最強魔法使い、パーティを組む。⑤

「はい! 完成!」

「おぉ!」


 しばらくして、店の奥からキャサリンに連れられるようにしてニコルが出てきた。


 出てきたニコルを見て俺は思わず感嘆の声を上げてしまう。

 さっきまでのみすぼらしい様子からは想像できないくらいの美少女がそこにはいた。


 色は髪や目の色に合わせたのか青系の装備ばかりで統一されている。

 服装はさっきより露出は上がったがいやらしい雰囲気はなく、健康的で活発な感じだ。

 ぼさぼさだった髪の毛は短く切りそろえられ、汚れを落とされて青みがかった銀色に輝いていた。


 かなり時間がかかっていたが、どうやら湯あみをしたり、髪を切ったりもしていたらしい。

 キャサリンは裁縫やネイルはもちろん、美容関係全般が得意だからな。

 髪を切るのも得意なのだ。

 俺の髪もキャサリンに切ってもらってるし。


「は、はずかしい」

「かわいいわよ、ニコルちゃん!」


 ニコルは恥ずかしそうにしているが、恥ずかしがることは何にもないと思うんだけど。


 ニコルに見惚れている俺にキャサリンはにやにやした顔で話しかけてくる。


「どう? ジン。ニコルちゃん。かわいくなったでしょ?」

「あぁ。かわいいと思うぞ」

「あぅ~」


 俺は素直に答える。

 ニコルは恥ずかしそうに顔を覆う。


 すまん。ニコル。

 こういう時に回りくどい言い方をしたりするとキャサリンから鉄拳が飛んでくるのだ。


 どうやら、俺の返事は合格点に到達していたらしく、キャサリンも満足そうにうなづいている。


 ニコルは恥ずかしそうにしているが、さっきまでのボロボロ装備とそこまで恥ずかしさは変わらないと思う。


「お値段はこれよ」

「な!?」


 キャサリンは俺に領収書を見せてくる。

 そこに書かれた値段を見て俺は目が飛び出しそうになった。


 俺の装備一式より高い。

 これを買ってしまうと俺の貯金が底を突いてしまう。

 それどころか、今日の探索の利益を足してもギリギリだ。


 というか、領収書の中に『秘密の装備♡」とか『秘密の武器♡』とかがいっぱい入ってるんだけど。

 最後の方なんてめんどくさくなったのか、五行くらいにわたって「ぜーんぶ秘密♡』とか書かれてるし。

 これはなんだ。


 いや、突っ込んだらきっといけないんだと思うけど。

 キャサリンの眼光がすごいことになってるし。

 思うけど、それが一番高いんだが……。


「あの~。高いんだったら、私は今までの装備でも」


 俺が驚いている様子を見て、ニコルは申し訳なさそうに俺の方を見る。

 ニコルが値段をのぞき込もうとしたところ、キャサリンはさっと領収書を隠してしまう。


「ニコルちゃんはお金のことは気にしなくていいのよぉ~。ジンがそんなかっこ悪いことするわけないもの。ねぇ?」

「く」


 見た目にも少しお金をかけているかもしれないが、性能もかなりいいはずだ。

 おそらく、同程度の装備を手に入れようと思うと、ここ以外の武器店でもこれと同じか、それ以上の値段がかかるだろう。

 キャサリンは無駄なことはしないという信頼はある。


 それに、ここ以外の武器店は俺も知らない。

 別のところに行くってことはできないのだ。


 それに、キャサリンほどの目利きができる武器屋はまずいないってレオナルドも言っていた。

 パートナーにはできるだけいい装備を身に着けて安全に探索してほしい。


 ただでさえ、いつもは浅層に潜っているニコルに中層に来てもらうのだ。

 装備代をケチったせいで大けがをしましたってなったら悔やんでも悔やみきれない。


 そして何より、払えない額じゃないというのが何ともいやらしい。

 こいつ。

 俺の所持金を知ってるんじゃないだろうな。


 足が出そうなら、そういって削れる部分を削ってもらうこともできたかもしれないのに。


 いや、キャサリンの場合、付けにしておくからって言われるか、店の装備の手入れや補修を手伝わされるかもしれない。

 前に一度お金がなかった時に手伝わされて地獄を見たことがある。


 俺は大きくため息を吐く。


「俺が払うよ」

「はーい。お買い上げ~ありがとうございま~す(ちっ。足りなかったようね)」


 俺だけにギリギリ聞こえる小声でキャサリンが舌打ちをする。

 こいつ。足りない分を俺に働かせる気満々だったな。


 キャサリンと目が合うとニコリと微笑み返してくる。


 く。殴りたい。

 一発殴ったら五百発くらい返ってきそうだから殴らないけどさ。

 肉弾戦では歯が立たないのだ。

 さすがに魔法を使うわけにもいかないし。


 俺は手早く支払いを済ませ、店を後にする。

 これ以上ここにいると、また何か買わされるかもしれない。


「まいどあり~。またきてね~」

「ありがとうございます。キャサリンさん」

「……ありがとな」


 店の外まで出てきて手を振ってくれるキャサリンにニコルは笑顔で手を振り返す。

 今日も遅い時間になってしまった。

 二日連続で残業させてしまったようだ。


 俺たちはキャサリンに見送られて武器店を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る