最強魔法使い、反撃する③
「!!」
俺は闇ギルドのギルドマスターに向かって魔法を放つ。
だが、さすがはギルドマスターといったところか。
ギリギリのところでその魔法を避ける。
俺の魔法は窓を破って外に出て行った。
闇ギルドのギルドマスターはただ避けただけではなかった。
避けるついでにナイフを投げ返してきたのだ。
だが、そのナイフは俺の服に当たって止まる。
どうやら、装備の質では間違いなく俺の方が勝っているようだ。
あのナイフも浅層レベルってところだろう。
キャサリンセレクトの中層用の装備を傷つけるほどではなかったらしい。
「してやられたな。お前が本物のジドってやつか」
「ジンだよ。ターゲットの名前くらいちゃんと覚えておけよ」
俺はものまねの魔法を解除する。
俺の顔は麻袋の中に入っていた男のものからいつものものに戻る。
これは人に化ける魔法で、最下級魔法だ。
便利な魔法に見えるがそうでもない。
重要な役所とかには魔法防御の魔道具とかがあって、使うことはできないのだ。
それに、頑張ってかけ続けていないと一分も持たずに切れちゃうしな。
使えるのは宴会芸とかくらいか。
流石最下級魔法。
夕食一回分のお値段は伊達じゃない。
闇ギルドのマスターは俺の方を苛立たしげに睨みつけてくる。
「お前どうやってここにきたんだ!」
「さっき見ただろ? モノマネの魔法でお前の部下に化けてきたんだよ」
「下っ端にはこの場所を教えていなかったはずだぞ!」
「あぁ。だから、下っ端を捕まえて、その上司に化けて、さらにその上司に化けて来たんだよ。みんな少し脅せばペラペラと話してくれたよ」
最初は下っ端もボスの場所を知っていると思っていたが、流石に下っ端の知っているところはダミーだった。
だが、ダミーのところにも『酔い狼』の構成員がいて、そいつらを全員とっ捕まえて、いちばん偉そうな奴から次の場所を聞き出した。
そこもダミーだったので、もう一度同じことをした。
馬鹿の一つ覚えのように同じ方法で本部を隠すからそれを何度も繰り返す羽目になった。
ほんと、面倒なことをしてくれる。
三回ほど化けないといけなかったが、ちゃんとこの場所にたどり着いたからよしとしよう。
「は。まあいい。わざわざ一人で捕まりにくるとは。お前はやっぱり馬鹿だな。少しはやるようだが、ここは本部だ。他の場所とは詰めてるギルド員の質も量も違う」
「……いや、一人でくるわけないだろ?」
俺は呆れたようにため息をつく。
敵の本拠地に単身で乗り込むなんて、子供だってそんなことしない。
「何?」
「何のために窓の外に向かって『プチファイヤ』を打ったと思ってるんだよ?」
部屋の外からガヤガヤと声が聞こえてくる。
ちゃんと増援がきたようだ。
もう四回目だから、手慣れたものだ。
「な、なんだ!? 何をした!」
「簡単だよ。俺を助け出すクエストを出して、探索者に受けてもらったんだよ」
俺がさっき打った『プチファイヤ』は窓の外に飛んでいった。
あわよくばギルドマスターに当たればと思ったが、本気で当たるとは思っていなかった。
ニコルだって避けるからな。
アレは探索者たちに対する合図だ。
あれを打つことで外にいる探索者にここも闇ギルドの支部だったと知らせたのだ。
一人も逃さずにこれまで制圧できたのも探索者が協力してくれたからだ。
「なに? お前捕まってないじゃないか!」
「そうだな」
最初はニコルが捕まってるってことにして始めようとしたんだが、ニコルの友人が捕まっているっていうだけでも探索者ギルドに依頼できるとカレンさんが教えてくれた。
そこで少しだけシナリオを変えた。
他のギルド職員も聞いているようだったけど、何も言ってこなかったのは見逃してくれるということなんだろう。
実際、俺の偽物は捕まってたし、俺はちゃんとギルドの中にいる。
状況的には嘘は見つけられない。
唯一、闇ギルドのメンバーの証言が嘘だと示してくれるが、そんなの信用されるはずがない。
目撃者がいても闇ギルドの肩を持つものはまずいない。
仲間とか思われたら最悪だからな。
「誘拐の件は誤解だったって言うことになるかもしれない。だけど、この拠点を調べられても大丈夫なのか?」
闇ギルド『酔い狼』は色々とあくどいことをしている。
捜査がちゃんとされないので、尻尾は掴まれていないが、証拠はこの拠点にいっぱいある。
今まで潰した支部にもそれっぽいものは色々とあった。
犯罪の証拠となるまでのものは見つからなかったが、本部であるここはどうだろうか?
この状況ならこの場所を捜索することはできるだろう。
なんたって誘拐の現行犯なんだからな。
「くっ!」
「おっと。逃さないぞ」
ギルドマスターは何処かへ行こうとする。
どうやら、この場所には見つかったらまずいものは色々あるらしい。
俺は魔法でギルドマスターのいく手を阻む。
色々とされたら面倒だからな。
ギルドマスターは俺を睨みつけてくる。
「俺たちにこんなことしてタダで済むと思ってんのか。こっちには支部長さんがついてんだぞ!」
「おー。小物くさいセリフ。大丈夫だよ。その支部長は多分飛ばされるから」
権力者の存在をちらつかせてくるとは、何とも小物臭い。
その権力者が今や風前の灯だというのに。
レオナルドが動いている以上、確実に支部長はいなくなるだろう。
向こうも結構な貴族らしいから、異動になるだけかもしれないが、この町からいなくなるのは間違いない。
あのクズをクビにしたい気持ちもあるが、仕方ない。
今の俺にはその力がない。
だが、異動もクビもこのギルドマスターとしては一緒だろう。
支部長はもうこのギルドマスターを庇うことはない。
ギルドマスターの顔は真っ青になっていく。
どうやら、俺が本当のことを言っていると感じたのだろう。
こいつから見ても支部長はやりすぎに見えたのかもな。
ーーバン!
そして、大きな音がして扉が開き、探索者が流れ込んでくる。
ギルドマスターは観念したのか、ガックリと膝をついた。
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