最強魔法使い、ウッドドラゴンと戦う⑤
「『ファイヤ』!」
「ZYAAAAAAAAAA!」
俺が『ファイヤ』を打ち込むと、ウッドドラゴンは悲鳴を上げる。
やはりかなり効いているらしい。
心なしか傷も広がっているような気がする。
このまま傷を広げていけば俺以外の魔法使いも攻撃をできるようになるかもしれない。
ウッドドラゴンは苛立たしげな様子で俺の方を見る。
そして、ウッドドラゴンは上体を大きく起き上がらせる。
前足で攻撃するつもりかな?
それとも押しつぶすつもりか。
「ニコル!」
「了解!」
ウッドドラゴンが俺の方を向いたのでニコルが移動させてくれる。
移動した直後、ズシンという低い音が響く。
押しつぶすつもりだったらしい。
あのままあの場所にいれば真っ赤なしみになっていただろう。
だけど、恐怖は全然ない。
ニコルならちゃんと避けてくれると信じてるからな。
今はそんなことよりも気になることがある。
「なあ、おろしてくれないか」
「別にこのままでよくない? どうせまた移動するんだし」
ニコルは俺を下ろしてくれない。
いわゆるお姫様抱っこの姿勢だ。
ニコルの言っていることは正しいが、衆人環視の中この体制は恥ずかしいんだが。
「でも……」
「あ、見つかった。舌噛むから黙っていたほうがいいよ」
「うわ!」
そして、俺がさっきまでいたところにしっぽが振り下ろされる。
どうやら、俺が有効打を与えたせいで完全に標的としてロックオンされたらしい。
周りが狙われなくなったという意味では助かるな。
それに、どうやら、ブレスは連発できるものではないらしい。
ブレスは最初の一度だけだ。
「それよりさ、ジン。さっきから一発ずつしか撃ってないけど、いつもみたいに連続攻撃はしないの?」
「中級魔法ではやったことないけどやってみるか」
俺が中級魔法を覚えたのは三日前だ。
それ以来ダンジョンには潜ってない。
それどころか、『酔い狼』に追いかけられていたので、練習する時間もなかったのだ。
並列起動は意外と精神を使うから慣れない魔法ではやりにくい。
だが、やれないわけではない。
暴発するものでもないし、やってみるか。
「『ファイヤ』!」
百の魔法がドラゴンめがけて飛んでいく。
やはり精度が甘くて半分くらいは明後日の方向に飛んでいく。
そして、チュドーンという大きな音を立てて着弾した。
「ZYAAAAAAAAAA!ZYAAAAAAAAAA!」
ウッドドラゴンはもだえ苦しむ。
半分くらいはそれたのに、相当効いたらしい。
音もすごかったしな。
「やばい」
「そうだね。すごい威力」
「いや、そうじゃなくて、今ので魔力が相当持っていかれた」
「えぇ!」
中級魔法はやはり魔力消費が大きい。
それをあれだけの数使えば相当の魔力を持っていかれる。
それに、たぶんなれていない魔法で並列起動したせいでかなり無駄に魔力を使った気がする。
初級魔法を百発打ったより魔力消費が大きい。
「魔力回復薬はもうないから、今のは後三、いや、二発しか打てない気がする」
「二発で倒せるかな?」
「わからん」
レオナルドが手を振っている。
ウッドドラゴンは今それどころじゃなさそうだ。
「ちょっと呼んでるみたいだからレオナルドの方に行ってもらっていいか?」
「わかった」
ニコルに抱えられたままレオナルドの前に移動する。
「お暑いね。お二人さん」
「「そんなことのために呼んだの(かよ)。ぶん殴るぞ(よ)」」
「わー。待った待った。そうじゃなくて、あいつのからだを見てくれ」
「からだ?」
俺はウッドドラゴンを見る。
ウッドドラゴンはもだえ苦しんでいる。
おそらく、体についた火を消そうとしているのだろう。
さっきの『ファイヤ』のおかげでウッドドラゴンの傷口にちゃんと火が付いたからな。
傷口を地面にこすりつけている。
泥だらけになる様子からは先ほどまでのような恐怖は感じない。
間抜けには見えるが、何かあるようには見えない。
「何かあるか?」
「さっきの攻撃する前より体の攻撃してないところにも傷が広がってるだろ? あれたぶん、前支部長が残した傷だと思うんだ。さっきのジンの攻撃で開きかけてるんじゃないか?」
レオナルドの言う通り、体には無数の裂け目が走っていた。
その裂け目はからだの下の方まで続いており、攻撃しやすそうなところにもかなりの数ついている。
かなり大きい傷もあるしな。
「さっきのをもう一回やって完全に傷を開けば」
「ほかのやつの攻撃も通るようになる?」
「そういうことよ。これ、最後の魔力回復薬。みんなに言って隠し持ってたのまで全部出してもらったわ」
キャサリンが数本の魔力回復薬を俺に渡してくる。
これを飲めば一回くらいはさっきのを使える回数が増えるだろう。
いや、出し惜しみせずに一度に三百発全部ぶつけるべきか。
「ニコルちゃんの身体強化ももうそこまで持たないでしょ? ダメだったら、その時はみんなで逃げましょ。二人は私が運んであげるわ」
「それもそうだな」
ニコルに身体強化をかけてからすでに二十分以上は立っている。
戦えるのは後五分くらいだろう。
ニコルがいなければ俺も戦えないので、俺が魔力を残していても無意味だ。
「ZYAAAAAAA!]」
どうやら、ウッドドラゴンは火を消せたらしく、俺たちの方を向く。
大層お怒りのようだ。
さっきより眼光がきつくなっている。
レオナルドとキャサリンは巻き込まれないように急いで逃げ去っていった。
「ニコル」
「翼に接近しろ。でしょ?」
俺が言おうとしたことを先にニコルに言われてしまう。
翼に近づけば精度が低くても魔法を当てることができる。
だから、できるだけ翼に近づいてほしかったのだ。
「よくわかったな」
「わかるよ。相棒のことだもん」
俺たちは二人で笑いあう。
近づけば命の危険が増す。
失敗すればおそらく死んでしまうだろう。
だが、ニコルと二人なら失敗する気がしなかった。
「「じゃあ、行こうか」」
俺たちは最後の攻撃をするために駆け出した。
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