最強魔術師と相棒

「ジン。よかったね。おめでとう」


 ニコルは探索者ギルドの正面にある階段に座って独り言を言っていた。

 ジン本人に伝えなきゃいけないことだけど、どうしても直接は言えなかった。


 涙があふれて止まらないのだ。

 こんな顔をジンに見せたら心配させてしまう。


――――――――ぐ~


 その時、ニコルのおなかが鳴いた。

 そういえば、一昼夜動き続けていて、その間何も食べていない。


「おなか、すいたな」


 こんなに悲しい気持ちになっているのはおなかがすいているせいかもしれない。

 おなか一杯になったらちゃんとジンのことを祝福できるかな?


「何か食べたいな」

「サンドイッチ食べるか? おかみさんの特製だぞ?」

「あ。ありがとう」

「俺も食べよ」


 ニコルはサンドイッチを受け取る。


 一口食べると懐かしい味が口の中に広がる。

 少ししょっぱい気がするが、何度も食べた味だ。


 このサンドイッチはいつもおかみさんが探索に行く前に準備してくれるものだ。

 お昼ご飯に毎日ジンと一緒にダンジョンで食べたっけ?

 そういえば、最初にジンと出会った日もジンと二人でこのサンドイッチを食べたな。


 もう、ジンと一緒にこれを食べることは……。


「!! ジン」

「ん?」


 大きな声を出しながらニコルが振り返ると、ジンが隣に座ってサンドイッチを食べていた。

 ニコルは驚きのあまりサンドイッチを取り落としてしまう。


「うわっと。危ないぞ」


 ジンはニコルの取り落としたサンドイッチをキャッチしてニコルに渡す。

 ニコルは涙を拭ってそれを受け取る。


「ありがとう。じゃなくて!?」

「あ~」


 ジンは少し恥ずかしそうに頬をかいた。


○○○


「ど、どうしてここに? 騎士になるために領主様のいる街に向かうんじゃないの?」

「あの話は断った。明らかに力不足だしな」

「えぇ!」


 ニコルは驚きの声を上げる。


 実際、俺はまだ力不足だ。

 上級魔法もまだ使えないし、お金だってない。

 今回スタンピードの主を倒せたのだって、ニコルがいてくれたからだ。

 ニコルがいなかったらウッドドラゴンの攻撃をよけられず簡単に倒されてしまっていただろう。


 今この状態で騎士になったとしても騎士になった後に苦労するに決まってる。


「いいの? ジン。いつも出世したいって言ってたじゃん!」

「まあ、それはそうなんだけど。やっぱり騎士団って気疲れしそうだしさ」


 騎士団は魔導士団以上の階級社会だ。

 魔導士団のように平民からなる方法がないので、俺以外は全員貴族だろう。


 正直、魔導士団でもうまくやれなかったのに、魔導士団以上にきつい階級社会でやっていけるわけがない。

 魔導士団を離れてわかったが、魔導士団のような貴族性の階級社会はもともと俺には向いていなかったのだ。

 たぶん騎士団に入ったとしても数年の間に何かやらかして物理的に首が飛ぶことになると思う。


「でも……」

「それに、騎士団にはニコルがいないだろ?」

「ジン……」


 やっぱり、一番の理由はそこだ。

 俺はニコルとの生活は今までの人生の中で一番楽しかった。


 たしかに、出世したいっていう気持ちは大きい。

 でも、今の楽しい生活を投げ捨ててまで出世したいかと聞かれると今はそこまでの思いはない。


 貴族の末席に加わるなんて言うチャンスは二度とないかもしれないが、おそらく後悔はしないと思う。

 むしろ、今の生活を捨てる方が後悔しそうだ。


 ニコルは俺の言葉を聞いてあっけにとられたような顔をした後頬を緩ませる。


 俺は恥ずかしくなって立ち上がる。

 そして振り返ってニコルの方に向かって握手を求めるように右手を差し出した。


「これからもよろしくな」


 ニコルはしばらく俺の右手を見つめた後、俺の目をじっと見てくる。


「……」

「……」


 しばらくして、立ち上がり、俺に向かっ手いつもの笑顔を向けてくる。


「後悔しても知らないよ?」

「大丈夫だよ」


 ニコルは俺の右手を強く、強く握りしめた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【あとがき】


長い間お付き合いありがとうございました。

これにて一旦完結となります。


続き予定は未定です。


ダンジョンがなぜあるのかとか、ニコルは何者なのかとか、色々と書きたいことは残っていますが、その辺はまた機会があれば書こうと思っています。


この作品は元々、小説関係の書籍を色々読んで、プロットを先に書いてから10万字で仕上げようと先に決めてから書いた作品ですので、ここで終わることは既定路線でした。

個人的にこういう、「俺たちの戦いはこれからだ!」エンドというか、続きは読者が想像してください。っていうおわり方好きなんですよね。


あとがきが長くなりましたが、ここまで続けてこられたのも、読者のみなさんのおかげです。

応援ありがとうございました。


それでは、また別の機会にお会いしましょう。


砂糖多郎

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ブラック魔導師団をクビになった最強魔法使い、探索者として楽しく生きる。~探索者生活が楽しすぎて今更戻れとか言われてももう遅い。大変だとか言われても ざまぁ としか思えません~ 砂糖 多労 @satou_tarou

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