最強魔法使い、スタンピードと戦う⑧
「そのー。ここでは少し言いにくいことなのです。少し私の部屋まで来ていただけませんか?」
「今はそんなことを言っている場合じゃないでしょ!? 私もすぐに前線に出ないといけないんです。ここで話してください」
話しかけてきたギルドマスターは周りをきょろきょろ見ながら話しにくそうにしている。
どうやらあまり周りに聞かれたくないことなのかもしれない。
だが、ロイズさんは今は休憩中だが、もう少ししたら前線に参戦しないといけない。
ロイスさんは魔導士団の中でも腕利きだ。
それに、指揮もできるからいるのといないのとでは全然違うのだ。
ギルドマスターもそのことはわかっていたのだろう、あきらめたような顔をしてロイズさんに近づいて耳打ちをする。
「……」
「はぁ!? 前のスタンピードでは主を倒せてない!?」
「ロイズさん! 声が」
ロイズさんはギルドマスターのセリフを大声で復唱する。
さっきの仕返しのつもりかもしれない。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
話の内容が重要だ。
さっき支部長が逃げたと聞いた時と違って辺りは静まり返っている。
「そんな話聞いていませんよ!?」
「魔導師団でも上位の方はご存知だったはずです。先ほどの発言から知らないのかと思い……」
ロイズさんは苦々しい顔をする。
どうやら、ロイズさんには知らされていなかったらしい。
「くそ。それでスタンピードの主がこんなに早く上がってきているのか」
「どういうことですか?」
「あんまり知られてないことだけど、スタンピードの主っていうのは二度目の襲来だと倍以上のスピードで上がってくるんだよ! おそらく今晩には出てくるぞ」
「えぇ!?」
増援が来るのは早くても明日の朝だろう。
運がよければ今晩にも来てくれるかもしれないが、可能性は低い。
ギルドマスターは汗を拭いながらロイズさんの方を見る。
その瞳には不安そうな雰囲気が見て取れる。
「そうか、それであいつらきたがらなかったのか」
ロイズさんは苦々しげに吐き捨てる。
この場所には魔導士団の上位の人間はほとんど来ていない。
ロイズさんはそれほどくらいの高い人ではない。
それでもここで取りまとめをしているのはロイズさんよりくらいの高い人が今回の出動で来ていないからだ。
おそらくその人たちは前回のスタンピードで主が倒せていないことを知っていて、増援が間に合わないことに気づいていたんだろう。
おそらく何かしら理由をつけて逃げだしてこの街にはいないはずだ。
ロイズさんにそれを伝えなかったのは自分たちが逃げるまでスタンピードを抑えるものが必要だからか。
「ギルドマスター。住民の避難はどうなってますか?」
「九割方は。あと残っている一割は老人や病人など、動かせない人たちです」
「……」
この街にはいろいろな人間がいる。
中には老人や病気で動けない人だって当然いる。
俺がお世話になってる宿屋にも病気の娘さんがいるといっていた。
おそらくあのおばさんも残っているだろう。
そういう人たちはスタンピードを抑えきれなければ死ぬことになる。
そんなこと、させてはいけない。
なんとしてもここでスタンピードを抑えきらないと。
「……魔導師団は撤退する」
「ロイズさん!?」
ロイズさんは予想外のことを言う。
魔導士団が抜ければ戦線は崩壊する。
そんなことはロイズさんだってわかっているはずだ。
「仕方ないだろう!? このままここで防衛をしていてもうまくいかないのは目に見えてる。俺の決定で多くの団員の命をかけるわけには行かない」
ギルドマスターも苦々しい顔をしている。
責任者であるギルドマスターもロイズさんの気持ちはわかるのだろう。
ロイズさんは立場がある。
ロイズさんの指示で魔導士団員を死なせるわけにはいかないのだろう。
それに、おそらく、ここで撤退したとしてもスタンピード防衛失敗の責任はロイズさんが取ることになる。
支部長やロイズさんより上の人間も責任はとらされるだろうが、現場の責任者であるロイズさんが一番重い罪を問われるだろう。
ロイズさんだってそれはわかっているはずだ。
この撤退はロイズさんにとっても苦渋の選択のはずだ。
「ジン。お前も一緒に逃げないか?」
ロイズさんは心配するような顔で俺の方を見てくる。
この人には魔導士団にいた時にも何度かお世話になっている。
俺のことを心配していってくれたのだろう。
だが、俺の答えは決まっている。
「俺は、最後まで残ります」
俺はその誘いを断った。
俺は短い間だったけど、この街のいろんな人とか変わってきた。
見捨てることはできない。
「そうか。武運をいーー」
「ZYAAAAA!」
モンスターの鳴き声が辺りに響く。
どうやら、スタンピードの主がお出ましのようだ。
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