終章
エピローグ
どきどきしながら、私は、久々にスクーターへ跨がった。グリップを握り、壁を消し、エンジンを掛け始める。よし、動いたぞ。
「姉ちゃん!」
私は、上体だけで玄関の方へ振り返りながら、
「なあに?」
「いや、無理しないでね!」
思わず、笑いそうになった。
「へえ? 私が、仕事で無理なんかする奴に見える?」
この私の叫び返しを受けて、何故か、愚弟が一瞬寂しげな表情を見せた気がした。しかし、一度瞬きをした後にはいつもの彼だったので、気のせいだったかも知れない。
「とにかく、行ってくるね!」
私は、もう振り返らずに発進した。もうすぐ、久々に鎗田さんと会えるのだ。運転しながら、鼻歌が出そうになる。半年分私の記憶が飛んでしまっているらしいから、普通の相手なら齟齬が心配になるけど、大雑把な彼女なら、まぁ正直どうでも良い話だろう。きっと、変わらぬ笑顔で迎えてくれるに違いない。ただ、彼女の右手が麻痺してしまったという事についてだけは心配だから、しっかり助けてあげないとな。私が複写すると、大分良くなるらしいけど。
もう少しで今日の営業場所という交差点で、赤信号に遮られた。仕方なくマシンを停めると、
もう、憂う事は何も無い。私は残りの人生をずっと幸福に生きられるのではないかと、そう思わされるような、とても気分の良い
(了)
結局、貴女ばかり映ずる鏡 敗綱 喑嘩 @Iridescent_Null
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