最強魔法使い、反撃する②
「おい! ジンの奴はまだ見つからないのか!」
「へぇ。今方々に手をやって探しているんですが、どうもすばしっこいらしく」
『酔い狼』のギルドマスターのパウルは魔導士団の支部長から叱責を受けていた。
支部長は先程今日の仕事が終わったらしく、『酔い狼』のギルドハウスにやってきた。
来た直後、まだジンを見つけていないと言うと激昂した。
今日はちょくちょく顔を出して文句を言って去っていく。
正直、なんの情報をくれるわけでもないので邪魔だからこないで欲しいんだが。
こいつがちょくちょくここに来るせいでパウルはこの場所を離れられないのだし。
確かに、今日中に捕まえられなかったのはパウル達にも落ち度があるかもしれない。
だが、支部長が持ってきたジンの情報が見当違いだったのがいちばんの原因だ。
ジンがあそこまで強いとは思わなかったし、あんなに仲間がいるとは聞いていない。
パウルは最初に襲ったときにジンが予想以上に強く、何人もの手駒を失った。
それ以降も、どうやら探索者の多くが邪魔をしているらしく、思うように探索が進んでいない。
探索者資格を停止させたから襲うのは簡単だと言っていたのに。
探索者ギルド経由でなくても力を貸す探索者がいるなら探索者資格を停止しても意味がないじゃないか
「まったく。使えない奴め」
「申し訳ありません。見つかればすぐに連絡しますので、自宅でお待ちください」
「早く見つけて私の前に連れてこい! 良いな!」
支部長はそう言い残して部屋から出て行く。
もう夜も遅い。
支部長は帰ったら寝るだろう。
明日の朝までは連絡に行けば対応してもらえない。
そのくせ、朝一に行っても遅いと言ってまたキレるのだろう。
明日の朝一に連絡する必要があるな。
機嫌の悪い支部長に対応できるものを選定しておかないといけないとパウルは考えていた。
「まったく。自分では何もできないくせに偉そうなやつですね」
「そういうな。あいつが権力だけ持った無能だから俺たちはおいしい汁を吸えてるんだしな」
腹心の部下が思わずため息を吐いたパウルに話しかける。
パウルは苦笑いをしながら部下をなだめる。
『酔い狼』はあの支部長からの汚れ仕事を今までたくさん請け負ってきた。
商家を襲撃したり、冒険者を殺したりやったことはいろいろだが、いつもあいつがもみ消してくれるおかげで足はついていない。
そのうえ、ちゃんと捜査がされないからそこで奪ったものを簡単に流すことができる。
ほんとにいい客だ。
『酔い狼』がここまで大きくなれたのもあの支部長のおかげだ。
厄介ごとも持ち込んでこられるので困った客でもあるが。
「ですが、今回の仕事はあまりいい仕事ではないんではないですか? 冒険者一人を捕まえるだけですよね?」
「そんなことはないさ。あの冒険者は最近出てきた『移動砲台』らしいからな」
「……噂の」
『移動砲台』と『機動衛星』という二人組が中層で有名になっている。
ダンジョンを我が物顔で歩き回り、豊富な魔力量で道中のモンスターを薙ぎ払う『移動砲台』のジン。
ジンの傍らに控えていて、必要なときは動き回り、解体も戦闘もなんでもこなす『機動衛星』のニコル。
二人はここ一週間でいきなり名が売れ出した探索者だ。
いきなり出てくるなんて、何かからくりがあるに決まっている。
いくら元宮廷魔導士といっても一人では大したことはできないんだからな。
そういう探索者はたまにいるので、大体の予想はつく。
「どうせ、何か特殊なアイテムを見つけたとかだろう。生きて引き渡せば手足の一本や二本無くなっていてもいいといわれてるんだ。荷物は全部こっちで回収して問題ないだろ」
「我々もついに中層進出ですか」
『酔い狼』はまだ低層を中心に活動している。
中層に進出できる実力がないからだ。
同規模の闇ギルドは中層で活動しているから可能な限り早く中層に進出しておきたいと思っていた。
『移動砲台』が中層で活躍するのに使ってるアイテムが手に入れば俺たちも念願の中層進出ができる。
「まさに一石二鳥。ということですね」
「そうだな」
パウルが今後のことに思いをはせていると、一人の男が入ってきた。
入ってきたのは何度か見たことのある男だ。
名前は覚えていないが。
「ギルドマスター! ターゲットを捕まえました」
部屋に入ってきた男は人が一人くらい入りそうな麻袋を地面に投げ捨てる。
あの中にターゲットのジンが入っているんだろう。
「遅かったな」
「も、申し訳ありません。逃げ回るやつを捕まえるのにてこずりまして」
「……まあいい」
パウルは麻袋の隣に立つ。
「引き渡す前にどうやって中層で活躍したのか聞いておかないとな」
パウルは手に持ったナイフで麻袋を切りさく。
中からは一人の薄汚い男が出てくる。
「ん?」
その男の頬には酔い狼の紋章の刺青がある。
こいつは明らかにジンではない。
「おい。これはどういう……」
「『プチファイヤ』!」
パウルがさっき入ってきた男に「どういうことだ!」と問い詰めようとすると、男はパウルに向かって『プチファイヤ』を放った。
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