最強魔法使い、ウッドドラゴンと戦う②

「ZYAAAAA!」

「へ?」


 大きな鳴き声とともにウッドドラゴンが尾を振る。

 ウッドドラゴンの近くにいた一人の探索者が姿を消し、壁に赤い染みが出来上がる。


 一瞬遅れて、ドラゴンの攻撃で探索者が殺られたのだと気づいた。


「う、そだろ」


 あの探索者はずっとスタンピードの最前線で盾役をしてくれていた。

 防御力も高く、装備もいいものを使っていたはずだ。

 探索者の強さはほぼ装備で決まるといっていい。

 あの探索者の装備はかなりのものだった。

 それこそ、中層のモンスターであれば余裕で対処できるくらいに。


 俺は彼の装備に何度か修復魔術をかけたがまだ壊れる兆候は見えていなかった。

 だから、装備が壊れたせいでやられたわけではない。


 俺たちはスタンピードの主の強さをなめていたのかもしれない。


「う、うわぁぁぁぁ!」


 歴戦の探索者がなんの抵抗もできずに命を落とした。

 それを見て一人の魔導士団員が大声を上げて逃げ出す。


「ZYA?」


 だが、声を上げて逃げ出したのが悪かったのか、その魔導士団員はウッドドラゴンの目に留まってしまった。

 ウッドドラゴンは次の標的をその魔導士団員にしたようだ。


 ウッドドラゴンは大きくその尾を振りかぶり、逃げ出した魔導師団員に向かって尾を振るう。


「ジン! お願い!」

「! 『プチフィジカル』」


 すぐ隣から聞きなれた声が聞こえたので、条件反射的に魔法をかける。


 その直後、ダンというウッドドラゴンが尾を振るう大きな音が響いた。

 だが、今回はシミは増えなかった。


 どうやらうまくやったらしい。


 これまで何度も繰り返したことなので、声をかけられただけでも何をしてほしいか十分にわかった。


 俺の相棒だからな。


「大丈夫?」

「ありがとうございます」


 ニコルが間一髪魔導士団員を救っていた。

 身体強化を重ね掛けしたニコルであればドラゴンの尾よりも早く動けるらしい。

 ウッドドラゴンは見た目以上に動きは鈍重のようだ。


 情報通りスタンピードの主の動きは遅くなっているらしい。

 おそらく最深層ではこうはいかないだろう。

 それがわかっただけでも儲けものだ。


「注意は私が引きつけるからみんなは攻撃を続けて!」

「わかりました! 『ファイヤ』」

「魔導師団は炎の中級魔法で攻撃! 探索者はフォローを頼む」

「「「「『ファイヤ』」」」」


 レオナルドの号令で魔導師団が攻撃を始める。

 その魔導士団員を守るように探索者が布陣した。


 魔導士団員の攻撃がどんどん飛んでいく。


「ZYA?」


 攻撃を受けてスタンピードの主は少しうっとうしそうにしている。

 ダメージはゼロではないのかもしれない。


「ZYAAAAA?」


 四方八方から攻撃しているせいで、スタンピードの主はどこに攻撃したらいいかわからないようだ。

 きょろきょろと周りを見回す。


 もしかしたら目もそれほど良くないのかもしれない。

 蛙とかの爬虫類は動かないものは視界にとらえられないらしい。

 魔導士は動かずに攻撃しているからドラゴンの視界に入っていないのかもな。


「こっちだよ!」

「ZYAAAAA!」


 ニコルがウッドドラゴンの目の前でアピールをする。

 ウッドドラゴンはニコルに気づいたようだ。

 やはり動くものに注意が向かうようだ。


 ウッドドラゴンはニコルに向かって尾を振るう。


 ニコルは当たる直前でその尾をよける。


「当たらないよ」

「ZYAAAAAA!!」


 ウッドドラゴンはニコルが攻撃を避けたことが気に食わなかったらしい。

 ニコルを中心的に攻撃しだす。

 『ファイヤ』の魔法を使う魔導士や魔導士を守る探索者には目もくれていない。


「……すごい。あの子何者だ?」


 レオナルドはニコルを見て呆然とつぶやく。


 レオナルドの気持ちもわかる。

 いつも一緒に探索している俺でも信じられないことがあるからな。


「俺のパーティメンバーだよ。ニコルには『プチフィジカル』の魔法を十回かけてるからな」

「十回? 嘘だろ?」

「二十回までならかけたことがある。それでも普通に動いてた」

「……」


 レオナルドは驚きのあまり声も出ないようだ。

 『フィジカル』系は一回かけるだけなら違和感なく動けるが、二回かけると思ったように動けなくなる。

 三回もかければまっすぐに歩くのも難しくなる。


 俺も複数回かけるときは五回かけて防御みたいな簡単な動作をするのがやっとだ。

 攻撃すると手加減できなくて攻撃したこっちの方が傷ついたりするしな。


 だが、ニコルは俺が何回かけても普通に動いている。

 攻撃力こそそこまで上がらないが、スピードは段違いに上がる。


「化け物だな」

「そうだな」

「類は友を呼ぶというか」

「そ……ん? どういう意味だ?」

「ZYAAAAA!」

「遅いよ。こっちこっち!」


 レオナルドのセリフの意味を問い詰めてやりたいところではあるが、今はそれどころじゃない。

 ウッドドラゴンと戦っているところなのだ。


 ニコルは今もウッドドラゴンの攻撃を完全に避けている。

 だが、向こうの攻撃も効かないが、こちらの攻撃も効いていない。

 それに、ニコルのあの状態には限界がある。

 ウッドドラゴンの体力も無限ではないが、先にニコルが動けなくなるだろう。


 今のうちに何とか打開策を見つけないと。

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