最強魔法使い、相棒と仲良くなる。②

「「「申し訳ありませんでした」」」


 俺たちが席の近くに立つと三人は深々と頭を下げてくる。

 ニコルは訳が分からなかったようで、目を白黒させている。


「な、三人とも。どうしたの」

「俺たち、ニコルに謝りに来たんだ」

「窃盗の件。ザビンが犯人だったんだろ」

「疑っちゃって、本当にごめん」


 三人は深々と頭を下げて謝る。


 三人は事情を詳しく話してくれた。

 あの事件があってしばらくしてからザビンがパーティから抜けたらしい。

 パーティから抜ける時、ザビンは真新しい装備を身に纏っていた。

 ニコルの補填金で手が届いたから中層の装備を買ったと言っていたが、補填金は大した額ではない。

 おかしいと思って三人で色々話し合ったそうだ。

 それで、ニコルでは絶対にできない犯行がいくつかあり、ザビンなら全ての犯行ができることに気がついた。


 その上、なぜか広がっていたニコルが窃盗犯であるという噂も出所がザビンだったそうだ。


「ニコルの誤解は必ずとく。本当にごめん」

「許してもらえるとは思ってない」

「謝罪だけはさせてください」


 三人からは謝罪の意思がひしひしと伝わってくる。


 謝罪をするために朝からニコルを待っていたらしい。

 ということは、さっきザビンがニコルにやられたから謝りにきたわけではないようだ。


 それに、本気でニコルの誤解を解くつもりらしい。

 そんなことをすれば、今や中層の探索者であるザビンに逆らうことになるというのに。


「三人とも。もういいから、頭を上げて」

「でも」


 三人は頭を上げない。


「私はもう大丈夫だから。一人での探索は大変だったけど、そのおかげでいい出会いもあったし」

「いい出会い? そういえば、ニコル。すごくきれいになってるな」


 三人のうち、リーダー格の一人が謝罪の姿勢のまま顔だけをあげる。

 どうやら、ニコルの容姿が綺麗になっていることに今気づいたらしい。


 容姿が変わってもニコルだと気づけるということは関係が壊れる前はいいパーティだったのかもしれないな。


 いや、おかみさんがニコルと呼んでるのが聞こえただけか。


「ありがと。だから。大丈夫だから」

「そっか。それで、相談なんだけど」


 三人はやっと頭を上げる。

 そして、話しづらそうにしだした。


 しまいには三人で押し付け合うようにこそこそと話し出してしまう。


「ん? なに?」

「これはここにくる前から誘おうと思ってたことなんだけど、また一緒にダンジョンに潜らないか? 今度は荷物持ちとしてじゃなく、ちゃんとパーティメンバーとして。装備はお詫びも兼ねて俺たちがそろえるからさ」


 リーダー格の少年が恥ずかしそうにそう言い出す。

 あぁ。思わず綺麗になってたから言い出しにくかったのか。


「ありがとう。でも、今はジンとパーティを組んじゃったから。また機会があればよろしく」

「そっか。そうだよな。わかった。あ。これ、俺たちの分の補填。ザビンの分も俺たちが出し合ったから」

「別にいいよ!」

「いや、これは俺たちがニコルから盗んだようなものだから。返させてくれ」


 ニコルは断ろうとしたが、相手は譲るつもりはないらしい。


 ニコルは少し迷った後受け取った。


「ありがとう」

「じゃあ、またな」


 三人はお金を渡すと帰っていった。

 ニコルは三人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。


「よかったのか?」

「うん。つらいこともあったけど、おかげでジンにも出会えたしね」


 ニコルはたまに恥ずかしいことをサラッというよな。


「そっか。でも、これで借金が返せるな」


 俺がそういうと、ニコルはさっき受け取った銀貨袋を覗き込んで苦々しい顔をする。


「……どうかしたのか?」

「この補填金。三分の一くらいしかないんだ」

「え?」


 あいつらがケチったのか?


 いや、そんなことをしそうな感じではなかった。

 ザビンの分まで三人で出し合ったみたいなことを言っていたし。


「たぶん、ザビンがほとんど持って行ったんだと思う」

「……あいつは。やっぱりぶっ飛ばした方がいいんじゃないか?」

「あはは。次あったら考えとくよ」


 ニコルは笑いながらそういう。


 多分次あっても手を出すことはないだろう。

 ニコルがそれでいいなら俺が言うべきことはない。

 これ以上ちょっかいを出してきそうだったらニコルのいないところでぶっ飛ばせばいい。


「もう遅い時間だし、宿をとっちゃお!」


 ニコルはそう言って俺の腕を引っ張ってカウンターの方に向かう。


「ニコルちゃん。大丈夫だったかい?」

「大丈夫。ありがとう。おかみさん。そんなことより、今日はお客さんを連れてきましたよ」

「お客さん?」


 おかみさんは俺の方を見る。

 おかみさんは爪先から頭の天辺まで舐め回すように確認してくる。


 俺が宿代を踏み倒すようなやつか値踏みしてるのかな?


「あの子もしかして、ニコルちゃんの彼氏?」

「違いますよー。パーティメンバーです。今日から一緒に潜ってるんです」

「あらそうなの。ニコルちゃんがきれいになってるからてっきり」


 違ったらしい。

 おかみさんはニヤニヤと俺の方を見てくる。

 これはまだ疑いがはれていない感じだな。


「もう。おかみさんったら。ジンのこと、よろしくお願いしますね」

「わかったわ」


 ニコルはそう言い残すと逃げるように宿の奥に消えていく。

 おそらく、自分の部屋に戻ったのだろう。


 ニコルが逃げてしまうと俺がこのおかみさんの対応をしなければいけなくなるんだけど。


「あなた。宿帳を書いてくれる?」

「あ、はい」


 俺はおかみさんから差し出された宿帳をかく。

 さっき、ニコルにしていたようなニヤニヤ笑いはしていない。


 おかみさんはニコルのことをからかってただけか。

 初めて会う相手に失礼になりそうなことは普通しないよな。


 ニコルもそれがわかっていてさっさと部屋に帰ったのかもしれない。


「ジンさんね。でも、いい人がニコルちゃんのパーティメンバーになってくれて助かったわ。いろいろあったでしょ?」

「聞きました」


 やっぱり、おかみさんも知っているらしい。

 街の人は知らなかったのに、それだけ親しいということだろう。


「あの子のこと、よろしくお願いね」

「……どれだけ一緒にいるかはわかりませんけど、一緒にいる間は頑張ります」

「そうね。お願いするわ」


 おかみさんはにっこりと微笑みかけてくれた。

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