最強魔法使い、探索者生活を楽しむ①

「あ! ジン! 宝箱あった!」

「そうか」


 ニコルと一緒に探索を始めて一週間になる。

 この宝箱はこれで五つ目だ。


 普通、宝箱は一週間に一つ見つかるくらいだと聞いていたのだが、一日目に一つ目の宝箱を見つけてしまった。

 それ以降も一日に一度は宝箱を見つけている。

 一日に二つ見つけた日もあったくらいだ。


 たしかに、俺がモンスターを倒しながらの探索だからほかのパーティより広いエリアを探索できている。

 ニコルが案内をしてくれているおかげで、効率的に探索できているはずだ。

 そのうえ、宝箱は半分がハズレだった。


 そうはいっても、さすがにこれは多すぎる。

 ほかのパーティの五倍くらい見つけてるんじゃないだろうか?


 それに、ニコルはモンスターの察知能力もずば抜けている。


 そういえば、初日に行きは相当数のモンスターと戦ったのに帰りは十分の一以下のモンスターとしか戦っていない気がする。

 あれは、ニコルが避けていたからなのだろう。


 もしかしたら、ニコルは何かしらの加護を持っているのかもしれない。

 髪の毛の色も銀色だし。


 最初有ったときは薄汚れていて気付かなかったが、キャサリンのところできれいにするとニコルは青みがかった銀髪だった。


 銀色の髪の探索者は少なくない。

 銀髪が加護を受けやすいというのは有名な話だから、それにあやかって銀髪に染めるものが多いのだ。

 町人もおしゃれで銀髪にしているものがたまにいる。


 だが、あの短時間できれいに髪が染められるはずはない。

 キャサリンは染髪とかはあまり好きじゃないみたいだしな。


 ということはニコルは地毛が銀色なのだろう。

 もしかしたら、どこかの貴族の血縁者なのかもしれない。

 貴族が使用人をはらませて、その子供を孤児院に預けるというのは割とある話だと聞く。


 だが、銀髪の子供を孤児院に預けたりするだろうか?


 ……ニコルが何も言わないし、聞くべきではないか。


「開けるね~」

「任せる」


 俺が考え事をしている間にニコルが宝箱の鍵を開ける。


 どうやら、このあたりの技能は一通りマスターしてるらしい。

 俺と会う前はどうやら、浅層で宝箱を探し回っていたらしいからな。


 そういえば、ニコルは盗掘屋をしていたんだったな。

 盗掘屋は危険のわりに実入りが少なく、無茶なことをして命を落とすものが多いと聞いたことがある。

 そんな盗掘屋をしながらもニコルが生き延びてこれたのは加護があったからなのかもしれない。


「あぁ!」

「どうした?」


 宝箱を空けたニコルは大きな声を上げる。

 もしかして、トラップにでもかかったのか?


 俺は急いでニコルに駆け寄る。


「ジン! 見て!」

「どうかしたのか?」


 どうやら、トラップにかかったわけではないようだ。

 良かった。

 ニコルは笑顔で宝箱の中をのぞいている。


 ニコルは満面の笑みで宝箱の中を指さす。

 俺が宝箱をのぞき込むと、そこには魔導書が入っていた。


「これ! ジンが探してた中級の魔導書じゃない!?」

「……」


 俺は宝箱の中から魔導書を取り出す。

 魔導書には『ファイヤ』と書かれていた。


 間違いなく中級魔法の魔導書だ。

 これを読めば俺も中級魔法を覚えられる。


「ジン? どうしたの?」

「あ、いや、うれしくて言葉を失っていただけだ」


 正直、驚きで声も出ないというのが一番正しい。

 一か月の期間中に見つけられると思っていなかったからな。


 それを一か月どころか、一週間で見つけられてしまうとは。

 間違いなく何かの力が働いている。


「よかったね! これで国立魔術師団に戻れるよ!」

「そうだな」


 そっけない返しになってしまった。

 九割がたニコルのおかげなので、ありがとうというべきかもしれない。


 俺はそう思ってニコルの方を見る。

 ニコルはうれしいような悲しいような何とも言えない顔をしていた。


(そうか。魔導書が見つかったから、探索者生活も今日で終わりなのか)


 俺は魔導書を見つけるために探索者になった。

 見つけてしまえば、探索者生活も終わり。


 つまり、ニコルともお別れということだ。


(いや、一か月間猶予はあるんだから、別にすぐにお別れする必要はないのか)


 契約書には一か月以内に中級魔法が使えるようになればクビは取り消すと書かれていた。

 魔導書を見つければすぐに帰らなければいけないとは書かれていない。


 中級魔法が使える状態で、ニコルと一緒にダンジョンに潜ればいい。


「ニコル。これかーー」

「ねぇ! お祝いしよ!」

「……お祝い?」


 俺の言葉を遮るようにニコルが言う。


「そう! 魔導書発見記念のお祝い! 私の借金完済のお祝いも兼ねて!」

「まあ、別にいいんじゃないか?」


 たしかに、魔導書を見つけられたことはめでたいことだ。

 それに、昨日ニコルの借金は返し終わった。


 中層の稼ぎはやっぱり浅層とは全然違う。

 借金返済の際に、借金をしていた商会の跡取りがニコルにプロポーズしてきたりしたが、特に問題なく返済できた。

 そういえば、そのゴタゴタのせいで昨日は宿に帰った後軽く夕食を済ませて寝てしまったのだったか。


 せっかくだし、お祝いをしてもいいとは思う。


 俺としては、毎日お祝いのように楽しく夕食をとっているような気分だが。

 魔導士団ではレオナルド以外話す相手はいなかったし、食事もみんな静かに食べるものって感じだったからな。


 探索者になってからはいろいろな人に声をかけられるようになった。

 ニコルはどうやら、前はかなり探索者に友達がいたらしい。

 何人か探索者がザビンとの件で誤解していたことを謝りに来た。

 そして、そのままギルドに併設されている酒場で夕食をご馳走になったりしていたから、夕食はいつもニコル以外の探索者も何人か一緒にいたのだ。


 関係ない俺がご馳走になるのは悪いからって相手の防具とかに最下級の修復魔法の『リペア』とかをかけてたから、それ目当てのやつもいたかもしれないが。

 三日前くらいからは俺におごれば武器防具を修復してくれるという噂が出回ったらしく、修復目当ての探索者が押しかけてきてるし。

 多分、すでにニコル目当ての探索者より俺の魔法目当ての探索者の方が多い。


 魔力は使い切っても翌日には回復するので、探索後ならいくら魔法をかけてもいいしな。


「よし! そうと決まればダンジョンを出よう!」

「うわ! 引っ張るなって」


 たしかに、普段はそろそろ帰る時間だ。

 だからといって焦ってダンジョンを出る必要もないだろうに。

 よっぽど借金返済がうれしかったのかな。


 俺はニコルに引っ張られるようにしてダンジョンを後にした。

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