第31話 (バスタオル)
(バスタオル)
「はぁ…」
制服の上から水泳用のバスタオルを肩にかける雪葉がこれまた絵になる。
机に突っ伏して雪葉を眺めていると、頬杖をついた雪葉がこちらを横目に見て、興味を失ったように視線を前に戻した。
つれない彼女だ、と思う。
「どうしたの…?ため息なんて…バカな悠人には似合わない…。あと見つめるのやめて…」
「なんでっ…なんでっ…」
辛辣な言葉は聞かなかったことにしよう。反応するだけ傷つくだけでいいことがない。
ただでさえしんなりと枯れた俺の心は『バカ』なんて言葉は受け付けていなかった。
廊下から叫び声が聞こえてくる…休み時間。座学だの性教育だの騒ぐ男どもも、いざ授業が始まってから去年を思い出し、嘆くのだろう。
先ほどのこのクラスの授業は体育。この学校は男女混合授業だ…だからっ!俺はこの学校に入ったというのに!
「何で水泳と座学は別なんだよぉぉぉっ!」
「…へんたい…セクハラ…キモ…」
「悠人安心しろ!このクラスの男子全員が同じ事を考えてるから!」
「ザキヤマ、勝手に僕をその男子に含めないでくれるかい?」
去年の今日を思い出す。
今日は座学だ性教育だと
しかし…体育の時間、教室には女子がおらず、ただ
それは今年も同じだった。
せめてもの慰めに、と雪葉を眺める。
雪葉のしっぽりとぬれた髪の毛、特に毛先。しれは先ほどまでの授業がプールであったことを何よりも物語っている。
つやを持ったその髪は、絶対触ると心地いい。
とても触りたい、とても触りたい。ただただそう、願うのみだ。
「…なら悠人、願うだけにしたらどう?」
「ちょっと私もドン引きかな~…?なんで無意識に頭をなでることができるのかな…?」
ハナサキとユユギハラの呆れた声で目が覚めた。手がぬれている、しっとりした何かに包まれている、心が穏やかになる…っ!?…もしかして俺って雪葉の頭撫でてる!?
「「もしかしなくてもそう」」
二人のハモり越えに、雪葉の耳が真っ赤に染まっていった。
「……///」
いつもなら変態と叫んでいる私が、なぜ叫ばないか。
頭に感じる悠人の暖かい手に、叫びそうになる体…それを押さえるために私は自分の心に説明した。
これは…その…髪が濡れてたら悠人が拭いてくれるかな…?ってちょっと期待してる…から…///…手、振り払ったら絶対拭いてくれないし…。
っ!いやっ…ゆ、悠人は私の下僕だからこれぐらいやって当然でっ…私は悠人のお仕事を奪わない優しいご主人様なだけっ///
バカな私っ、わかった!?
え…!?悠人って私の執事…?
じゃあこの前ハナちゃんに連れてかれた執事喫茶みたいな感じで私の事お世話してくれるの…!?『お帰りなさいませ、雪葉様…』とかっ、言ってくれるの…!?
悠人の執事服とか絶対カッコいいしっ…ご主人様と使用人の禁断の恋とかもうサイコー…///
やばい…考えただけでうれしくなってきた…。ね、そう思わない?私?
…私も…好きかも…そういうの…///
もうちょっと待っても拭いてくれなさそうだったら自分からおねだりしようかな…?
「きゃぁぁぁっ…!…///…イイかも…///」
頭に乗せた手を振り払うこともせず、一人でもだえ出した雪葉。
かたまっていると、ユユギハラが口を開いた。
「悠人君、雪葉ちゃんは髪拭いてほしいな~って思ってるの」
「…
「私たちの愛の力。雪葉ちゃんの考えてることなんて一瞬でわかるからねっ!ね~ハナちゃん!」
「そ、私たちはとっても強い愛の力で…!」
「…お、おう…」
…疑わしいけど、やってみることにした。
いや?別に雪葉の髪を拭きたいわけじゃねぇぞ?
