最強魔法使い、スタンピードと戦う⑦

「お疲れ様。交代だ」

「ありがとう」


 何度目かの交代の時間が来た。

 探索者も魔導士団員も戦っていたものと休憩したものが入れ替わっていく。


 魔導士団が来てからは三つの部隊に分けて防衛をしている。

 ここはダンジョンの入り口で少し広くなってはいるが、大人数では戦いにくいからな。


 魔導士団が来てからはかなり有利に立ち回れている。

 半数しかいないとはいえ、全員いれば余裕でスタンピードを抑えられるだけの戦力が魔導士団には配置されている。


 それに、魔導士団員は全員が何かしらの攻撃系の中級魔法を使える。

 スタンピードは中層の魔物ばかりになっているが、探索者がてこずっていても魔導士団員がとどめを刺していっているので余裕を持って戦えている。


 さらに、市民が武器や防具をあるだけ全部供出してくれたのも大きい。

 支部長がやらかしてくれたので、今回の損害はすべて魔導士団で出すということになったらしい。

 そのため、市民は高すぎて売れなかった武器や防具、家宝の武器みたいなものまで持ってきてくれた。

 おかげで、探索者はいつもよりいい武器で戦えており、パフォーマンスが高い。


 ……これ全額保証しようと思ったらかなりやばいことになるんじゃないだろうか?

 俺が払うんじゃないからいいか。


 修理しないと使えないものもあったが、俺が片っ端から治したので想定以上に使える装備が多かったというのもあるかもしれない。

 それを見ていた何人かの商人から専属として働かないかとスカウトされてしまった。

 キャサリンが収めてくれたが、すごい剣幕だった。


 商人を抑えてくれたキャサリンには感謝している。

 だけど、俺はキャサリンの店の専属になるつもりもないぞ?

 あとでちゃんと言っておかないといけないな。


 何はともあれ、この調子であれば増援が来るまで何とか持ちこたえられるかもしれない。

 やばいと思っていたが杞憂だったか。


「おかしい」


 ちょうど交代で戻ってきたロイズさんが俺の隣に座り、ぽつりとつぶやく。

 別におかしな点は見つからなかったので、不思議に思い、俺は作業をしながらロイズさんに質問をする。


「どういうことですか?」

「魔物が強くなるペースが早い気がするんだ」


 スタンピードは魔物がどんどん強くなってくことは有名だ。

 今は中層の魔物が大半になっている。

 だが、強くなるペースが速いとか言われてもわからない。

 俺は今までスタンピードにかかわったことはないからな。


「二年前にスタンピードが起きたときは中層の魔物が溢れてくるまで一日以上かかった。でも、今回は半日過ぎる前から中層の魔物が溢れてきている」

「そういえば……。これ以上中層の魔物が増えればまずいですね」


 気づけば日はどっぷりと暮れている。

 今いるところは窓がないので正確にはわからないが、まだ日の出は遠いだろう。

 つまり、まだスタンピードが始まってから一日もたっていないはずだ。


 にもかかわらず、中層のモンスターがかなりの数混じってきている。

 俺が昔読んだ本にもスタンピードが始まってから一日くらいしないと中層のモンスターは混じってこないと書かれていた気がする。


 だが、実際は魔導師団がくる頃には中層のモンスターが混じっていた。

 まだ一日たっていないが、今では半数以上が中層のモンスターだ。

 それに、全体の数もどんどん増えているように思う。


 今は俺の支援魔法と魔導師団の中級魔法でなんとかなっているが余裕はどんどん無くなってきている。


 この調子で増えて行けば朝には今の倍の数ですべて中層クラスのモンスターが出てくることになる。

 そんなことになれば間違いなく前線が持たない。


 今から何か方法を考えておかないと。

 バリケードでも作るか?


「違う。そうじゃない」

「? どういうことですか?」

「魔物が強くなってきているということはそれだけスタンピードの主がダンジョンの入り口近くまで出てきているということだ。この様子だと朝までにはダンジョンから出てくるかもしれない」

「な!?」


 スタンピードの主。

 スタンピードの発生原因とされるモンスターだ。

 どうやら、深層の向こうにある最深層『魔界』というところのモンスターで、こいつがこちら側に出ようとするためスタンピードは発生するらしい。

 つまり、最上級魔法を使ってやっと対抗できるレベルのモンスターということだ。


 モンスターは階層を移動するごとに弱体化する。

 攻撃力が落ちたり動きが鈍重になるのだ。

 だが、その肉体を守る皮膚が変わってしまうわけではない。

 スタンピードの主は中級魔法では傷すらつけることができないのだ。


「スタンピードの主が出てくるまではかなりの余裕があるんじゃなかったんですか?」

「そうだ。だからおかしいといっている」


 俺も探索者として色々と、このダンジョンについて調べた。


 このダンジョンは階層間の位相が少ないので、下の階層のモンスターが出てきやすい。

 それはつまり、スタンピードが起きやすいということにつながる。


 だが、スタンピードの主が出てきやすいみたいな話は聞いたことがない。

 それに、ロイズさんが経験した二年前のスタンピードもこのダンジョンで起きたものだったはずだ。

 同じダンジョンならスタンピードは同じように起こってもいいはずだ。


「ロイズさん。少しお話が」

「なんですか? ギルドマスター」


 俺とロイズさんが話をしていると、ギルドマスターが話しかけてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る