最強魔法使い、スタンピードと戦う④

「お? 先生も参戦ですか?」

「先生がくれば百人力だ」


 俺が防衛戦の待機場所に行くと熱烈な歓迎を受けた。


 スタンピードの対処はいつもダンジョン入口前の大きな広場で行う。

 ここはスタンピードの主が出た際、多くの探索者が同時に戦いやすいように少し広くくりぬかれている。

 そして、広場とダンジョンを繋ぐ通路はかなり狭くしてある。

 これは主が出てくるまえにやってくる大量のモンスターが一列になり、撃退しやすいようにする工夫だ。

 先人の知恵というやつだろう。


 スタンピードの主が出ていない今は防衛最前線は通路に入って少ししたところになっている。

 広場は物資の蓄積場所や探索者の待機場所として使われていた。


 その待機場所には昨日一緒に『酔い狼』を潰した探索者たちが待機中だった。


 どうやら、今は浅層の浅い部分のモンスターが出てきている段階なので、浅層の浅い部分や最浅層を探索している探索者が防衛線の主流なようだ。


 浅層のモンスターが出てきているので最浅層の探索者には少しきついように思ったが、回復系の魔法使いや強化系の魔法使いの支援を受けて有利に戦えている。

 防衛戦は長期戦になる。

 普段、中層や中層間近の探索者は中層のモンスターが出てきてその力が必要になるまでここで待機することになる。

 俺とニコルもこの待機組だ。


 中には好戦的ですでに前線に行っている者もいるらしいが。


「先生! 少し武器がおかしいので直してください。スタンピード中に壊れたらまずいので。お金は後で必ず払います」

「俺もお願いします。切れ味が最高の状態で参戦したいので」


 俺がダンジョンの入り口の防衛地点に来ると、数人の探索者が修復魔法を依頼してくる。


 たしかに、最高の状態で参戦する方がいいだろう。

 その方が楽に戦えるし、怪我なんかもしにくい。


 長期戦になるスタンピードではちょっとしたことでも大きく影響しやすい。

 ここで修復魔法を使うのも立派な仕事か。


「今日は誰でも武器を直す。だから、武器が不調なやつは持ってきてくれ」

「まじか!」

「いいのかよおい」

「今回は特別だ。魔力の回復ポーションも支給されるし、スタンピードの防衛で壊れた武器はギルドが補填してくれるらしいからな」


 俺がカレンさんの方を見ると、カレンさんは苦々しそうにうなづく。


 魔法で直した武器は壊れやすい。

 一定以上のダメージを受けている武器は魔術で直しても今回の戦闘で完全に壊れてしまうかもしれない。


 ギルドとしては出費が増えるからあまり歓迎できることではない。

 もしかしたら俺に修復魔法の使用料を払わないといけないかもしれないしな。


 だが、武器を直せば間違いなく探索者のパフォーマンスは上がる。

 探索者ギルドとしては苦渋の選択だろう。


「じゃ、じゃあ俺も!」

「壊れかけの武器があるんだ」


 俺の周りに続々と人が集まってくる。

 その中には普段、俺を敵視している者もいた。


 俺はいきなり出てきて中層に行ったので、俺のことを敵視している探索者も少なくない。

 中には俺に聞こえるように舌打ちをして行くような奴もいる。


 だが、俺はそんなことを気にせず、次々にその人たちの武器を直して行く。

 今はそんなことを気にしている場合ではない。


 それ以前にこいつらの嫌がらせなんて魔導師団のにいた頃に比べれば可愛いものだ。


「ニコル、悪いんだけど」

「わかってる。遠くにいる人たちにも伝えてくればいいんだよね。前線にも行ってボロボロの装備の人がいたら連れてくるよ」

「頼む」

「任せて」


 ニコルは走り去っていく。

 せっかく直すなら、全員の装備を直した方がいいだろう。


 俺はその場に座って流れ作業でどんどん装備を直していく。


「相変わらず、すごい魔力だな。ジン」

「ん? あ、レオナルド!」


 顔をあえると、そこにはレオナルドが立っていた。

 彼は俺に向かって微笑みかけてくる。


「早いな。帰ってくるのは明日だったんじゃないのか?」

「副支部長から支部長が何かしてるらしいと連絡があったんだ。それで急いで帰ってきた。こんなことになっているとは思わなかったけどな」


 どうやら副支部長が手を回してくれたらしい。

 あの人は支部長と違って有能だったからな。

 腹に一物抱えてそうだったけど。


「ジンがいろんな人に囲まれているのを見るのは不思議な気分だな」

「前だって、雑用を押し付けるためにいろんな奴らに囲まれてたよ」

「その時とは全然違うだろ?」

「うーん。確かに……」


 レオナルドは俺の周りにいる探索者を見ながらそんなことをいう。

 俺も作業を続けながら少しだけ周りを見た。


 レオナルドの言う通り、あの時とは少し違う気がする。

 でも、何が違うんだろうか?


 魔導師団の時と同じように俺の周りには利益を求めていろんな探索者が集まっている。

 だが、あの時と違って嫌な気持ちはしない。

 それどころか、やって満足している自分がいる。


 俺は首を捻る。


「ジン、それはーー」

「助けてくれ! 強いモンスターが混ざり始めた!」


 入り口の方から大きな声が聞こえてくる。

 どうやら、スタンピードが次の段階に進んだらしい。


 防衛線を張っていた探索者たちがどんどん押し込まれてくる。

 少し早い気もするが、参戦した方がいいかもしれない。


「よし。俺も」

「ジンはここで魔法を使って武器の整備をしておいてくれ」


 レオナルドはそう言ってスタンピードの先頭の方を見る。

 その瞳はいつもにまして真剣だ。


「武器や防具が万全の状態じゃないと戦い続けられない。長期戦になるから整備は任せる」

「そうだな」


 俺はレオナルドの意見を聞いて腰を下ろす。


 たしかに、戦闘は誰にでもできるけど、修復魔法は俺にしかできない。

 俺はここで修復魔法を受かっているのが一番いいだろう。


「じゃあ、俺も参戦してくるよ」

「おお。よろしく頼む」


 レオナルドはにこりと微笑みを残して前線に向かう。


「俺も頑張らないと」

「先生! 剣が刃こぼれした! 直してくれ!」

「こっちに持ってきてくれ!」


 俺は持ち込まれる武器をどんどん直していった。

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