第一章 非日常への旅立ちの前日譚

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 さぁ仕事へ出掛けようじゃないかと、玄関を出て軒先に停めているそれの方へ歩いていくと、私のスクーターは今朝上がったばかりの雨の残滓をそのサイドミラーに数滴湛えており、ビーズのようなそれらは、ただでさえ爽やかな朝の空気へ更なる清涼感までをももたらしてくれているのであった。ついちょっと頬を綻ばせてから、座席の水分を払い除け、えいやと腰掛けてグリップを握る。そして右手から魔力を籠め、愛機の制禦中枢へ意識をアクセスさせ始めた。脳裡にぼんやりと靄に包まれた景色が泛かび、そこの中央辺りへの意識の集中を深めると、やがて、古ぼけた煉瓦壁が幻視の中に現れて私の意識を迎えるのである。そのままじっと――数秒のことなのだがとにかくじっと――、集中し続けると、私の魔力の波形を指紋の様な識別子として認識した煉瓦壁は、すっと、蜃気楼であったかの様に姿を消すのだ。つまり、私の魔力が原動機へ通ずるようになったということで、私は満足して意識を現実の方へ向け直す。クラッチを切り、ギアを入れ、通じた道を介して魔力を原動機へ注ぎ始めた。五百、千、千五百、二千と回転数が上がり、これを見ると何故だかいつもつい嬉しくなってしまう。そのままクラッチを入れて行き、気分良く発進した。

 幾つかの交差点を経て、得意の顧客――と呼ぶには少々馴れ馴れしすぎる間柄になって久しいが、とにかくその様な相手――の元へ漸く辿り着く。彼女、鎗田そうだ玲子れいこは、いつもの様に洒落た屋台を大公園の良い所に設えていた。二十、……六歳だったか確か? その割には私とそう変わらないようにも見える彼女は、内巻きのボブヘアの中の顔をそれなりには真剣に引き締めつつ、せっせと白を基調とした洒脱な屋台の影の中で準備を進めていたのだが、こちらに気が付くと、いつもの様にっと笑って、両の笑窪を深く穿った。

「遅いじゃない、すずちゃん。」

 近付いた私は、溜め息をいてから一応、

「出来たら、その呼び方やめて欲しいんですけど、」

「あら、まだ諦めてなかったんだ。」

「クライアントとあんまり馴れ合うのは、一応、」

「でもさ涼ちゃん、私としては、ちょっと値の張るアルバイトを雇っている気しかしていないのだけど、」

「何度も言いますけど、そう思うのは勝手ですけど、私と鎗田さんの関係は雇傭でもなんでもないですからね?」

「でもさ、岩をも通すって言うじゃない?」彼女は、発砲でも見立てているのか右手で作ったL字を宙で何度か跳ねさせながら、「懲りもせずそう繰り返し続けていれば、いつか私の願いが叶って本当に加々宮かがみやすずがウチの可愛い看板娘に、」

「そもそも、」私は屋台の端に手を掛けながら、「鎗田さんの商売って、法人化とか登記とかちゃんとしているんですか? 雇うとか言い出すのなら、」

 この言葉を聞いた鎗田さんは、突然知らぬ名を訊ねられたかの様にきょとんと小首を傾げたので、私はつい額の辺りへ手をやりつつ、屋台の内へ回って、

「折角だからお店の準備手伝いますよ、ラインナップはいつもと同じですか?」

「あら、見上げた精神。いい看板娘になれるわね。」

「鎗田さんの口って、少しは減らないんですか?」

「ちょっと褒めたらそんな態度、……教育してあげなきゃ駄目かしら。」

「間に合っていますよ、高校は三年半前に出たんですから。」

 そうして二人でがちゃがちゃと屋台の中の細々こまごましたものを設置し終えると、ちらほらと客がやって来始めた。

「ああ、済みませんお客さん。もうちょっとだけ待って下さい。」

 そう言いながら慌ただしげに鎗田さんが立てた右手をこちらに伸ばしてくるので、少しだけ意地悪してやろうとも一瞬思ったが、(私の、ではなく、この店〝ファウンテン〟の方の)お客様を困らせる訳にもと、また、先程あんな真面目ぶったことを言った手前、一応私も自分の鎗田さんクライアントに対して真摯に接せねばなるまいとすぐ思い直し、素直に私の方も右手を伸ばし返して、手の平を合わせつつ互いの五指を絡めた。

