに行っているようで、カウンターは閑古鳥が鳴いていた。


 カレンさんのカウンターだけでなく、すべてのカウンターに人がいない。


 本当にジンは大人気だな。


 どうやら、ジンに修復魔法をかけてもらうと臭いとかもなくなるらしい。

 ものによっては買った時より良い状態になるんだそうだ。


 だが、何度も修復魔法かけていると壊れやすくなるそうなので、探索者間でもあまり使わないようにしようという話は出ているらしい。

 実際三日連続で装備を修復してもらっていた探索者の装備が戦闘中に壊れてしまったそうだ。

 仲間が助けに入り、それほど大きな問題にはならなかったらしく、ジンの耳には入っていないようだが。

 ジンが知ると修復魔法をかけるのをやめてしまうかもしれないから、皆でジンの耳に入れないようにしているし。

 実際、面倒なことになるようであればジンは修復魔法をかけるのをやめてしまうだろう。

 修復魔法で出ている利益なんて探索の利益から考えれば微々たるものだ。


 ジンはすぐにいなくなってしまうんだし、多くて一ヶ月に二回までという暗黙のルールができているとある探索者が教えてくれた。


 ジンは一週間の間に本当に探索者に馴染んだな。


「これ。今日取れた素材と魔石です」

「確認します」


 カレンさんはニコルから素材と魔石を受け取る。

 ジンはジンでできることをやっているのだから、ニコルは自分にできることをするべきだ。

 ニコルはそう思っている。


 そうしないとジンに嫌われてしまう。


 今日までの付き合いだとしても、最後まで役立たずだとは思われたくない。


「相変わらず量が多いですね」

「ジンはすごいですから」


 ジンはあっという間に中層のモンスターを倒してしまう。

 ニコル一人であれば複数体のモンスターがいる場所は迂回しないといけないので、ここまで広いエリアを探索はできない。


 それに、ジンに支援魔法をかけて貰えば、ニコルも十分に戦える。

 自分で戦うのは久しぶりなので、ここ最近はかなり張り切って戦っていた。

 ずっと実入りの良い浅層での荷物持ちをやっていたから。

 やはり、自分で戦って儲ける方が楽しい。


 今日は張り切って半分くらいはモンスターをニコルが倒してしまった。

 そのため、かなり魔石や素材の量は多い。


「そうですね。あら? 今日は宝箱は見つからなかったんですか?」

「一つ見つかりました。魔導書が入っていたので、ジンが使ってしまいました」


 途中で休憩しているときにジンは魔導書を読んで中級魔法を覚えていた。

 中級魔法はこれまでの魔法とは比べ物にならないくらいの強力な魔法だった。


 これまでもすごいと思っていたが、ジンは本当にすごい。

 その上、まだ納得がいっていないようで、これから鍛錬をしないといけないと真剣な顔で言っていた。

 あれ以上強くなってどうするつもりなんだろうか。


「そうですか。早かったですね。では、ジンさんはもう探索者をやめてしまうんですね」

「……そう、ですね」


 カレンさんは少し残念そうにいう。

 彼女はジンが探索者になった理由を知っているらしい。


 カレンさんなら知っていてもおかしくはないか。

 ジンとは親しいようだし。


「残念がってはいけませんよね。ジンの望みがかなったんですから」

「ニコルさんが残ってほしいといえば、残ってくれるかもしれませんよ? ジンさんも楽しそうに探索されているようですし」


 ニコルはジンの方を見る。

 カレンさんもジンの方を見てニコルに冗談っぽくいう。


「……ジンはきっとすごい人になるので、私がその邪魔はできませんよ」

「そうですか。こんな時期じゃなければもう少し長く一緒にいられたかもしれないのに、残念ですね」

「? どうかしたんですか?」

「最近、宝箱がたくさん見つかっているんです。ハズレの宝箱も少なくなってますし」


 たしかに、宝箱はたくさん見つけられていた。

 てっきり、ジンと探索していた広い範囲を探索できているからかと思っていたが、そういうわけではないらしい。


 それに、宝箱にはもっとハズレが入っているはずなのだが、最近、そのハズレもあまり見ていない。


「でも、どうしてですか?」

「おそらく、スタンピードが近いのではないかと」


 スタンピード。

 ダンジョンの向こう側、魔界からスタンピードの主と呼ばれるモンスターがダンジョンをさかのぼってこちらの世界に上がってくる現象だ。

 スタンピードの主から逃げるように中層や浅層のモンスターもこちらの世界にあふれてくる。

 実際にはほかの理由でも起きるらいいが、ダンジョンでは定期的にその理由で発生しているので、スタンピードといえば大体その現象をさす。


 そういえば、スタンピードが近づくとダンジョンの中の魔力が増え、宝箱などが見つかりやすいと聞いたことがある。


「大丈夫なんでしょうか?」

「魔導士団がいるから大丈夫でしょう。あそこの支部長はいつも偉ぶってるんだから、こういう時はちゃんと働いてもらわないと」


 カレンさんは嫌そうに笑う。

 この街の今の支部長が嫌な奴なのは有名だ。

 スタンピードが起きると最前線になる冒険者ギルドは特に頭が上がらない。

 支部長に見捨てられればスタンピードに対応もできないからな。


 スタンピードが近づいている今は特にだろう。


「魔導師団員さんは大事なお勤めをされているのはわかっているんですが、あの支部長はちょっと……」

「ハハハ」


 カレンさんのセリフにニコルは乾いた笑いを返す。


 そうだ。

 魔導士団はスタンピードを止める大切な仕事をしているのだ。

 やはり、無理を言って引き留めるわけにはいかない。

 ちゃんと笑顔でお別れを言おう。


 ニコルはそう思った。

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