最強魔法使い、探索者になる。①

「ここが探索者ギルドか」


 翌日の朝。

 俺は探索者ギルドに来ていた。


 魔導士団でダンジョンに潜ったときは魔導士団専用の入り口から入ったので、探索者ギルドに来たのはこれが初めてだ。


 ギルドの建物は石造りで質実剛健という感じだ。

 要塞みたいでちょっとやそっとのことでは傷つかないだろう。

 スタンピードが起こった際はここが最前線になるのだから頑丈なのは当然だ。


 ギルド職員も、しっかりとした制服を着ている。

 いかにも仕事ができそうな感じだ。


 だが、探索者は俺が想像していた以上に野蛮な存在だった。

 まだ朝であるにもかかわらず、ロビーでは酔っ払った探索者が大声で歌っている。

 どうやら、探索者ギルドには食堂が併設されているらしい。

 そこでは軽食以外にもお酒も提供されているようだ。

 だからって朝っぱらから飲むか?


 魔導士団の受付とは大違いだ。

 あちらはいつ行っても整然としており、カウンターに行けばいつも笑顔の受付嬢が対応してくれる。

 俺には笑顔を向けてくれたことはないが。


 建物が同じような作りだから余計に違いが目に付く。


「おっと。今日は探索者になりに来たんだった」


 あまりにひどい光景にめまいを覚えたが、今日の目的は探索者を鑑賞しに来たわけではない。

 非常に不本意なことではあるが、俺は今日、あの飲んだくれどもと同じ探索者になりに来たのだ。


「すみません。探索者になりたいのですが……」

「探索者登録ですね? 少々お待ちください」


 俺は手近なカウンターにいる受付嬢に声をかける。


 受付の女性は満面の笑みで返事をくれる。

 明るい笑みを見ていると、こっちまで元気になってしまう。


「こちらの登録用紙に記入をお願いします。文字は書けますか?」

「はい。大丈夫です」


 受付嬢のレベルは探索者ギルドの方が上だな。

 魔導士団の受付嬢は顔とコネで入ってきているだけあって顔は悪くないのだが、態度があまりよくないのだ。

 いや、孤児出身の俺相手だから侮っているだけか。


「どうかしましたか?」

「いえ。なんでもありません」


 俺があごに手を当ててくだらないことを考えていると笑顔で話しかけてくれる。

 魔導士団に戻った後受付に行くのが憂鬱になりそうだ。


 気を取り直して登録用紙に目を落とす。


 記入する内容は大したものはない。

 学のない者も探索者登録するのだから当然か。

 どこの国も少しでも多くの探索者をダンジョンに入れたいから、探索者ギルドでは特に身分を問わないのだ。


 ダンジョンの魔物は倒せば素材が取れる。

 それに、ダンジョン内の魔物を放置するとダンジョンの外に出てきてしまう。

 出てきた魔物は探索者ギルドの職員が倒すとは言え、少ないに越したことはない。


 そんなこともあり、探索者は一番一般的な立身出世の方法だ。

 孤児出身のものが探索者として巨万の富を得たなんて言う話も聞いたことがある。

 さすがに貴族になったという話は聞かないが。


 その点、魔導士団ならうまくいけば授爵もあり得る。

 絶対に魔導士団に戻ってやる。


 そんなことを考えながら俺は名前や年齢などの簡単な情報を書き込んでいく。


「書きました」

「確認します。……大丈夫です。きれいな字ですね」


 受付嬢さんは俺の書いた書類を確認する。


 どうやら問題なかったらしく、受付嬢さんはにっこりと微笑みかけてくれる。


 癒される。

 こんな受付嬢さんがいるのならうっかり通ってしまいそうだ。


 いや、明日からここに通うのだったか。

 用事があるときはこの受付嬢さんのところに来るようにしよう。


「これで、えーっと。ジンさんは探索者です。詳しいせつめーー」

「おいおい。ここは探索者ギルドだ子供の遊び場じゃないぞ?」


 後ろからいきなり大きな声が聞こえてきて、受付嬢さんのセリフを遮る。


 酔っぱらいの喧嘩か?

 全く朝っぱらから。

 周りの迷惑を考えてほしい。


 これだから酔っぱらいは。


「おい! 聞いてるのかお前!」


 絡まれるのが嫌なので受付嬢さんの方を向いていると、俺の肩に手が置かれ、無理やり振り向かされる。

 どうやら、さっきのセリフは俺に向けて放たれた言葉だったらしい。


 後ろを振り返ると、筋骨隆々の大男が立っていた。

 別に顔も赤くないのでどうやら酔っ払いではないようだ。


 おいおい、勘弁してくれよ。

 探索者っていうのはこういうのが日常茶飯事なのか?


「お前みたいなもやし野郎には探索者は無理だ。さっさと帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」

「ちょ、ザビンさん! いつも言ってるじゃないですか! 一般人に手を出すのは規約違反です」


 俺がめんどくさそうな目で見ているのにも気づかず、大男は唾を飛ばしながら大声を上げる。


 受付嬢が止めに入るが止まる様子はない。


 どうやら、この男はザビンというらしい。

 ほんとにどうでもいい情報を得てしまった。


「おいおい、カレンさん。一般人に手を出しちゃいけないけど探索者なら別だ。そいつはもう探索者だろ?」

「まあ、そうですが」


 ザビンは俺がさっき受付嬢さんに提出した書類を指さしながらそういう。

 どうやら、あの書類を受付嬢さんに渡した瞬間から探索者になるらしい。

 もしかして、このザビンという男は受付嬢さんが書類を受け取るまで待っていたのか?


 律義というか、小物というか……。


 そんなことより、重要な情報があった。

 どうやら、この受付嬢さんはカレンという名前らしい。


 それを教えてくれたことはこのザビンに感謝してもいいだろう。


 それに、これは俺の実力を示すいい機会なんじゃないか?

 パーティを組むために多くの人に俺の実力を披露しておいた方がいいだろう。


 昨日からいろいろあってストレスもたまっているし、ここは思いっきりやってしまおう。


 俺はにやりと笑いながらザビンの方を見た。

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