 重なった皮膚を通じ、彼女の魔力の搏動はくどうを感じる。そのリズムに私の方の搏動も合わせていくと、やがて、私の意識が私達の手中に没入していくのだ。つまり、私の意識の所在あるいは幻視の視点は、二人分の体熱に囲まれながら、私自身の肉体のそれを背負いつつ、彼女の、存外に逞しい手の平を前にする。一歩、その中へ踏み込む。本来そうあるべきそれ、つまり肉と骨と神経のグロテスクな姿と異なり、銀河から飛び出して翔けているかの如く闇の中に煌々きらきらと星が泛かんでいる広大な光景の中を、そのまま遡り、二の腕、肩と経て、彼女の胸へ、具体的には心臓の位置へ到達していく。そこに、恒星の如く泛かびつつ熱と光を放っている彼女の魔術系の核が存在するのだ。その中へ、飛び込んでいく。それぞれがあまりに白々しい、熱と光りの嵐の中で、全身が焦がされそうになる程の、幻の、しかし激甚な苦痛を一瞬感じるが、顔を顰めぬ様に耐えているとすぐその苦痛は消え、むず痒さを経て、やがて、不思議なホイップクリームの中に沈み込んで全身から法悦が沁み込んで来ている様な感触に陥るのだ。しかしその至福もやはり一瞬裡に終わり、彼女の核の核、つまり彼女の魔術系の中枢へ漸く到達する。そこに有る、彼女の場合は像が辛うじて写り込むほどに深い菫色の、鏡の中へ、私の意識は減速すること無く飛び込んで行き、

 

「オッケーです、鎗田さん。」

 現実の方へ意識を取り戻した私が、ふうと一息吐いてからそう伝えると、「ありがと」とだけ呟いて、しかし急がねばならない情況にもかかわらずこちらへしっかり笑みと笑窪を向けてくれてから、彼女はお客さんの方へ直って、

「お待たせしました、御註文は? ……Lサイズのメロン一つとカラメル三つ、アイスは載せて良いですか?」

 そうやってお客さんと応対しつつ「すず、ブラックスリー、」と声を張ってくるので、私は急いでドリンクを作り始めた。Lサイズの紙カップをまず一つ取り出し、引き出して来た玲子スペシャル――カラメルやらシロップやら種々のスパイスやらで作られていると言う醤油色の、しかしフルーティな良い香りのする液体。私もレシピは知らない――のボトルから、紙カップの七分まで注ぎ込む。そして、小型のベルソン式冷凍庫の蓋扉を開け、そこから氷を摘み上げてカップの中へ放りこんでから、続けて硬めのヴァニラアイスクリームをお玉のようなスプーンでと一匙掬い取り、殆ど黒い玲子スペシャルの上に泛かべてみせるのだ。

 さて、これだけだと只管に甘ったるいフロートが出来上がっただけであり、また、本当に只の喫茶アルバイトじみた仕事しかしていないことになってしまうが、鎗田さんが私を、つまり複写魔術師をわざわざ雇っているのには一応ちゃんとした理由が有る訳で、ここからが私の本領発揮という訳である。先程手と手を重ねての儀式を経て私の中に複写コピーしてきた彼女の魔術、〝カーボネートラヴァー〟を、今こそ用いてみせるのだ。右手でカップを軽く持ち、その中身へちょっと意識を向ける。するとすぐに、大気中の、魔術によって桃色に淡く着色して見える炭酸瓦斯が、私の魔力の流れに捕まってカップの中へ溶け込んでいき、ぷくぷくと泡立つ、この店ファウンテンの主力商品、スパークリングカラメルブレンドフロートが完成するのだった。彼女自慢の配合によるスパイスの香りが、沸き立つ気圧によって運ばれて来て、心地よさを感じさせる。鎗田さんのカーボネートラヴァー自体は他に類を見ないレア物に属する魔術であるが、しかし程度と言うか、それを行使する難度や負担はそこまでのものでもなく、複写さえしてしまえばとても容易に、このような発泡ドリンク作成はこなせてしまうのだった。

