ブラック魔導師団をクビになった最強魔法使い、探索者として楽しく生きる。~探索者生活が楽しすぎて今更戻れとか言われてももう遅い。大変だとか言われても ざまぁ としか思えません~

砂糖 多労

最強魔法使い、クビにされる。①

「は? 今なんと?」

「聞こえなかったか? 家柄だけでなく、耳も悪いんだな。ではもう一度だけ言ってやろう。 ジン。お前はクビだ。明日から来るな。早くその書類に署名して出て行け。国立魔導士団の面汚しめ!」


 俺は悪趣味なほどに装飾された支部長室に呼び出され、いきなりクビを言い渡された。


 俺の目の前に置かれている書類にも今日づけで退団になると書かれている。

 しかも、退団理由が自己都合による退団とか。

 そんな話はしていない。


「お前の経歴に傷がつかないように自己都合による退団にしてやったんだ。ありがたく思え」


 支部長はいやらしく笑う。


 俺のためなんて嘘だ。

 おそらく、いいクビの理由が思いつかなくてそうしたんだろう。


 支部長は団員をやめさせる権限を持っているが、理由がなければやめさせることはできない。

 俺はできるだけその理由を与えないように立ちまわっていたつもりだ。


 一年前に今の支部長に代わってから、孤児出身で魔力量が多い俺のことを目の敵にしていたからな。


「ちょっと待ってください。どうしてクビなんですか!? クビの理由を聞かせてください」

「そんなことわかりきっているだろ。お前が中級魔法を使えないからだ。初級魔法しか使えない魔道士など役に立たないではないか!」


 魔法には最下級、下級、中級、上級、超上級の五種類の階級が存在する。

 階級が違えば効果は千倍以上違う。


 魔法が使えるようになる方法は一つだけ。

 魔導書を使うことだ。


 魔力量さえ足りていれば誰でも魔導書を使って魔法を使えるようになる。


 だが、この魔導書はとても高価なのだ。

 特に中級以上になると一般人では手が出ない。

 魔導書さえあれば簡単に強くなれるため、貴族などがこぞって買い集めるからだ。


 初級であれば市民でも手が届くので、市民出身の魔導師団員はそれを使って入団する。

 そして、市民出身の団員は皆、魔法の訓練を繰り返して魔力量を上げる。

 効果が千分の一なら千発あてればいいだけだからな。


 入団後、三年ほど給料を貯めて中級魔法の魔道書を買うのだ。

 俺ももう二年国立魔導師団に所属しているので、あと一年ほどで買えるくらいにたまるはずだった。


「あと一年待ってください」

「そんなに待てる訳ないだろ。今日中に荷物をまとめて出て行け。書くまでこの部屋から出ることは許さん」


 支部長はニヤニヤした顔で俺を見る。


 それはまずい。


 あと三十分ほどで全体訓練の時間となる。


 今日は外部から魔術格闘術の教官を呼んでいる。

 その人が支部長の上位互換みたいな人で、権力とプライドだけが取り柄みたいな人なのだ。

 遅刻なんてすればそれを理由にクビにされかねない。

 実際にクビにされた団員がいるとの噂だ。


 そうでなくても、支部長がクビにする方向に動くだろう。


 ちらりと入口の方を見ると支部長の子飼いの団員が数名扉を守っている。

 一対一なら負けることはないだろうが、この人数差では勝ち目がない。


 戦闘でこの部屋のものを壊せばそれを理由にクビにするだろう。


 入口の所に立っている団員は支部長が自分の権限で何とかするのか。

 いや、この支部長なら切り捨ててもおかしくないな。


(くそ! どうして今なんだ! この前市民出身の支部長が出たのが原因か?)


 支部長には上級魔法を使えることが必須条件だ。

 ダンジョンのスタンピードなどの時に出てくるスタンピードの主は上級魔法を使わないと倒せない。

 だから、魔導師団の支部長は上級魔法を使えるものがなることになっているのだ。


 上級魔法を使えるものは少ないので上級魔法さえ使えれば支部長になることができる。

 言ってしまえば金さえあれば誰でも支部長になれるのだ。

 この支部長がなれるんだからな。


 国立魔導師団はもともとダンジョンのスタンピードなどといった非常時の対策を目的としている。

 そのため、各支部はダンジョンなどの災害が起きやすい場所に設置されている。

 特にダンジョンは魔導書を始め、アイテムなどが取れる鉱山のようなものなので周りに町が出来上がっており、早急の対応が必要になる。

 この支部もダンジョンのある街に設置された支部だ。


 ダンジョンの主を倒すことができる上級魔法を使える支部長はこの街では街を管理している貴族以上に権力を持っている。


 先月、市民出身の団員が上級魔法を習得してどこかの支部の支部長になったと言う話を聞いた。

 貴族主義の支部長としてはそれが許せなかったのだろう。


 つまり、ただの八つ当たりだ。


 くそ。

 妙に手が込んでるな。

 考えたのは絶対支部長じゃないぞ。


「仕方ない。では一つチャンスをやろう」

「チャンス。ですか?」


 俺が必死に打開策を考えていると、支部長はいやらしい顔で笑いかけてくる。


「一ヶ月だ。一ヶ月以内に中級魔法が使えるようになれば団に再雇用してやろう」

「一ヶ月!?」


 一ヶ月で中級魔法を使えるようになるなんて無理だ。


 たとえお金がなんとかなったとしても、魔導書が出るかどうかも問題になる。

 魔導書はダンジョンでたまに見つかるだけなので、実際に手に入るかも未知数だ。


 実質的に不可能だといっていい。

 だから支部長もそれを交換条件にしてきたんだろう。

 だが、このまま手をこまねいていてもいい方法が思いつくとも思えない。


「どうした? チャンスはやっただろ? いやならすぐ出て行ってくれてもいいんだぞ?」

「わかり……ました。その条件をこの書類に書いてください。支部長が提案してくださったことなので大丈夫ですよね」

「……ちっ。面倒な」


 支部長はめんどくさそうに書類に条件を書き足す。

 書類に書かないと条件を達成しても踏み倒されるかもしれないからな。

 いや、この支部長なら絶対に踏み倒す。


 今、これ以上の方法は思いつかない。


 このまま時間だけが過ぎて、クビになるのはまずい。

 国立魔導士団をクビになった人間なんてどこでも雇ってもらえない。


 権力者はいつもそうだ。

 無理難題を押し付けてくる。

 それで失敗したら責任を全部部下に押し付けて自分が正しかったと主張する。


 自分がやらせたくせに、そのことはなかったかのように振る舞うのだ。

 そうさせないために細かいことでもちゃんと書面に残しておかないと。


「ほら。書いてやったぞ。これでいいか?」

「……はい」


 俺は支部長が条件を書き足した書類に署名をする。


「荷物をまとめてすぐに出て行け。一か月以内に中級魔法が使えるようになったら帰ってきてもいいぞ。まあ無理だろうけどな」

「はい」


 俺は急ぎ足で部屋を後にする。

 なんとか一ヶ月で中級魔法を習得する方法を考えないといけない。

 せっかく、国立魔導師団に入れたんだ。

 こんなところでクビになってたまるか!


 俺はその場を後にした。

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