最強魔法使い、探索者になる。③
「……」
探索者ギルドの中はシーンと静まり返っていた。
俺がザビンを倒したことがそれだけ衝撃的だったんだろう。
無理もない。
俺みたいな小柄な少年がザビンみたいな大男を倒してしまったのだから。
さっきはにやにやと俺とザビンのほうを見ているものもいたが、今はぽかんとした顔で見ている。
(やりすぎたか?)
『プチファイヤー』はちゃんと全部防具に当てた。
だから、ザビンも死んではいないはずだ。
死んでさえいなければ回復魔法で何とかできる。
ちらりとザビンの方を見るが、大したけがはしていないようだ。
息もしてるし。
本当に中層を探索しているのであれば、『プチファイヤー』の数発程度でどうにかなることはないだろう。
魔導士団の実践稽古でもあの程度の魔法であれば使ったことがある。
……俺の相手をしてくれるのはいつもレオナルドだったから普通ではないのかもしれないが。
武器や防具が壊れてしまったので、金銭的には痛いかもしれない。
だが、自分からケンカを売ったのだ。
それくらいは仕方ないだろ。
……少しかわいそうか?
中層を探索する武器や防具は高いんだよな。
下級魔法で壊れたということは壊れかけだったのかもしれないが、あの程度なら魔法で直せる。
装備の質も大したことなさそうだ。
あの程度の破損なら下級魔法で何とかなるだろう。
魔導士団の装備は深層も探索できるものになっている。
俺はこの二年間ほとんど一人で団員全員の武器や防具を整備していた。
最初のころは下級魔法ではうまく修復できなかったが、だんだんできるようになっていった。
壊れてるところにこう、魔力を多めにぶわーってやるとちゃんと直せるのだ。
魔力に余裕はあるし、直してやろう。
(いや、今はチャンスじゃないか)
俺はザビンの武器を直そうと一歩踏み出そうとして立ち止まる。
今は自分を売り込むチャンスなんじゃないか?
俺は今、かなりの注目を集めている。
今探索者ギルドにいる人間のほとんどが俺の方に注目している。
今は朝だから、この街にいるほとんどの探索者がここにいるはずだ。
パーティメンバーを募集するのが一番効率的じゃないか?
よく見ると、仲間に誘おうとしているのか、こちらに声をかけようとしているものもいる。
あと一押しすれば、パーティ募集がぶわっと増えるだろう。
「俺は元国立魔導士団のジンだ。訳あって一か月ほど探索者として中層に潜ることになった。俺と一緒にダンジョンに潜ろうという勇気ある者はいないか? 短い間だけだが、付き合ってやる」
「……」
誰一人声を上げない。
それどころか、あからさまに目をそらすものまでいる。
さっき俺の方を興味津々な様子で見ていた探索者も目を合わせてくれなくなった。
どうしてだ?
「あの、ジンさん」
「あ、カレンさん」
「これ、探索者章です」
俺が首をひねっていると、カレンさんが木製の探索者章を差し出してくる。
こんな探索者章であれば簡単に偽装できそうだ。
やっぱり入っていく探索者の管理はかなり適当なんだな。
「ありがとうございます」
「それと……」
俺が探索者章を受け取ってお礼を言うと、カリンさんは俺の耳に顔を寄せてくる。
ちょっといい香りがする。
「国立魔導士団は探索者の間では嫌われているので、パーティーを組むのはむつかしいかと」
「えぇ!?」
周りに意識をやると、小声で「あの横暴な国立魔導士団」とか「近寄らないようにしよう」とか聞こえてくる。
カレンさんの言う通り、国立魔導士団は相当嫌われているらしい。
国立魔導士団はほとんどが貴族だ。
同じ魔導士団の俺にだって高圧的に当たるあいつらが探索者に丁寧に接するはずがない。
少し考えればわかることだった。
「国立魔導士団の方がモンスターの間引きをしてくださっているのはわかっているんですが、どうしてもダンジョン内での態度が横暴なものになってしまいますので。あ、別に批判するつもりはありませんよ。でも、ここ一年はほんとにひどくて……」
どうやら、今の支部長になってから態度はさらに悪くなったらしい。
モンスターの横取りなんかも日常茶飯事なんだそうだ。
ギルドにも多くの苦情が上がってきているが、支部長の権力が強いためどうしようもないらしい。
ほんとにあの支部長はいらないことをしてくれる。
俺の探索は最初から暗雲が立ち込めていた。
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