 そんな訳で、いつも通り、複写魔術師としての仕事よりも寧ろ氷やらクリームやらの扱いの方に手を焼きつつ、とにかくカラメルなんたらを三個仕上げると、鎗田さんの方は、お客さんとの遣り取りや勘定が有ったのにもかかわらず、既にメロン系の発泡フロートを自分で完成させていた。そのまま慣れた手つきで私の方のフロート三個も回収して、溢さないように気をつけて下さいねー、なんて付け加えながらお客さんへ渡してしまう。家族連れの夫婦、だったかな、よく見えなかったけども、

 

 そんな風に暫く慌ただしく働いていると、お客さんの切れ目で、

「涼ちゃん、そっちはまだアイス残ってる?」

「ええっと、……もう殆ど無いですね。二人分くらい?」

「よし!」鎗田さんは、自分も覗き込んでいた、彼女の方が使っていた冷凍庫の蓋を、ちょっと風圧を感じるくらいの勢いでバタンと閉じて、「店仕舞いにしましょっか。今日は昨日よりも暖かかったから、さっさと売れちゃったわね。」

「いつも思うんですけど、」私は、比較的叮嚀ていねいに閉じてから、「もっとしっかり仕入れというか準備をしておいた方が、商売になるんじゃないですか? 今日なんて、まだ二時半ですよ?」

「確かに今日は思ったより早く売れちゃったけど、」余程もう店を閉めたいのか、鎗田さんは反対側へ手早く回り、紐を引いて屋台の前幕をするすると巻き上げながら、「でも、別に良いじゃない。馬鹿みたいに準備してそれを売り捌く為に毎日ひいひい言うよりはさ、適当に売りたい分だけ用意して、さっさと売り切ってお家に帰った方が幸せよ。」

「言うことは分かりますけど、……鎗田さんって、良く食べていけますよね?」

「あら、生意気じゃない。」カウンター越しに、言葉面とは裏腹に何故か嬉しそうな顔で、「小娘の癖して、わざわざ私の商売の心配なんかしてくれるだなんて、」

「まず、小娘呼ばわりされるほど齡も離れていないでしょうというのも有りますけど、……それはともかくとして、何たって、このお店の人件費については私完全に把握していますからね。」

「あら、産業スパイ?」

「私しか雇っていないでしょって意味と、正直安くないでしょうって意味ですよ。」

「おっと」笑窪の上で目を細めながら、「『雇う』、ですって! やっぱり涼ちゃんは、心の中ではウチの専属娘になりたくて、」

 ……あ、

 つい見上げて、首を振りながら、「あー、もう。面倒くさい人ですね本当に。こっちは一応真面目に心配していたのに、」

「とにかく、炭酸屋の他にも細々こまごま商売しているから大丈夫よ。でも、確かにちょっと今日は貴女をお代の分使ってあげられなかったから、せめて冷凍庫達のバッテリー、私の代わりに充力チャージしてもらっていいかしら?」

「ええっと、」一応考えてから、「構いませんよ。別に、今日は何か大それたことする予定も無いので、」

 注力口を探し、冷凍庫の横腹に有ったそれ、銀色の円盤に右手を当てて目一杯に私の魔力を溜め込ませてやった。大した負担も覚えぬ内に、張る風船の様な抵抗、つまりこれ以上入らないというサインを返して来たので、そのままもう一方の冷凍庫も充力しつつ、

