最強魔法使い、ウッドドラゴンと戦う③

「これなら増援が来るまで持つかもな」

「そうね」


 レオナルドとキャサリンが大活躍するニコルの様子を見てそんなことを話している。


 ニコルが注意を引きつけ、さっきから犠牲は出ていない。

 攻撃こそ効いていないが、逃げ続ければなんとかなりそうに見える。


 たしかにこの状況を見ればそんな楽観的に感じられるかもしれない。


「いや、無理だ」

「え?」

「どうして?」


 俺が否定的な発言をすると二人は俺の方を見る。

 俺もこの状態を続けられれば犠牲を出さずに済むと思う。

 この状態を続けられればだが。


「あの状態は三十分も持たない。三十分経つと身体強化魔法の反動で動けなくなるんだ」


 ニコルは身体強化を十回もかけた。

 前にも遊びでニコルに二十回身体強化をかけたことがある。

 その時は、五分後に気を失うように動かなくなった。

 あの時はほんとに焦った。

 呼吸と脈があったけど、目を覚ますまでは死ぬんじゃないかと気が気じゃなかった。


 今回、二十じゃなくて十にしたのは十だと三十分は持つし、切れた後も気を失うまではいかないからだ。

 気を失った後、何度か実験して十回なら三十分持つことがわかっている。


 だが、一度動けなくなると一時間は戦力にならなくなる。

 途中で切ったとしても、動けなくなるのは一緒だ。

 どうやら、身体強化を何回もかけるとニコルの体にはかなりの負担があるらしい。

 だから普段は負担が少ない五回くらいまでにしている。


 この十回かけも本当にやばい一瞬しかかけないようにしている。

 それでもかなりの体力を奪われるといっていた。


 みんな命がかかっているから今回は特別だ。

 やらないと一生口をきいてくれないかもしれないからな。

 三十分ぎりぎりまでかけるつもりでいる。


 ニコルがいなくなれば戦線は崩壊するだろう。

 だから、三十分以内に何とかしないといけない。


 それ以前にあんなモンスターの目の前で気を失うなんて命にかかわるから、そうなる前には身体強化を解除するけどな。


「そんな」

「三十分以内に何とか対処法を見つけないと」


 レオナルドは絶望的な顔をする。

 キャサリンも真剣な顔でウッドドラゴンの観察を始める。

 何か手掛かりがないか探しているんだろう。


「あれ?」


 しばらくして、キャサリンが何かに気づいたように声を出す。


「キャサリン? どうかしたのか?」

「あのウッドドラゴン、変じゃない?」

「変って?」

「ウッドドラゴンって確か二枚の翼があったはずじゃない?」


 そういわれてみれば、学校で習ったウッドドラゴンには二枚の翼があったような気がする。


 スタンピードの主になるようなモンスターは絵と一緒に弱点なんかが文献に残されている。

 魔導士学園では必ずそれが教えられる。

 魔導士は上級魔法を覚えてスタンピードの主を倒すというのが一つの目標だから当然か。


 それに、その辺を教えてくれる『モンスターの生態』は面白くて、人気の授業だった。

 俺もキャサリンと一緒に毎年受けていた。

 特にキャサリンはモンスターの素材を使った武器や防具を扱う武器店を継ぐ予定だったのでかなり真剣に受けていたのを覚えている。


 だから、ウッドドラゴンもどういうモンスターか覚えていたのだろう。


「でも、あいつにはないぞ?」

「だから変だと思って。生えてるとしたらあの辺よね」


 キャサリンの指さす先を見る。

 ほかの部分がこげ茶色であるのに、その部分だけが薄い茶色だ。


 そういわれて全体を見てみるとあの辺から羽が生えていそうな感じの体をしている。


「もしかして、前の支部長につけられた傷が残ったままなのかも」

「どういうこと?」

「前の戦闘で羽が切り落とされて再生できてないのかもしれない」


 たしか、ドラゴンとかの大型で飛行できるモンスターを倒す際はまず翼を奪うことを推奨してたはずだ。

 前の支部長は奇抜な人ではなかったから、その推奨通りの戦闘方法をとったんだと思う。


 二年前とは言え、一度落ちた羽が生えてくるとは思えない。

 人間だってちぎれた腕とかが生えてくることはないのだから。

 エリクサーとか伝説級の回復薬を使えば治すことはできるが、モンスターが回復薬を使うという話は聞いたことがない。


「なあ、治りきってないなら、あそこなら攻撃が通るんじゃないか?」

「……やってみる価値はありそうだな」


 レオナルドがウッドドラゴンの古傷を見てそんなことを言う。

 たしかに、あそこはほかのとこよりも防御が薄そうだ。

 色も薄いし、なんだか木の中身が見えてるみたいにも見える。


 ウッドドラゴンの生態なんて知らないから、色が薄いからって言って防御力が低いとは限らない。

 だが、やってみても損はないだろう。


「『ファイア』!」


 俺は翼の付け根を狙って攻撃をした。

 俺の『ファイヤ』の魔法は狙いたがわずウッドドラゴンの古傷に命中した。


「ZYAAAAAAAAAA!」


 俺が攻撃を当てると今まで以上の大きな声でウッドドラゴンが鳴く。

 どうやら効いているようだ。

 今まで『ファイヤ』の魔法では身じろぎもしなかったのに。

 これなら何とかなるかもしれない。


 俺は少しだけ期待を持った。

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