最強魔法使い、スタンピードと戦う⑤

「先生! ありがとう!」

「気を付けろよ」


 スタンピードがはじまってからいったいどれくらいの時間が立っただろう。

 少なくとも一時間以上は経っていると思う。


 支給されたポーションの空き瓶が俺の周りにはかなり転がっており、お腹もタプタプだ。


 だが、魔導士団はまだ来ない。


 魔導士団が来れば防衛線は一気に優位に戦えるようになる。

 中級魔法の使い手が相当数いるというのもあるが、上級魔法を使える支部長がいれば戦況を一気に変えることだってできる。


 だが、スタンピードが始まれば一時間ほどで来られるように訓練しているはずの魔導士団がまだ来ないのだ。


(まずいな)


 さっきからかなりの量の武器を直している。

 それに、探索者も疲れてきているのか、ポツポツ怪我をして戦線を離れる者も出てきている。


 けが人は傷を治したらすぐに戦闘に戻っていくため、俺がいるような戦場から少し下がったところで簡単な治療を受けている。

 もう戦えないものも外に運び出す人員がいないので、その場で横になっていることしかできない。

 おかげで俺がいる場所の周りは野戦病院のような状況になっている。


「先生! お願いします」

「あぁ! 『リペア』」


 俺が武器の修復を依頼してきた探索者の剣に魔法をかけると剣は砕け散る。


「な、なんだ!?」

「耐久限界だ」

「そんな」


 魔法で無理やり治していたので、武器の方が耐えきれずに砕け散ってしまったのだ。


 この探索者は今日何度も武器を直している。

 ほかの探索者の武器もかなり直しているから正確には覚えていないが、この探索者はすでに五回くらいきている気がする。


 魔術で武器を直すと武器が壊れやすいのだ。

 今みたいな乱戦状態だと魔術で直さなくても壊れていたかもしれないが。


 武器を失った探索者は戦うことができない。

 そして、さっきからこんな感じで武器が壊れている探索者が結構いる。


 怪我による離脱と武器の喪失による離脱でかなりの探索者が抜けているはずだ。


 そして、何よりそうやって早くに離脱するのは最前線でモンスターと対峙する探索者が多いのだ。

 そう言った探索者が抜けることは後衛の探索者が抜けるより影響が大きい。

 後衛の探索者は前衛の探索者がいないと戦うことはできない。


 今はまだ持っているが、いつ均衡が崩れるかわからない。


「俺の武器を使ってくれ」

「すまん! 恩に着る!」


 探索者は近くにいた療養中の探索者から武器を借りて走って行く。

 さっきから何度か見た光景だ。


 自分の武器ではなくても戦えるが、怪我はしやすくなる。


「はい。ジン! 魔力回復薬」

「ありがとう」


 ニコルが俺のところにポーションを持ってきてくれる。

 彼女は戦場を駆け回っていろいろな所で活躍している。


 最初は戦闘に参加していたのだが、俺の身体強化をかけると一番足が速い。

 それに気が効くから必要な所に必要な支援ができる。

 だから今は伝令や物資の補給なんかの支援要員をしてくれているのだ。


「それと、それで魔力回復薬は最後だって」

「……そうか」


 ニコルは俺にポーションを渡すと走り去っていく。


 資産も尽きてきた。

 体力回復系のポーションはとっくにそこをついている。

 そうでなければ野戦病院みたいな状況になるはずがない。


 今までは回復魔法で回復していたが、魔力回復ポーションが尽きたということはそれもできなくなるだろう。

 回復役には武器を修復している俺より優先してポーションは回っているはずだが、大きく違いはないはずだ。


 これからもっと戦線を離脱する探索者は増えていくだろう。


「ジン。お困りみたいね」

「……キャサリン?」


 俺に話しかけてきたのはキャサリンだった。


 どうしてキャサリンがこんなところにいるんだろうか?

 もしかしてキャサリンも防衛戦に参戦するのか?


「大変だと思って、武器、たくさん持ってきたわよ!」

「! 助かる!」


 どうやら、キャサリンは武器を持ってきてくれたらしい。


 新しい武器があれば戦えるものも増える。

 実際、キャサリンが持ってきた武器を持って前線に参戦して行く探索者がいまも何人かいる。


「武器だけじゃないわ。防具や回復薬もちゃんと持ってきてるわ」


 よく見ると、キャサリンは一人だけできたわけではなかった。

 近くの道具屋のおっちゃんが怪我をした探索者に回復薬を使っている。

 その向こうでは大量の矢を担いだ武器屋の店員らしいものが弓使いに矢を配っている。


 他にも医師や錬金術師など、街で働く色々な人が探索者の支援をしていた。


 これなら何とか持ちこたえられるかもしれない。


「よし! 皆魔導師団が来るまでもう少しだけ頑張ろう!」

「「「おー!」」」


 俺たちは防衛戦を再開した。


***


「魔導師団。到着しました!」

「やっときたか!」


 それからしばらくして魔導師団がやってきた。

 かなり時間がかかったが、なんとか到着したらしい。


「よくいらっしゃいました。‥…あれ、支部長は?」

「それが……」


 ギルドマスターが魔導師団の方へと駆けて行く。

 魔導師団の人がギルドマスターに耳打ちをする。


「はぁ!? 支部長が逃げた!?」


 ギルドマスターの大きな声が聞こえてきたのはその直後のことだった。

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