最強魔法使い、クビにされる。③
「せっかく国立魔導師団員になれたってのに!」
俺は少し焦りながら部屋の片付けをしていた。
俺の荷物は大した量ではない。
だが、中級魔法の魔導書を手に入れる方法を考えているうちにかなりの時間が経っていたらしい。
気づけば同室のレオナルドが訓練を終えて部屋に戻ってきていた。
つまり、もうすぐ夜ということだ。
今日中に寮を出ろと言われたので、おそらく夕食後の閉門時間までに出て行かないといけないだろう。
もしもその後に寮に残っていたらつかまって牢屋にでも放り込まれるかもしれない。
あの支部長ならやりかねない。
期間は一か月しかないのに、それはまずい。
「その。なんだ。災難だったな」
同室のレオナルドが話しかけてくる。
こいつはこの国立魔道士団で数少ない気が許せる相手だ。
金髪碧眼のイケメンだが、気取ったところがない。
性格がいいので、俺と違って団内に友達も多いらしい。
そのうえ、詳しくは知らないがかなり高位の貴族出身らしい。
魔導師団は実力主義がモットーなので、家名は名乗らない。
それでも、レオナルドは所作なんかから気品が感じられるのだ。
この金髪は地毛らしいので、もしかしたら王族に近い家系なのかもしれない。
皆に特別扱いしないでほしいとレオナルドは言っているのに位の高い貴族出身の先輩の何人かは彼に敬語を使っている。
おそらくあの人たちはレオナルドの出身を知っているんだろう。
天は人に二物も三物も与えるのだな。
俺には何もくれなかったのに。
レオナルドなら神様もひいきしてしまっても仕方ないかもしれないが。
心までイケメンだから。
「今の団長は純血主義だからな」
純血主義。
貴族の血統を大事にする考え方だ。
大事にすると言えば聞こえはいいが、どちらかというと貴族以外を人間としてみていないって感じだ。
支部長以外にも純血主義の魔導師団員はいるが、皆俺のことをまるでドブネズミのように扱ってくる。
そんな中でも支部長は一番ひどい。
支部長はコネで国立魔導師団に入団していて、実力も大したことがない。
そのせいか努力して国立魔導師団に入った俺みたいな奴を目の敵にしている。
王立魔導師団に入るにはいくつかのパターンがあるが、ほとんどは貴族が国立魔導師団員になるルートだ。
唯一平民がなれるのが王立の魔導師学校を主席で卒業する方法だ。
俺は孤児院出身で、必死で勉強してその切符を勝ち取った。
かなり努力したおかげで魔法の実力はかなり高いと思う。
魔力量だけなら団で一二を争うくらいなんじゃないだろうか。
平民出身の俺なんかには他の団員の情報は手に入らないから詳しいことはわからないが。
「どうするつもりなんだ?」
俺が一息ついたときにレオナルドが心配そうに話しかけてくる。
荷物は一まとめにして縛り上げ終わった。
次の行動は決めている。
と言うか、他に魔導書を手に入れるいい方法が思いつかなかった。
「ダンジョンに潜る!」
「えぇ!」
レオナルドは驚きの声を上げる。
魔導書はダンジョンで見つかる。
なら、自分で潜って探しにいけばいい。
単純な論理だ。
「魔導書が見つかるのはダンジョンのかなり深い階層だったはずだ。そんなところまで潜るなんて。ジン、死ぬぞ?」
「危険は承知の上だ。せっかく手に入れた出世コースをこんなところで棒に振ってたまるかよ!」
レオナルドは俺のことを心配してくれる。
ダンジョンはかなり危険な場所だと聞く。
この方法は危険な方法なので色々と別の手段を考えてみた。
だが、結局時間が過ぎていっただけだった。
中級魔法の魔導書はダンジョンの中層と呼ばれる場所で見つかる。
この中層は最浅層、浅層の次の三つ目の階層になる。
魔導師団員が十人のグループになってモンスターの間引きをするのが浅層で中層には絶対にいかない。
中層は浅層の千倍危険だと言われている。
浅層でも数年に一度、ミスをした団員が命を落としている。
中層などに行けばかなりの確率で命を落とすだろう。
だけど、ここで諦めるわけにはいかない。
ここまでかなり苦労をしてきた。
孤児院出身だと侮られながらも魔導師学園に入り。
主席をキープし続け。
魔導士団に入ってからも下働きのような仕事でも率先してやってきた。
魔導士団の中での成績も悪くない。
功績をかなり譲っているけど、すべての功績を合わせれば俺は同期でトップだと思う。
「ジン。冷静になれ。ダンジョンで魔導書を見つける。それも一ヶ月で見つけるなんて無理だ。出世だけが人生じゃない。国立魔道士団を止めてもーー」
「レオナルドにはわからないよ!」
「……ジン」
レオナルドは少し悲しそうな顔をする。
「……ごめん。レオナルド」
「僕の方こそ、ごめん」
俺が謝ると、レオナルドも謝ってくる。
だが、レオナルドに俺の気持ちはわからないだろう。
わかるはずがない。
レオナルドは貴族だ。
これまでも、これからも敬われる側の人間だ。
泥水をすすって生きてきた俺の気持ちなんて彼にはわかるはずがない。
俺は絶対に出世して、偉くなって、今まで俺をバカにしてきた奴らを見返してやるんだ!
「大丈夫さ。ちゃんと生きて帰ってくる」
「でも、ダンジョンのかなり深いところに潜るんだろ? 仲間とかはどうするんだ?」
俺ができるだけ明るく言うと、レオナルドはまだ心配したように声をかけてくる。
「俺は相当な魔法の使い手だ。冒険者なら魔法使いは引く手数多だろ? 仲間を引き連れてさっさと行って、さっさと帰ってくるさ」
魔法使いはエリートだ。
この場所ではなかなか評価されなかったが、外でなら俺は引く手数多なはずだ。
それも元とはいえ魔法使いの中の魔法使いである国立魔導師団員だ。
ダンジョンに潜る探索者にも魔法使いはいるらしいが、そんなのは落ちこぼれの中の落ちこぼれ。
エリートの俺となら誰だって一緒に探索したいだろう。
俺はカバン一つに収まってしまった俺の荷物を担ぎ上げる。
「じゃあ、一日も早くあのクソ支部長の鼻を明かしたいから俺はもう行くぜ」
「……無理はするんじゃないぞ」
「わかってるよ」
俺はレオナルドに背を向けて寮を出た。
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