最強魔法使い、反撃する④

「ジン!」

「うわ!」


 ニコルは俺に抱きついてくる。

 ここは敵の本拠地の中なのに、無防備な。

 部屋にはかなりの数の探索者がおり、もう安全だろうけど。


 部屋の外からはバタバタという音が聞こえてくるが、それもだいぶ小さくなってきている。

 もうほとんどの闇ギルドメンバーは捕まえたのだろう。


 だからってこんなところで抱きついてくるのはどうかと思う。

 別に恋人というわけでもないんだし。


 周りの探索者も生暖かい目で見守っている。

 違うんだって。

 ニコルは普通のパーティメンバー以上の感情を持っているけど、恋人じゃないんだって。

 強いて言うなら相棒か?


「大丈夫だって言っただろ?」

「でもー」


 俺はニコルの頭を撫でる。 


 ニコルは最後まで俺の作戦に反対していた。

 探索者がいつでも助けに入れるようにしているとはいえ、危険には変わりない。


 でも、俺も一発くらいやり返しておきたいんだ。

 死にそうになったんだからな。


 ……死にそうになったのは迷子になったからだっけ?


「ジンさん」


 カレンさんが話しかけてくる。

 ギルド職員さんがどうしてここに?

 確か、支部長がバックにいるから探索者ギルドは関わらないはずでは?


「ギルド職員さんは参加しないはずじゃ?」


 俺はカレンさんに尋ねる。


 支部長も飛ばされるまでに一人二人首にするくらいはできるだろうから、ギルド側は何も知らなかったと言うことにするという手はずだった。

 実際はギルドマスターを含め、結構な数の職員が知っているんだが。


 だから、ここにカレンさんがいるのはおかしい。


「さすがに証拠品を誰かが確認しないといけませんよ。職を失ったらジンさん、養ってくださいね」

「ははは。失敗したら俺も無職になるのにどうしろって言うんですか?」


 失敗はありえないが、『酔い狼』が予想以上に強かったり、決定的な証拠を掴む前に支部長が出てきたりすることは考えられた。

 その場合は、尻尾を巻いて逃げ出す必要がある。

 最悪、関わった全員を街から連れて逃げ出さないといけない。


 そんなことはありえないだろうけど。


 それに、そんなことしたらこの街から探索者がいなくなって大変なことになってしまう。

 今回関わっている探索者はそれだけ多いのだ。

 俺の知らない中層の探索者も何人か参加していたし。


 『酔い狼』は相当嫌われていたらしい。


 そこまで多くの探索者がいなくなれば困るので、探索者ギルドも支部長に対抗して動いてくれるだろう。


「大丈夫ですよ。ジンさんなら別の街で冒険者として十分やっていけます」

「かいかぶりですよ」

「そんなことありませんよ。その時は私も一緒にダンジョンに潜りますから。私こう見えて結構強いんですよ」


 カレンさんは可愛くガッツポーズをする。


 カレンさんはここまでこれたのだ。

 相当強いのだろう。


 それに、ギルド職員はもしもダンジョンからモンスターが溢れてきたときの最初の防衛戦を構築する役目がある。

 つまり、ギルド職員になるには一定以上の実力がいるのだ。


 噂では中層探索者レベルの職員は少なくないのだとか。


 ……もしかして、カレンさんは無茶苦茶強いのか?


「その時はパーティを組みましょうか」

「約束ですよ」


 そういたずらっぽく笑ってカレンさんは闇ギルドのギルドマスターの方へと向かって行った。


 いや、もう闇ギルドのギルドマスターは抑えられたからその約束が履行されることはないんですけどね。 

 カレンさんなりの冗談だったんだろう。


 今回の作戦は驚くほどうまくいった。


 普通はどこかでトカゲのしっぽのように支部が切り捨てられてギルドマスターのところまではたどり着かない。

 最初に向かった拠点に闇ギルドのギルドマスターがいない時点で、潰滅まではいかないと思っていた。

 普通は探索者の中に諜報員が入っていたりして途中で情報が漏れる。


 『酔い狼』はそこまでの情報収集能力はなかったらしい。

 それに、『酔い狼』はいきなり大きくなったので、規模の割に構成員の強さとかがイマイチだった。

 おそらく他の闇ギルドであればここまでうまくはいかなかっただろう。

 所詮、支部長の腰巾着ということだな。


 カレンさんは部屋の中やギルドマスターの装備を確認しながらギルドマスターに近づいていく。


「この絵画はある商家から盗まれたもの。それに、あなたが持っている短剣はこの前殺された探索者の持ち物ですね。どちらも捜索依頼が出されています。どうしてこれがこんなところにあるのか、お話ししてくれますね」

「……」


 ギルドマスターは口をつぐんでそっぽを向く。

 ギルドマスターも抵抗しても無駄だとはわかっているのだろう。

 暴れたりはしていない。


 この状況で反撃は無理だ。

 もし暴れてカレンさんを傷つけたりしたら罪が増えるだけだ。


 支部長の腰巾着をやっていただけあって、そういうずる賢いことには頭が回るらしい。

 そんなことしても無駄な気がするけどな。

 すでに決定的な証拠が出ているみたいだし。


「まあいいでしょう。他のメンバーもかなり捕まえています。余罪もありそうなので、詳しくは探索者ギルドで聞きましょう。衛兵さんもすぐにきてくれるでしょう。連れて行ってください」


 カレンさんの指示でギルドマスターは探索者に連れられて行った。

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