最強魔法使い、パーティを組む。③
「おかえりなさい。ジンさん」
「戻ってきました。カレンさん」
俺はニコルと一緒に探索者ギルドの窓口に戻ってきていた。
当然、カレンさんの窓口に並んだ。
まだ五時くらいで、普通の探索者はあと二、三時間は帰ってこないらしい。
にもかかわらず、カレンさんの前にだけ列ができていた。
やっぱり美人は人気なんだろう。
列とは言っても二組程度だったのですぐに順番は回ってきた。
俺たちの後ろには誰も並んでいない。
これなら少しくらいなら話をしても良さそうだな。
当然俺はその列に並んだのだが、ニコルも一緒に並んだ。
「少し心配してましたが、大丈夫だったみたいですね。あら?」
「こんにちは。カレンさん」
「ニコルさん。こんにちは」
ニコルもカレンさんと面識があるのかもしれない。
実際、カレンさんはニコルのことを知っているようだし。
そして、俺とニコルが同時に受付をしたことで少し驚いているようだ。
一緒に受付をするのはパーティくらいだ。
この受付でダンジョンで取れたものを買い取ってもらうので、知らない人の収集品と混ざったら問題になるからな。
レア素材とかはそれ専用の窓口があるらしいけど、一般的な素材は受付嬢が鑑定するらしい。
ダンジョンの素材にも詳しいなんて、カレンさんはすごいな。
「ニコルさんはジンさんと知り合いだったんですか?」
「さっき、ダンジョンの中であって意気投合したので、パーティを組むことにしたんです」
ニコルがそういうと、カレンさんは確認するように俺の方を見てくる。
別に嘘ではないので俺はうなづきを返す。
すると、カレンさんは安心したように息を吐く。
どうやら心配してくれていたらしい。
いや、ニコルのことを心配してたのかもしれない。
ニコルもカレンさんと面識があるようだったし、色々知っていても不思議じゃない。
「それはよーー」
「おいおい! 泥棒がパーティを組むとか正気か? ニコルよぉー!」
俺たちがカレンさんと話をしていると、後ろから大きな声が聞こえてくる。
「ザビンさん。やめてください」
どうやら、朝絡んできたザビンが立っているらしい。
カレンさんが声をかけたので振り返らずとも誰が立っているのかわかった。
あいつもニコルと知り合いなのか?
世間は狭いな。
どうやら、ザビンは俺のことには気づいていないようだ。
俺とニコルとザビンを見回しながらカレンさんがおろおろしている。
ここで振り返ればザビンは引っ込むか?
いや、俺も嫌われ者の元国立魔導師団員だからな。
話がややこしくなるかもしれない。
うるさいだけだし無視するか。
俺がどうするか相談しようと思ってニコルのほうを見ると、ニコルは悔しそうに俯いている。
もしかして、こいつが例のパーティリーダーなのか?
「お前、盗掘屋なんてやってるみたいだな。他人のものは盗むし、ダンジョンは荒らすし。ロクでもないやつだよ!」
「……」
どうやら正解らしい。
ニコルは悔しそうに口の端を噛んでいる。
言い返したいけど、言い返せないのだろう。
俺はあのザビンとかいうやつを吹っ飛ばそうかと思ってやめた。
俺がやるべきことじゃあないだろう。
「『プチフィジカル』」
「ジン?」
その代わり、ニコルに魔法をかける。
身体強化をかけたニコルならあんな奴には絶対に負けない。
こういうのは自分で対処するのが一番いいだろう。
ザビンを吹っ飛ばしてしまうと、この後大変かもしれない。
俺がいないとニコルはあいつには勝てないかもしれないし。
いや、装備を揃えればニコルでも余裕で勝てるか?
どちらにせよ、どうせニコルも借金を返せばこの街から離れることになるんだ。
この街ではパーティを組みにくいらしいし。
その借金も俺と一緒に探索しているうちに返せるだろう。
浅層では相当高い借金も中層では少し高い程度の額だからな。
つまり、やっちゃっても問題ないということだ。
「自分で吹っ飛ばした方が気持ちいいぞ?」
「‥…ふふ。やめとくよ。時間の無駄だし」
ニコルは何がおかしいのか、クスリと笑ってカレンさんの方を向き直る。
もう震えもなければ悔しそうにもしていない。
ニコルがそれでいいなら俺は反対するつもりはない。
「おい! 無視するんじゃねぇよ!」
ザビンが騒いでいるが、別に気にすることでもない。
「魔石と浅層の素材です」
「あ、はい」
ニコルはザビンを無視してカレンさんに話しかける。
カレンさんは驚いたような顔をしている。
俺がニコルにザビンをぶっとばせ的なことを言ったからだろう。
カレンさんも俺が初級の身体強化を彼女に施したことは気づいていた。
でも、それでザビンが倒せるとは思っていないのだと思う。
俺も驚いたのだが、ニコルは本当に身体強化との相性がいいらしい。
一回の身体強化でも相当強くなったのだ。
しかも、パワーはほとんど上がらないのに、スピードがめちゃくちゃ速くなった。
研究をメインにする魔導師なら色々調べたがっただろう。
俺はあんまり興味ないけど。
魔法なんてのは使えればいいんだよ。使えれば。
「はっ! 浅層かよ!」
ザビンはバカにしたように笑う。
どうやら、挑発の方法を変えるつもりらしい。
お前も先月までは浅層に潜ってたんだろうに。
「パーティメンバーもゴミみたいなヤツみたいだな。お前とパーティを組むような奴は大した奴じゃないと思って……」
ヒュッと音を立てて隣にいたニコルが消える。
俺が振り返ると、ニコルはザビンにナイフを突きつけていた。
今までで一番スピードが出ていた気がする。
「私のことはなんと言ってもいいけど、ジンのことをバカにするのは許さない」
「ひ、ひぃ!」
ザビンは青い顔をして尻もちをつく。
相当驚いたようだ。
そして、次第に顔が赤く変わっていく。
ニコルに恐れをなして尻もちをついたといういまの状況を理解したらしい。
顔色をコロコロ変えて落ち着きのないやつだ。
「て、テメェ! 中層を探索してる俺様にこんなことしてタダで済むと思ってんのか!」
「他人から盗んだお金で装備だけ揃えて中層に行ったヤツなんて、敵じゃないよ」
「な!? おま。ば」
ザビンは台詞になっていない音をいくつも巻き散らす。
そんなことをしたら自首してるも同然だぞ?
実際、周りにはニコルに同情的な視線を送っているものも多い。
おそらく、彼らは今のやり取りで本当は誰が悪いのか気づいたのだろう。
ニコルが誰もパーティを組んでくれなかったって言ってたから、ニコルとザビンの事件のことを知っている探索者は多いんだと思う。
ザビンが喚き散らしていたおかげで今探索者ギルドにいる探索者はみんなザビンとニコルのことを見ている。
この調子だと、この話はすぐに広がりそうだ。
俺がいなくなった後もニコルはパーティを組めそうだな。
「ニコル! 覚えてろよ!」
そう言い残してザビンは去っていった。
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