最強魔法使い、ウッドドラゴンと戦う①
「魔導師団! 全員撤退!」
ロイズさんが撤退命令を出す。
出す前から逃げ出していた団員は多かったが、ちゃんと命令を出すことで命令違反にはならないようにしたのだろう。
きっと誰かがちゃんと撤退命令が出ていたと証言してくれるはずだ。
そして、ロイズさんの撤退命令を聞いて残っていた魔導士団の制服を着たものは一目散に逃げだす。
一部の探索者も無理だと思ったのか、一緒に逃げだしている。
幸い、スタンピードの主はまだ広場には姿を現していない。
モンスターも今はダンジョンから出てきていない。
これより後のモンスターはスタンピードの主に倒されたのだろう。
スタンピードの主といってもモンスターたちの主ではない。
視界に入ればモンスターだろうと人間だろうと同じように攻撃する。
もともとスタンピードがモンスターがスタンピードの主から逃げるせいで起こるんだしな。
だから、今逃げだしても後ろから攻撃されることはない。
今残っているモンスターは探索者が対応しているしな。
逃げるなら今のうちだろう。
だが、魔導士団が逃げ出したにもかかわらず、ロイズさんは動こうとしない。
「ロイズさんは逃げないんですか?」
「スタンピード失敗の責任を取らされれば死ぬよりつらいことになるのはわかりきってる。だったら最後まであらがってみるさ」
ロイズさんはそういって杖を構える。
「それに、この街にはもう五年以上住んでるんだ。愛着もある」
「そうですか」
「ジン」
「レオナルド?」
レオナルドが俺のいるところまで下がってくる。
ほかの探索者も俺たちの近くに来ている。
どうやら、前線を少し下げたらしい。
大量のモンスターが出てきていたさっきは通路をふさぐように布陣していた。
だが、これまでと違って、向こうは一体でこちらは複数。
数の利がこちらにあるのだ、少し広く戦った方がいいだろう。
「レオナルドは撤退しなくていいのか?」
「ジンが逃げないと思ったからね」
「でも――」
「それに、俺だけじゃないよ?」
レオナルドの視線の方を見ると数人の魔導師団員が残っていた。
彼らも武器を構えている。
戦う気満々のようだ。
「どうして」
「俺たちはこの街でずっと過ごしてるんだ。戦う理由がある奴だって少なくないさ」
「そうか」
その周りには探索者もかなりの数残っていた。
探索者に関しては逃げだした数の方が少ないんじゃないだろうか?
この状況なら逃げだしても誰も文句は言わないだろうけど、残っているということは彼らにもこの街を守りたい理由があるのだろう。
少し前の俺ならわからなかったが、今なら彼らの気持ちもわかる。
「ジンちゃん」
「キャサリン。状況は?」
「モンスターはさっきから出てきてないわ。残りも今掃除し終わったところ」
そういえば、ここが最前線なのに、もう誰も戦っていない。
取りこぼしていたモンスターとかも掃除し終わったらしい。
スタンピードの主と戦いながらほかのモンスターと対峙するのなんて嫌だからな。
「出てきたぞー!」
前の方から大きな声が聞こえてくる。
そして、ダンジョンからゆっくりとスタンピードの主が現れた。
「ウッドドラゴンか」
そのモンスターは木彫りのドラゴンのような風体をしていた。
木彫りのドラゴンと違うのはその大きさとうごいているということだ。
「どうりで」
「どういうこと?」
「あいつは前の支部長が仕留め損なったモンスターらしい。前の支部長は水系の上級魔法しか使えなかったから」
ウッドドラゴンは水に強い。
上級魔法とはいえ、水系の魔法しか使えない前支部長とは相性の悪い相手だっただろう。
それでも追い返せたのは上級魔法があったからだろう。
ある程度傷つければスタンピードの主は逃げだすと聞いたことがある。
本当なら逃がさないように追いかけてとどめを刺すのだが、魔力切れになったのか、勝てないと思ったのかそこまではやらなかったらしい。
ほんと勘弁してほしい。
おかげで俺たちが上級魔法がない状態でスタンピードの主と戦う羽目になったのだから。
前支部長からしたら次の支部長が対応するから大丈夫だろうと思ったのかもしれないけどさ。
その支部長が逃げ出すことも考えておいてほしい。
いや、支部長が逃げ出すと予想するなんて無理か。
誰もそんなこと予想してなかったからな。
「そんなことは今はどうでもいいさ。今はこいつをどうするかが重要だ」
「そうだな」
こうして俺たちとスタンピードの主の戦闘が始まった。
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