最強魔法使い、パーティを組む。④

「あんらぁ~。ジンちゃん。昨日ぶり!」

「キャサリン。何度も悪いな」


 俺は探索者ギルドを出てその足でキャサリンの武具店に向かった。


 探索者ギルドにはニコルに厳しい視線を向けている人もいた。

 おそらくニコルが窃盗の容疑をかけられたことや、盗掘屋をやっていることを知っている探索者なんだろう。

 俺たちより後に帰ってきた探索者ほど厳しい視線を投げかけていた。

 俺がそっちの方を見ると全力で視線をそらされたけど。


 でも、ザビンとの一件を見ていた探索者はニコルに同情的な視線を向けていたし、あのザビンは嫌われてるっぽかったから、ほっといてもニコルの悪い噂は消えるんじゃないかと思う。


 それでも今探索者ギルドにいづらいのは変わらない。


 俺たちはそそくさと探索者ギルドを出てここにきたのだ。


「今度はいったいどういった用事ぃ~? 私の売ったものに何か問題でもあったぁ~?」

「いや、問題なく使えたよ。今度は彼女の装備をそろえてほしくて」

「彼女?」


 俺が自分の後ろにいたニコルを見る。

 ニコルは恐る恐る俺の背中から顔を出した。


 今日はキャサリンの武器店でニコルの装備を揃えようと思ったのだ。


「ジ、ジン。ここって無茶苦茶高い武具店じゃない? この街で最高級店だったはずだよ?」


 ニコルはキョロキョロと周りを見回す。

 可能な限り商品から離れようとしているようで、俺にしっかりしがみついてくる。


 確かに、高い商品を壊せばニコルの借金が倍になるからな。


 でも、ここの商品は武器や防具なのだ。

 そう簡単には壊れない。


「大丈夫だ。料金は俺が出すから」

「え!? 悪いよ」

「その代わり、中層で魔導書が見つかった時は俺にくれ」


 もともと俺は魔導書を求めてダンジョンに潜るつもりなのだ。

 魔導書は宝箱から出るが、相当高いものだ。

 割り勘にすれば相当な額を払わないといけない。

 その時それだけのお金が溜まっているかはわからない。


 じゃあ、今の内に恩を売っておいて、その時回収するのがいいだろう。


 ニコルならそんなことせずとも譲ってくれそうだが、それだと俺に罪悪感が残りそうだからな。


「そんな。私はジンのおかげでダンジョンに潜れてるんだから、拾得物は全部ジンのものでしょ? 分配はジンが決めればいいよ」

「さっきも言ったけど、そういうわけにもいかないだろ。俺もニコルがいないとダンジョンに潜れないんだからさ」


 ニコルはさっきも報酬を半々にしようと言ったら相当驚いていた。

 俺としてはニコルがいなければ魔石も素材も手に入らなかったんだから、ほとんどニコルのものだと思っていた。

 でも、俺の生活もあるし、ニコルの様子を確認するためにもとりあえず半分ずつでいいかっていうくらいの気持ちで聞いたんだけど。


 カレンさんの仲裁もあって、とりあえず半分ずつになったが、まだ納得はしていなかったようだ。

 この後宿も紹介してもらうつもりだから、その辺の話は後でもいいだろう。

 いつまでも武器屋にいると迷惑だろうし、さっさとニコルの装備を買って帰ろう。


 昨日はキャサリンに残業させちゃったしな。


「キャサリン?」

「は? ジンが、女の子を。つれてきた?」

「……キャサリン。地が出てるぞ」

「あ、あら~。かわいい子」


 俺が声をかけると、キャサリンはいつもの調子に戻った。

 そんなに俺が女の子を連れてきたのが意外か?

 ダンジョン探索のパートナーなんだから男も女もないだろうに。


 そして、キャサリンはニコルをつま先から頭のてっぺんまでなめるように見る。

 ニコルは少し居心地が悪そうにしていたが、これでキャサリンは大体の寸法とかを図っているらしいので勘弁してやってほしい。


 しばらくして、キャサリンは俺の方を向いて渋い顔をする。


「ジンはこの子と一緒にダンジョンに潜ることにしたの?」

「あぁ。解体係兼案内役をお願いしたんだ」

「でも、この子、大丈夫なの? 見た感じ最浅層を探索する装備みたいだけど」


 今のニコルは最浅層の装備を身に着けている。

 キャサリンは俺が中層に潜ろうとしていることを知っているから、最浅層の探索者を無理やり中層に連れて行こうとしていると思ったのかもしれない。


 いくらいい装備を身につけても最浅層を探索している探索者を中層に連れて行くのは無茶だ。

 どうやら、探索者は探索をしているうちに強くなっていくようなのだ。


 その辺を懸念したのだろう。


「この装備で浅層を探索しているらしい。なら、中層の装備で中層を探索するなら何とかなるだろ。今日、事故で中層にいるところで出会ったんだけど、大丈夫そうだったし」

「えぇ!」


 キャサリンは驚いた顔になる。

 そして、ニコルの肩をがっしりとつかむ。


「ひぃ!」

「どうしてそんな危険なことをしているの!? かわいいお顔に傷でもついたらどうするのよ!」

「いや、私の顔なんていくら傷ついても……」


 キャサリンの目がきらりと光った気がする。

 あ、これはダメなやつだ。


 キャサリンは独自の美学みたいなのを持っている。

 それに反するものは許せないらしい。

 そして、そうなるとだれにも止められなくなるのだ。


 俺は心の中でニコルに手を合わせた。


「私なんて、なんて言っちゃダメ。きっとおしゃれが足りないのね? 女の子はかわいくならないとだめよ」

「え? いや、私は」

「いいわ。私があなたを最高にかわいくしてあげる。大丈夫。中層の装備の中にもかわいい装備はいっぱいあるわ!」

「え? え?」


 ニコルは助けを求めるように俺の方を見る。

 俺はそっと視線をそらした。


 許してくれ。

 うっかり関わっちゃうとまた王子様とかお姫様が着るような服を着せられそうになるんだ。


「あきらめろ。そうなったキャサリンはだれにも止められない」

「そんなぁぁぁぁ」


 悲痛な悲鳴を残して、ニコルは連れ去られて行った。

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