「これ、どれくらい持つんですか?」

「んー。満タンで蓋空けなきゃ、二日か三日くらい?」

「結構、持つんですね。」

「さて!」表の看板やらを片づけ終わったらしく、鎗田さんはこちらに戻ってきてから、「二人分、アイス残っているのよね? 半端に残っていても面倒だから、屋台ばらして私の車に積んだ後で頂いちゃいましょうよ。 たまには、御馳走するわ!」


 日が少し傾いて幾らか黄色くなった陽光の下の、だだ広く人気の無い、最早荒寥とした駐車場の片隅で、彼女のおおきな白い車に寄りかかりながら私は鎗田さんと立ち並んでいた。こうしてしまうと私の方がずっと背の低いのがあらわになってしまい、不本意ながら彼女が私を屡〻しばしば小娘扱いするのにも納得しかけてしまう。冷凍庫から搔き取って透明なプラスチック皿に盛りつけた、真っ白で可愛らしいヴァニラクリームの半球は、表面が象皮の様に罅割れ、その奥処から涼やかな煙を立ち上らせている。これを顔の高さまで捧げてみると、アイス球の影の上から、防風林の青いポプラが二三顔を覗かせ、恰も薄荷の葉を盛りつけたような印象を与えた。皿を手許に引き戻してから、ヴァニラの薫るそれを匙でつんつんつつき、掬い取って口へ運ぶ。その冷たさと甘さでつい頬を綻ばし、二口目三口目と満喫してから、美味しいですね、とでも声を掛けようと視線を送った鎗田さんの顔は、しかし、いつの間にか、なんだかとてもつまらなそうな表情となっていたのだった。いや、つまらなさそうというか、伏し目で、……真剣そうで?

「涼。」暫く後、その手許の丸いままのアイスが、すっかり溶けたミルクで濡れ包まれた頃に、「確かに私の減らず口は前からだったろうけど、……でもさ、ここ最近は本当に思っていたのよ。貴女が、本当に、私と一緒に働いてくれるならな、って。」

 その、伏していた両の目が持ち上がり、こっちをしっかり見据えて、

「だってさ、……貴女、危ないことしようとしているでしょ?」

 私は、ちょっと退け反って固唾を飲んでから、

「聞いたんですか、誰から?」

「私、意外と顔広くてさ、」彼女は、自分のアイス皿を車体の上ヘ逃しつつ、「やめなさいよ、そんなことしようだなんてさ。分かってるの? 貴女が、今度複写の仕事を受けようとしている、アイツらがどんな連中かって、」

 ちょっと逡巡したが、頷いてから、

「分かって、……ますよ。」

「なら!」両肩が、矢庭に、軋むほど力強く摑まれた。弾みで、私の、殆ど食べ切れていなかったヴァニラアイスが皿ごと地面に転がっていき、純白だったそれが、アスファルトの上の土や砂を舐めとりながら汚れていく。「やめてよ、本当に、……ねぇ、なんであんなマフィア染みた、あるいはマフィアそのものな連中なんかと関わりになんかに行くのよ。ねぇ、お金が足りないなら、大丈夫だからさ、貴女が私の許に来てくれるならちゃんと毎日屋台出せるし、いいえ、なんならこんな行商じゃなくて、まともなお店を構えたっていい。そうしたら、私頑張るから。だからさ、……お願いだから、」

