最強魔法使い、ダンジョンをさまよう。①
「『プチファイヤー』」
「GAAAAAAA」
俺が放ったこぶし大の火の玉が当たると大きな蝙蝠は断末魔の悲鳴を上げて地面に落ちる。
ピクリとも動かなくなったので無事倒すことができたんだろう。
「ふう。これでいったい何体目だっけ?」
出会い頭にモンスターを倒しているので、何体倒したかもわからない。
ほんとは倒した魔物から魔石とかの取り出せば売れるらしいのだが、それすらしてないからな。
一体目を倒した時は取り出そうとしたのだ。
だが、ナイフとかを持ってきていなかったので、うまく解体できなかった。
仕方なく『プチウインド』の魔法で風の刃を生み出して斬り刻んで見たのだが、魔石っぽいものは見つからなかった。
そのうちばらばらになったモンスターの死骸をダンジョンの掃除屋と呼ばれるスライムが消化しだしたので、解体をあきらめることにした。
ナイフなどの解体道具はもちろん、何がどう売却できるのかも俺は知らない。
確かこの蝙蝠も皮膜とかが売れたはずだが、どうやって取り外すんだろうか?
まず、『プチファイヤー』の炎で黒焦げになってるからこれではだめだろう。
ほんとに準備が足りてなかったな。
「収穫はあったからいいか。俺の能力では浅層では問題ない」
もうかなりの時間浅層を潜っている。
だが、出てくるモンスターには全然苦戦しない。
そこまでの数出てくるわけでもないし、魔力の回復量のほうが使用量よりも多い。
この調子ならずっと潜り続けていても大丈夫だろう。
「しかし、弱いな」
どのモンスターも『プチファイヤー』一発で倒せてしまう。
むしろ、『プチファイヤー』でオーバーキル状態だ。
おかげで素材まで黒焦げにしてしまっている。
次からは別の魔法で倒した方がいいのだろうか?
……どうせ解体できないんだし別にいいか。
でも、これなら中層のモンスターも大したことないかもしれないな。
ザビンでも中層に行けるくらいだ。
俺一人でも中層のモンスターも簡単に倒せるんじゃないか?
「いや、油断禁物だ」
死んでしまっては元も子もない。
安全第一。
レオナルドもキャサリンもパーティを組むことを勧めてきたのだ。
俺のことを知っている二人がそういうのだから、俺にはパーティが必要なのだろう。
まずはパーティメンバーを何とかして見つけないと。
今日のあれで俺が元国立騎士団員だとほとんどの探索者が知ったからパーティはかなり難しいかもしれないが。
注目されてるからと思って宣伝してみたんだが、まさか裏目に出るとは。
「……今日は様子見のつもりだったし、そろそろ帰るか」
もともと今日ダンジョンに潜ったのは探索者ギルドでの空気に耐えきれなかったからだ。
もうかなり時間がたっているから、探索者ギルドは人がいなくなっているだろう。
そろそろ帰っても大丈夫だろう。
これ以上探索していると昼時に帰ってきた探索者でまた探索者ギルドが混雑するかもしれないしな。
浅層や最浅層を探索する探索者は昼食も外でとる人が多いらしいし。
「しかし、ここはどこだ? というか、どっちから来たんだっけ?」
俺は立ち止まって辺りを見回す。
代り映えのしない岩丸出しのダンジョンが広がっている。
ここに来てやっと俺は状況のまずさに気づいた。
ダンジョンは代り映えのしない光景がずっと続く。
だから、まず潜る前に地図とかでどこをどう進むか決めておく必要がある。
前に読んだ本にそんなことが書かれていた気がする。
俺は何も考えずにここまで進んできたので、どの道をどう通ったのかもうろ覚えだ。
今どっちの道から来たのかもわからない。
たぶんこの蝙蝠みたいなモンスターが落ちていないほうから来たんだと思うが、それも自信を持てない。
「そうだ。地図! カレンさんに地図をもらってたんだ! それを確認しよう」
俺はさっきカレンさんから地図をもらった。
浅層の地図ももらったからその地図を確認すれば今どこにいるかわかるだろう。
ふぅ。
危うく迷子になったかと思った。
「さて、ここはどこかな」
地図を取り出してみる。
そこにはミミズがのたうち回ったような線が引かれているだけだ。
ところどころに記号のようなものが書かれている。
だが、それが何を表するかもわからない。
この地図は読み方があってそれを知らないと地図を読むことすらできないんじゃないだろうか?
「……もしかして、詰んだ?」
ダンジョンで迷子とかシャレにならない。
今日はそこまで長く潜るつもりもなかったので非常食なんかも持ってきていない。
誰かに道を聞こうにも、あたりに人影はない。
……そういえば、ダンジョンに入った直後は何度か人の気配を感じたが、最近は感じていない。
気づかないうちにかなり深くに来てしまったんじゃないだろうか。
背中に嫌な汗が流れる。
「そ、そうだ。レオナルドがこういう時の対処法を教えてくれていたじゃないか! たしか、右手を壁について移動すればいいんだ!」
レオナルドはダンジョンに詳しいらしく、迷ったときの対処法とかも教えてくれた。
右手をずっと壁についていれば、必ず外に出られるといっていた。
「右手をついて。よし、進もう! これで外に出られるはずだ!」
俺は意気揚々と前進を始めた。
この時、俺は知らなかったことではあるが、右手をついていても必ず外に出られるわけではない。
入口からずっと壁に手をついていれば別だが、途中からではうまくいかない。
ただ、この方法をとっていると、迷ったと周りから見てわかるので、周りの探索者が手を貸してくれる。
しかし、明らかに高価そうなローブに身を包んだ俺に話しかけてくれる人がいるかは謎だ。
それを知っていても俺がやることは変わらないだろうが。
そして、二時間くらい代り映えのしない道を進んでいると、少しだけ変わったものを見つけた。
「お? 階段だ。ダンジョンの中に階段みたいな人工建造物なんてあるんだな」
通路の突き当りに下り階段があり、その階段は下へと伸びている。
少し驚いたが、そこまで驚くほどのものでもないかもしれない。
最初に発見されたダンジョンの探索日記を読んだ事がある。
というか、ダンジョン関係の資料は機密レベルが高くてそれくらいしか市民の俺では読めなかったのだ。
探索者同士ではいろいろな情報が口頭で共有されているらしいが、友達の少ない俺はその辺は詳しくない。
そこには、階層間を移動する魔法陣の周りに神殿のような見事な建物が立っていたと記載があった。
もしかしたらこの先に階層転移の魔法陣があるのかもしれない。
確か、魔法陣に触れなければ階層は移動しないはずだ。
この階段は魔法陣には見えないし、大丈夫だろ。
「おっと右手右手」
俺は右手を壁から離さないように気を付けながらその階段を下りて行った。
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