若干興奮気味なユユギハラに引きつつ、俺は雪葉の肩に掛かるバスタオルを取ろうとする…その瞬間、雪葉がこちらを振り返って、小さな声で言った。
「…悠人…頭、拭いてくれる…?///」
「…っ!…わ、わかった…///」
雪葉から誘ってきた!?
あ、いや、ここで固まってたらチャンスを逃してしまうっ…。
バスタオルを取り、雪葉の髪に滑らせる。もちろん、少女漫画にありそうな台詞付きで。
「あ~あ、雪葉こんなに髪の毛ぬらしてたらだめだろ?俺が拭いてやるからじっとしてろ」
「っ…!」
キタキタキタキタ!悠人が私の髪の毛を拭いてる!私!やっぱりこれイイ!
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っ、コレ…ぃぃかも…///
「にゃ…きもちぃ…///」
「…」
沈黙、約0.0001秒。
その間の思考。
①きもちい⇒もっとやってほしい⇒次もやって⇒水着も拭いて。
3つ目の矢印の証明を思いついたがこの余白に書くにはスペースがなさ過ぎる。
と、フェルマー先生を見習ってシラを切ることにした。
②ねこっ、猫雪葉!ねこっ…ねこだっ!
「じゃあついでに次の授業は俺が水着も着せてやるし、体も拭いてやるよ。子猫さん」
「…いいの…?…やった…?…っ!?」
…いいんだ、へぇ…いいんだっ!?いいの!?
つかの間、雪葉が言葉の意味に気づいたのか、俺の手を振り払って呪詛を唱えだす。
「変態変質者スケベ痴漢犯罪者人間のクズ地獄に行って帰ってくるな!」
「グォッ…!ウガッ…」
そして言葉の最後に合わせて裏拳、掌底突きのダブルコンボ。
素人に空手の技を使うなと叫ぶ間もなく撃沈された俺に、その後の雪葉の照れ声なんて理解できなかった。
「っ…!じ、地獄に行ったら私も行くから勝手に帰ってくるなっ…!」
地獄に行かれたら悲しいから…というか、離ればなれになるのはイヤだし、言霊なんて宿ってほしくないからそう付け加えた…。
と、誰もがそう思うだろうけど!これは悠人へのフォローなだけで別にそんなこと思ってないからっ…///
PS:展開がハチャメチャだったので、ゆったりしたお話をオマケに。
【おまけ】
「あまえたい…」
「?悠人どうしたの…?」
「あまえたい…」
「…っ、わ、私に!?」
「それ以外に誰がいるんだよ…。髪、拭いてくれ…」
冗談でそう、言ってみる。
今日の水泳の授業で、スク水の女子がいないことに撃沈。故に俺は元気がなかった。
甘えたい、そう思ったのは水泳の後の心地よいだるさのせいだ。
「…か、髪を拭けばいいの…?」
「っ!?いいのか…?」
「そ、それがお願いなんだったら…と、特別に!…やったげる…///」
雪葉が立ち上がって俺の後ろに回る。そしてバスタオルを取り、俺の頭に乗せた。
心地よく指が俺の頭皮を刺激する。眠くなってきた…。
「…どう…?痛くない…?」
「…あぁ、サイコーだ…。いい…」
サイコー⇒次もやって⇒いつもやって⇒お風呂上がりも…っ。
その定理がどうして成り立ったのか、私は誰に聞けばいいのだろうか。
「い、家にまで行って拭いてあげるかっ…!そ、そんなことするわけないからっ…!」
「ふぁ!?」
悠人が大声を出したせいで視線が集まる。羞恥心で体があつくなってきた。
恥ずかしくなると、人はものにしがみつきたくなる。だから私は目の前のバスタオルで覆われた
「…け…結婚したら…ま、毎日でも…拭くけど…っ~!///」
「…じゃっ…じゃあ俺も拭いてや
この後、我に返った時には、悠人は誰かに殴られたのか、気絶して倒れていた。
PS:どこがゆったりしているんだ…?
星、ハート、よろしくおねがいします。
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