【連載版】俺のツンデレ彼女がかわいすぎる件
小笠原 雪兎(ゆきと)
俺の彼女
第1話(教科書・クレープ)
この作品の砂糖成分は全て、皆様より供給されますお星様によって構成されております。是非とも、よろしくおねがいします。
【始】 俺のツンデレ彼女が可愛すぎる件
俺が罰ゲームで告白した相手はクールで少し冷たい、特に俺に対してはトゲトゲしいクラスメイト。
セミロングのストレートヘア。サラサラで触ったら絶対に気持ちいい。俺はそう信じてる。
『美しい』よりも『カッコイイ』が先に出てしまう容姿、『可愛い』なんてのは釣り合わない。ついでに俺にも釣り合わないと思っていた。
何はともあれ罰ゲーム、フラれることを前提で告白する。
どうせフラれるからと、罰ゲームでの告白にはなんの緊張も罪悪感も抱かなかった。
「好きです! 付き合って下さい!」
そしたら——返ってきた言葉は、予想だにしないものだった。
「……っ、わ、分かった。今私フリーだし、仕方ないから、付き合ってあげる……。い、今フリーだからだよ!? インターバル中のお遊び相手にしてあげるっ、から」
そんなビッチみたいなセリフと裏腹に、彼女はとても恥ずかしげな声で言い、頬を赤く染めて深々と頭を下げてきた。
どうやら、OKされたようだと気づいたのは、完全下校を促すチャイムのおかげ。そこで俺が『いや、罰ゲームです』とか言えるわけがなくて——今に至る。
(教科書・クレープ)
「悠人、これもって」
「おう。分かった」
俺は渡されたそれをもって、彼女の横を歩く。
下校、夕日がまぶしいひと時である。
一見この圧倒的超存在たる俺が雪葉の荷物持ちになっているように見えるし、実際そうでもあるが、そうではないとも言える。
何を難しいことを言っているのか、俺もわからなくなってきた。
「今日は悠人がクレープ奢る日。覚えてる……よね?」
「忘れてないって。何味が食べたい?」
少し思案する。
「……キウイがいい……」
「じゃあ俺は苺にするかな?」
校門を抜けて坂を上がる。この先によく行くクレープ屋があるのだ。
俺が持っているのは教科書一冊。ここがミソ。俺が荷物持ちじゃないことは一目瞭然だ。と、いうか、なぜ教科書一冊? と首をかしげるだろう。
俺も当初は首を傾げたものだ。傾げすぎて首がろくろ首みたいに長くなるかと思った。
*
「悠人、荷物」
「ん?」
告白した翌日の終礼後、俺がリュックに教科書を仕舞っていると雪葉がその一冊を奪った。
「もってあげる」
「へ?」
そして勝手に教室を出た雪葉。
何だ今の行為。
一瞬ぼけっとしてから、取られた教科書が明日の課題に必要なものだと気づき、あわてて雪葉を追いかけてその横を歩く。
彼女の歩調が速いのもあって話し掛けにくく、口を開けばデタラメな方言が出てきた。
「あの〜雪葉さん? なして持つん? どないしたん? 話聞こか?」
「——もってあげる。だから持ってる……」
意味不明な返事と共に、さらに教科書を強く抱きかかえる雪葉。
いやそれ理由になってねーし、とツッコんでも返してくれそうにない。かといって無理やり取り返すのも紳士じゃないと思い、数秒の思考。
荷物持ち、とは? と俺は思った。俺の荷物はやく4キロ。彼女が持つのは教科書たった一冊。
はてな、とつぶやきたくなった。
「教科書一冊てどういうこと?」
「じゃ、じゃぁ……全部持つから」
「いや、そういうことじゃなくてさ……」
会話のキャッチボールにえげつない回転がかかっているせいもあるが、雪葉は途切れ途切れにしか言葉を交わさないこともあって、雪葉が俺の教科書を抱きしめる意図は理解できなかった。
そろそろ帰路が分岐するけど——と思ったらその大通りの交差点で返してくれた。
教科書が温かみに変な妄想をするのは男の性だ。
「明日ももってあげる」
「……あ、ありがとう? で返答あってんのか?てか持たなくていいんだけど——」
「じゃあね」
「あ、おう」
会話をぶった切るようなさよならの挨拶に返すと、彼女はもう坂を下っていた。
それからの日々、持たなくていい、と俺が言うのも聞かず毎日毎日俺の教科書を、シャーペンを持ち続ける雪葉。
そして付き合い始めて一週間、ようやく雪葉の行動の意味がわかった。
「なぁ雪葉。別に持つ必要ないからな?」
別に持ってくれなくても一緒に帰るけど。と、その後に続くはずの言葉を隠しながら教科書をいつものように抱きかかえる雪葉にそう言う。
それを何と勘違いしたのか悲しそうな顔をしてこちらを見上げ、雪葉は駄々をこねるように言った。
「やだ。もってあげるからっ、持ちたい……」
俺の予想は間違っていなかった。やっぱりこの子、俺に『一緒に帰ろ』と言うのが恥ずかしくて、俺と一緒に帰るために毎日毎日、教科書とかシャーペンとかを持っているようだ。
意外と……ツンデレ!? だとしたら、ちょっと可愛い。いや、かなり可愛い。
数秒考えてから言う。
「じゃあさ、俺が持つよ。それでも結局、一緒に帰れるだろ?」
「え? あ、別に一緒に帰りたいわけじゃ無いしっ!」
「いや、持ちたい。俺に、雪葉の教科書持たせてくれ」
「ぇ……。わわ、分かった。でも、今日は私が持つ……」
そう言って雪葉は赤い顔でぎゅっと教科書を抱きかかえる。目をギュってしてるのが可愛らしかった。
俺が教科書になれたら……なんて思ってないったらない。
*
「クレープ奢る」
「……分かった。ありがとな」
付き合い始めて4週間目。坂を上ったところにあるクレープ屋の前で雪葉がそう言った。もしやと考えるまでもなく、これは初のデート、とは言えないが初の道草デートではある。
つまりデートである。
女の子に奢らせるのは阻止せねばな。
ちょっとの時間で考えてから返答し、少し長めの列に入る。
「雪葉はどれにする?」
「……苺のSサイズ」
「おっけ。じゃあ俺はキウイにするか」
さりげなく雪葉の注文を聞きつつ、その目線にキウイクレープの写真があるのを確認し、こっそり財布に手をかける。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ?」
「いち——」
「苺とキウイ1つずつ、どっちもSサイズでお願いします」
雪葉の言葉を遮って、千円札を出しながら言うと、店員さんは少し困ったような顔を見せつつも、裏方にオーダーを伝えた。
雪葉が怒ったような顔で俺を見て口を開く。
「悠人、私が払うから――」
「いいって、今回に関しては俺が払いたい」
「でも、それじゃあ借りができるから……」
「気にしないんだけどなぁ。じゃあ来週、借りは返してくれよ?」
「……うん。わかった」
逡巡の後、嬉しそうにはにかむ雪葉。奢るとかじゃなくて『一緒に食べたい』って言えばいいのに。
恥ずかしがっちゃって、全く。ツンデレは可愛い。
――包み隠さず言えば、とても好きになっていた。たった数週間でツンデレが俺の性癖ランクのトップに食い込んでいた。
俺が『また来週一緒に食べような?』言えなかったはその言葉が思い浮かばなかっただけ。俺が恥ずかしく思ったわけでは無い。それだけだ。
そう、はたと思考が数秒前に立ち返ってブーメランが飛んできたのに対して、言い訳をこぼした。
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