最強魔法使い、探索者になる。②
「ほんとに探索者ができるか俺がテストしてやるよ。なんたって俺は中層を探索する中堅の探索者だからな!」
ザビンはにやりと笑う。
どうやら、こちらからケンカを売る前に向こうからケンカを売ってくれるらしい。
これはラッキーだ。
というか、こいつは中層を探索しているのか。
ちょうどいい。
中層を探索する探索者の実力を知るいい機会だ。
「新人いじめはやめてください! ギルド長を呼びますよ」
カレンさんが困ったような声を上げる。
力づくで止めに入らないということはカレンさんよりこのザビンとかいう探索者のほうが強いのか?
見た感じそんなに強そうには見えないんだが。
それに、周りの探索者もニヤニヤとこちらの方を見ていて止める様子はない。
一部では俺が何秒持つか賭けすら始まった。
このザビンとかいう探索者の実力は本物なようだ。
「知っているんだぜ。カレン。ギルド長と副ギルド長は会議で本部のある王都に行っているってな」
「それは……」
にやりと笑いながらザビンが言う。
どうやら、偉い人がいないからこんなことをやりだしたらしい。
本当に小物だな。
まあ、こちらとしても、止めに入る人間はいないほうが派手なことができて助かる。
「大丈夫ですよ。カレンさん。こんな奴俺が吹っ飛ばしちゃいます」
「ジンさん!?」
カレンさんは焦ったような声を上げる。
まあ、俺みたいな新人がザビンみたいなやつに勝てるようには見えないよな。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!」
「『プチストレングス』」
「きゃぁぁぁぁ!」
俺がカレンさんと話をしていると、ザビンが殴り掛かってくる。
カレンさんは悲鳴を上げる。
カレンさんを怖がらせるとか、この雑魚は万死に値するな。
俺は身体強化の魔法を自分にかけてそのこぶしを軽々と受け止める。
思っていたほどの威力はない。
っていうか、ほんとに中層を探索してるのか?
国立魔導士団の新人より弱い気がするが。
いや、普通の下級魔法の身体強化なら受け止められなかっただろうから浅層より上の実力はあるのか。
「なぁ!?」
「え?」
ザビンとカレンさんは驚いているようだ。
俺が唱えた呪文は下級魔法の身体強化の魔法の呪文。
その程度の魔法では俺のような優男ではザビンが止められないのは二人とも知っているのだろう。
別にこれは俺が加護を受けているからとか、実は筋力が強かったとかそういうわけではない。
当然、種はある。
俺は五重に身体強化の魔法を自分にかけた。
魔法の並列起動は俺の一番得意とするところだ。
魔導士団の連中に押し付けられた雑用を効率的にこなすために鍛えられた技術だけどな。
「次はこっちの番だな。『プチファイヤー』」
俺は人差し指を立てて呪文を唱える。
すると、その人差し指の上にこぶし大の火の玉が出現する。
「ふ、ふん。魔法使いか。だが、下級魔法の『プチファイヤー』くらいでこのザビン様が……」
ザビンは途中で言葉を止めてしまう。
おそらく、俺の後ろに浮く無数の『プチファイヤー』を見たせいだろう。
火の玉はどんどん数を増やしていき、合計二十個になる。
もっと準備できるが、こいつ相手ならこの程度の量でいいだろう。
何も並列起動できる魔法は身体強化だけじゃない。
攻撃魔法や回復魔法だって問題なくできる。
「な、なんだそれは!」
「見ての通り、『プチファイヤー』だよ」
「なんでそんなにいっぱい出せるんだよ!」
魔法の並列起動なんて一介の探索者が見ることはないだろう。
それに、発動した『プチファイヤー』が対象に飛んでいくこともなくその場にとどまっているのも初めて見るはずだ。
魔法を待機させるのは並列起動より難しい技術なのだが、パフォーマンスのためにやってみた。
ザビンには俺が何をしているのかわからないはずだ。
当然、その対処法なんてわかるはずもない。
「な、ちょ、まーー」
「待たない。これ疲れるんだよ。発射」
俺が人差し指をザビンの方に向けると、『プチファイヤー』はひとつづつザビンの方に向かって飛んでいく。
せっかくなので、少し時間差で飛ばしてみた。
どっどっどっどっどっどっ
「く。この。あ。が。ぎゃ。ぐえ。ご」
時間差で発射した『プチファイヤー』がザビンに命中していく。
ザビンも最初の数発は武器で防いでいたようだが、武器が壊れてからは無防備に受けている。
ザビンは一発受けるごとに後ずさっていき、最後には探索者ギルドの壁にぶち当たって止まった。
探索者ギルドは水を打ったように静まり返った。
……うん。
予定通りということにしておこう。
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