 痛みと当惑とで声が顫えながらも、私は、何とか、「鎗田、さん、」と絞り出し、彼女を軽く押し退けてから、

「お金じゃないんです、お金じゃ、」

 普段の飄々とした彼女からは信じられないような、消え入るようだった哀願へ応える代わりに、私は、意を決して、

「実は私達、私と銀大ぎんたは、お父さんとお母さんの仇を取りたいとずっと思ってたんです。」

「……仇?」

 そう呟いて益々眉を悲痛そうに寄せる、彼女へ向かって、しかし私は引き返すわけにもいかずに一つ息を吸ってから、

「私の父母って、……所謂いわゆる、〝災炎の魔女〟に殺されているんですよ。アイツの起こした火災現場で、」

 これを聞いた鎗田さんは、口許を押さえつつ、

「そう、だったの。……貴女の父母が亡くなられていたことまでは、聞いていたけど、」

「確か、そう、でしたよね。多分それも有って、鎗田さんは私のことを色々想ってくれているんでしょうけど、」

 私は、自分の双眸が出来る限り力強いものになっていることを望みつつ、しっかり彼女の顔を見据えて、

「私は、どうしても〝災炎の魔女〟を捕まえてやりたいんです。罪を償わせてやりたいんです。でも、この国の警察は、どうしても、……頼りないから、」

「頼りないから、」鎗田さんは、低い声で、「自分がなんとかして見せようって? ヤクザ紛いの連中とつるんで、そういう世界に踏み込めばきな臭い情報も手に入るだろうって? ……貴女ね、幾らなんでも馬鹿げて

「馬鹿でもなんでも!」思わず、彼女の両の二の腕へ摑みかかってしまっていた。「やらなきゃ、……生きている意味って有るんですか? 父さんと母さんと殺した不倶戴天の敵が、まだのうのうと伸さばって火を放って、多くの人達を殺めているのに、……指を咥えていなきゃいけないなら、私の意味って何なんですか? 私の人生って、或いは、……父さんと母さんの生きて来ていた意味って、……何なんですか?」

 誤魔化す為に、私は顔を伏した。しかし、堪え切れずに、何滴かの涙で地面に染みを作ってしまう。

 私を待っていてくれたのか、それとも言葉を探していたのか、鎗田さんは、ずっと経ってから漸く、

「皺になるから、放して。」

「あ、えっと、御免なさい、」

「いいえ、」慌てて離れ、顔を上げると、「私こそ本当に御免なさい、そんな辛い話をさせてしまって。……でも、貴女の決意は分かった。そして、もう二度と引き止めはしないわ。」

 彼女は笑顔で、でも、見たことの無い寂しげな笑みだった。

「だけど、私からは今後止めないけど、貴女の方からもしも私を頼ってくれるなら、つまり疲れ果てたり何かに負けたりして平和な世界に戻ってきたくなるなら、私は待っているわ。その時は、本当に一緒に仕事をしていきましょうよ。貴女が望むならだけど、ね。」

 そう言ってから、何処からか取り出してきた手巾ハンカチで私の目元を拭ってくれる。その手が、ふるえているのが分かった。

「だから、思いっきり戦って来なさいな。何もかも失っても、私が待っててあげる。命だけは大切にして、でもそれ以外は怖れずに貫いてらっしゃい。」

 この言葉に、寧ろ歔欷きょきを深めてしまいそうになった私は、努力してこらえて、そして笑ってから、

「大袈裟、ですよ鎗田さん。何も生き別れるわけじゃないですし、それにそういう仕事が無い日はこれからも今日みたいにファウンテンで働かせてもらうんですから、」

「でも、貴女はこれから非合法な魔術師、所謂〝魔女〟になろうとしている。ならば、暗いものかもしれないけど、とにかく船出なのだわ。危険な海、世界への船出。なら、大袈裟すぎることなんてあり得ないわよ。」

 彼女は、すっかり溶け切った自分のアイス皿を、引っ摑んで呷ってから、

「アイス、ぶちまけちゃって御免なさいね。また今度こそ御馳走してあげる。……さ、今日はもう大丈夫。あとは私が勝手に片づけておくから、もう行きなさいな。」

「いや、手伝いますよ。このまますぐ、目が張れたまま帰ったら、銀大を驚かせちゃいますから。」

 私の方の皿を拾う為に屈むと、白い甘い水溜まりへ、もう蟻がしかつめらしい列を為してたかっていた。

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