最強魔法使い、相棒と仲良くなる。①

「ほんとによかったの? こんなに高いもの買ってもらって」

「気にする必要ないよ」


 ニコルは武器店から出た後も何度も俺に確認してくる。

 たしかに結構な値段ではあったけど、払えない額じゃなかったし。

 今日の稼ぎのことも考えると、一か月潜っていれば取り返せる額だ。


 そうでなくても、ニコルをキャサリンのところに連れて行ってよかったと思う。

 ニコルはかなりの美少女になった。

 これを見られただけでもお金を払った価値はあると思う。


 街行く人々がニコルのことを振り返るのだ。

 こんな美少女を連れているだけでちょっと優越感を感じてしまう。

 なんか、魔導士団の団員に女に貢いでいる奴がいたけど、そいつの気持ちが少しわかってしまった。


「それより、ニコルのおすすめの料理店はこのあたりにあるのか?」

「そうだよ。料理店じゃなくて屋台だけどね」


 俺たちは夕飯を食べるために屋台通りに来ていた。

 このあたりにニコルのおすすめの屋台があるらしいのだ。

 屋台はあまりおいしいという印象がなかったのだが、大丈夫だろうか?


「あ、ここが言ってた美味しい場所だよ。おじさーん」


 ニコルは屋台に向かって走っていく。

 どうやら串焼きの屋台らしい。

 屋台では中年くらいのおじさんが熱心に串焼きを作っている。


 ……においからしておいしそうだ。

 さすがはニコルのおすすめということか。

 屋台とはいえ侮れない。


「おじさん。久しぶり。元気してた?」

「おぉ! ニコルちゃん。今おいしいの焼いてるからちょっと待って‥…って。ニコルちゃんか?」

「え? そうだよ?」


 ニコルは屋台のおじさんと話し始める。

 顔を上げた屋台のおじさんは驚いた顔をする。


 当然か。

 さっきまでのボロボロ衣装から一気にきれいになっちゃったからな。


 ビフォーアフターを見ていた俺も信じられないくらいの変わりようだった。


 屋台のおじさんはじろじろとニコルのことを見ているが、そうなるのも当然だ。


「え? なに? どうかした?」

「どうかしたはこっちのセリフだよ。エライべっぴんさんになってどうかしたのか?」

「えへへ。似合う?」

「似合う似合う」


 ニコルは屋台のおじさんと楽しそうに話し出す。

 おじさんはさっきまでいかめしい顔で串焼きを焼いていたのに、ニコニコと話し出してしまった。


 串焼きが焦げるんじゃないだろうか。


「ニコルちゃんがおめかししてるって?」

「あ! 金物屋のおばさん。今日はアイアントは居なかったからなにもないんだ。ごめんね」

「そんなの良いのよー」

「ニコルおねぇちゃんきれー!」

「たっくん。ありがとう。でも、ガールフレンドの前で他の女の人を褒めちゃダメだぞ」

「が、ガールフレンドじゃないわよ! で、でも、私もニコルは綺麗だと思うわ」


 ニコルはあっという間に街の人に囲まれてしまった。

 思ったよりこの街に溶け込んでるんだな。

 探索者なんて柄の悪い奴が多いから、てっきり街の人からは嫌われているものだと思っていたけど。


 いや、ニコルの人徳か。


 ニコニコと笑顔で町の人たちと話すニコルを見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。


 でも、これは晩ご飯はもう少しお預けかな。


***


「ごめんね。ジン。遅くなっちゃって」


 ニコルが街の人たちから解放されたのはしばらくたった後のことだった。

 俺も別に急ぎの用事があるわけではないし、待っているのは全然苦にならなかった。


「別に少しくらい良いよ。串焼き、美味しかったし」

「あそこの串焼き美味しいよね!」


 串焼きはニコルのおすすめの屋台というだけあって、かなりおいしかった。

 何の肉かわからないのが少し怖いところであるが、ソースがしっかりしみていてまた来たいなと思える味だった。


 ニコルとパーティを組むんだからまた来ることになるか。


「あ! ここが私の泊まってる宿だよ」


 しばらく歩いて、ニコルの泊まっている宿にたどり着いた。

 安くてサービスもいいといわれたので、そこに止まることにしたのだ。


 キャサリンのせいで俺の財布は寒くなってしまったからな。


「個室一泊二食付きで三千ぽっきり」

「安いな」


 その額なら今でも十分に払える。


「この辺りでは高めだよ。そのかわり、サービスが良いの。おかみさーん。ただいまー」


 ニコルが元気に宿の中に入っていく。

 どうやら、ここのおかみさんともニコルは仲良しらしい。


「あ。ニコルちゃんおかえり。実はニコルちゃんにお客さんが来てるの」

「お客さん?」

「あいつらよ」


 ニコルが宿に入っておかみさんに話しかけると、おかみさんからニコルに客が来ていると聞かされた。

 おかみさんの指さす方向を見ると、三人組の男女がロビーにあるテーブル席に腰かけていた。


 三人はニコルを見ると席から立ち上がる。

 ニコルは彼らを見て複雑そうな顔をしていた。

 おかみさんは不機嫌そうだし。


 あいつらは何者なんだろうか?


「朝からいるんだけど、あの人たち、ニコルちゃんの前のパーティメンバでしょ? ニコルちゃんにぬれぎぬを着せたっていう」


 ニコルがなぜ複雑な顔をしているかわかった。

 どうやら、彼らはザビンのパーティメンバーらしい。

 一体何の用事でニコルに会いに来たのか。


「ジン」

「一緒に行くよ。口は出さないから。それでいいだろ?」

「……ありがと」


 一体何の用事できたのかわからないが、ニコルは断らないだろう。

 優しいやつだからな。


 今俺にできることはニコルについていってやることだけだ。

 ニコルは不安そうにしていたのでついていった方がいいと思った。

 取り越し苦労かもしれないけどな。


 俺はニコルに付き従うようにニコルの元パーティメンバの待つ席へと向かった。

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