最強魔法使い、スタンピードと戦う⑥

「おいおい! 支部長が逃げたって本当か?」

「じゃあ誰がスタンピードの主を倒すんだよ!」

「み、みなさん。落ち着いて」


 傷を治したり、物資を取りに戻ってきていた探索者や応援に来ていた市民が魔導士団員を取り囲む。

 せっかく魔導士団員が耳打ちしたのに、ギルドマスターが大声を出したせいで全て無駄になった。


 叫び声をあげた後ギルドマスターは急いで何処かへ行ってしまった。

 たぶん、他の町の探索者ギルドに応援要請をしに行ったのだろう。

 たしか、探索者ギルドには町間で連絡するシステムがあったはずだ。

 それを使うために探索者ギルドに戻ったのだと思う。


「みんな、少し落ち着いてくれ!」


 みんなが、魔導士団員を取り囲んで要領を得ないこと言っている中、すんだ聞き心地のいい声が響く。

 その声を聞いて、魔道師団を取り囲んでいた人たちが声の主の方を見る。


 声の主はレオナルドだった。

 どうやら、レオナルドもちょうど下がってきていたらしい。


 一言で騒いでいた人たちを静かにさせるとか、さすがだな。


「今は少しでも手が欲しい。事情に詳しい数人を残して魔導師団員は戦線に参加してくれ。ロイズさん。あなたが今この中で一番くらいが高い。一番詳しいんじゃないですか?」

「あ、あぁ。そうだな。ありがとう、レオナルド」

「お礼は今はいいです。魔導士団の指揮は私が取ります。ロイズさんは皆に説明をお願いします」

「わかった。皆、レオナルドの指揮に従え」


 ロイズさんの指示に従って右往左往していた魔導師団のメンバーはレオナルドのもとに向かった。

 レオナルドは魔導士団内でも指揮をとったりしていたから、魔導士団員としても従いやすかったのだろう。


「ジン。後でどうなったか教えてくれ」

「わかった。そっちも気をつけろよ」

「あぁ」


 レオナルドは俺に声をかけた後魔導師団員を率いて戦線に戻って行く。

 レオナルドに任せておけば大丈夫だろう。

 いまきたばかりの魔導師団員もいることだし、前線は少しの間は気にしなくても大丈夫そうだ。


 俺はレオナルドに任されたのでロイズさんに向かい合う。


 ほかのみんなも俺の質問が終わるまでは黙ってくれるつもりのようだ。

 レオナルドが俺に任せてくれたからだろう。


 あの一瞬でみんなを統率できるとか、さすがレオナルドだ。


「で、どう言うことなんですか?」

「あぁ。俺も詳しくはないんだが、知っていることを話す」


 支部長は昨日から外出しているとの手紙が残されていたらしい。

 今朝、今までの悪事をもみ消すために動いているところを見たものがいるので、実際は逃げたのだろうということだ。


 支部長が頼れないとわかったので、副支部長は領主様のところに増援依頼をしに行っている。

 しかし、今日明日中には来ないだろう。

 領主様のいる町まではここから半日かかる。

 王都にも別口で増援依頼をしに行っているが、そちらも片道一日かかるから増援が来たとしてももっと先だ。


 きわめつけには勝ち目がないと思った魔導師団員は逃亡したらしい。

 今ここにきている魔導士団員は全体の半分くらいで、あとの半分はどこかへ逃げてしまったそうだ。


「なんだよそれ!」

「本当に申し訳ない」


 探索者の誰かが大きな声を出し、ロイズさんは深々と頭を下げる。

 この人は魔導師団でも穏健派の人だ。

 本当に心苦しく思っているんだろう。


「上級魔法を使える人が来るのは明日の朝ってことですか」

「早くともそうなるだろう」


 領主のいる街までは馬で飛ばしても半日はかかるから、往復で一日はかかる。

 副支部長が向かったのはスタンピードがはじまった後、つまり今日の朝だ。

 助けが来るのは早くても明日の朝になる。


 実際は増援に誰を送るか決定したり、出発の準備をしたりするだろうからもっと先になるだろう。


「そこまで、持ちこたえられるか……」


 誰かがそんなことを言う。


 スタンピードはどんどん強くなっている。

 今も前線を持ちこたえるのがやっとの状況だ。

 物資はすでに町中から集めているので今のものが尽きれば終わりだ。

 今のままだと間違いなく明日までは持たない。


「……泣き言を言っても仕方ない。できることをやろう」

「先生」


 だが、泣き言を言っていても仕方がない。

 できることはまだある。

 それなら、今できることをやるべきだ。


「物資もあるし、人員だって十分いる。まだ無理だと決まったわけじゃない。増援は必ずくるんだから、俺たちがやることはそれまで持ち堪えることだ。諦めるのはやれるだけやった後でもいいだろ?」


 俺の言葉に探索者たちはうなづく。


「そうだな。やろう」

「俺たちならなんとかできるはずだ」

「俺、回復したから行ってくる!」


 俺たちは再びスタンピードに挑んでいった。

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